とある女魔王の結婚3
とっても久々! セネセネ様視点。
取り合えず側近がやらかします。
妾は女魔王、セネアイーディ。
今は名実共に花も恥らう、妙齢の大人の女じゃ。(←ここ大事)
そんな妾は今、魔王用に設えられた高段より試合を見物しておる。
魔族の一大行事『武闘大会』は今大会も盛況に次ぐ盛況じゃ。
特に今大会は妾が本来の姿を取り戻して初の参戦となる故、大人としての妾のお披露目という意味合いも兼ね備えておる。
今までは子供の姿じゃからと、遠慮されていたことじゃ。
………各部門の優勝者達には、悉く試合を辞退されておったからの。
優勝者に与えられる最も名誉なこと、現魔王との対戦。
それを毎度毎度、「恐れ多い」等という魔族とは思えぬ理由で固辞され続けてきたのじゃ。この大会には子供も参戦しておるというのに、何故に妾だけ子供扱い?
ほんに、子供の姿は不便以外の何物でもない…。
じゃが、それも終いじゃ。
今の妾は誰がどう見ても、正真正銘の妙齢の大人!(←ここ大事)
この姿であれば、誰も妾との手合わせを辞退などしようものか!
妾は今から楽しみでならぬ。
今までの大会では毎度の事故、妾の参加は有り得ぬと諦めていたものじゃが…
今大会は、違う。
妾とて大人の女じゃと、皆のものに知らしめる機会じゃ。
妾の初の公式試合となるはずの、今大会。
その対戦相手となる、各部門の優勝者たち。
妾はその時間を心待ちに、試合の観戦にもいつも以上の熱を入れてしまう。
日程の関係上、最初の対戦相手はチーム戦部門の優勝者チームのはずじゃ。
「…ほう、チーム戦部門の優勝チームは勇者のところに決まったようじゃの」
「陛下、そこは素直に求婚者殿のところって言っても良いんじゃないですか?」
隣で余計なことを、側近が口にする。
ほんに、余計なことしか言わぬ奴じゃのう…。
口に、アンゴラマンゴーの果実を詰め込んでやろう。
なに、魔王の為にと用意された皿の果実じゃが、遠慮は無用じゃ。
「ん? 美味じゃろう? 美味じゃよな? なあ?」
「もぐもぐもぐもぐ…」
とりあえず、飲み込むのも苦労するほど詰め込んでおいてやろうかの。
何個くらい入るじゃろうか………………
「五十六、五十七………意外と入るものじゃな…」
妾の口であれば、これ一つで一杯になってしまいそうなのじゃが…
こやつの口の中は、四次元にでも繋がっておるのじゃろうか。
「陛下、ナニやってんすか?」
側近の口にアンゴラマンゴー(丸のまま)を入れていたら、次官が声をかけてきおった。何時の間にやら、時間になっていたのじゃろう。
「陛下、戯れはそこまでにしてお早く準備をお願いします。何しろ真・魔王様のお披露目同然の試合ですからね…。民達が魔王様をお待ちです」
「そうじゃな…至急、用意するとしよう」
「衣装はお任せあれ! 魔王様に相応しい取って置きをご用意済みです!」
「!………もう復活しおったのか」
「マンゴーは大変美味しゅうございました」
「しかも食ったのじゃな…」
「一度口に入れたものは意地でも飲み込めというのが我が家の家訓ですので」
「お前は蛇か。そなたの胃はどうなっておるのじゃ…?」
最終的に側近の口の中には百個近いマンゴーが収まったのじゃが………
こやつの体は底なし井戸か何かなのじゃろうか。
民衆の前に姿を現す前に、身なりを整える必要があると側近や四天王共が言う。
妾はこのままの姿でも構わぬのではないかと思ったのじゃが…
「とんでもございません!」
何故じゃろうか…側近が熱く語って阻止してきおる。
「良いですか、陛下? 今まで陛下は忌まわしき呪いによって大変愛らし…稚し…
………不完全なお姿しか皆の印象にはないわけで」
「散々言いよどんでおいて、選んだ言い回しがそれか」
「まあまあ、つまりアレですよ。新生魔王様の、初のお披露目! でしたら相応のお姿でなければ。皆に完全にして無二、素晴らしき魔王様のお姿を見せ付けるのです。何より陛下の人語を絶する麗しきお姿が、我ら魔族の誇りとなるのですから」
「言葉を重ねれば重ねるほど、そなたの言葉は胡散臭さが増していくのぅ…」
なんでこやつは妾の側近なのじゃろうか………あー、有能だからか。
よくも悪くも、魔族の愉快犯精神を体現したような奴じゃからなぁ…。
ここまで熱心に言い募られると、逆に聞き入れたくなくなっていくのじゃが……
「そうですよ、陛下! 何事も最初が肝心と申します。ここは一発がつんと!」
「そうそう、機先を制してこそ勝機が見えるというものです。先手必勝ですよ!」
じゃが、妾の信頼する四天王の2人までが側近の言葉を肯定し、妾に迫る。
冷静にして正気度の強い、この2人までがこう言うとは…
四天王の中でも、いや魔族の中でもまともな部類の2人じゃ。
この者達の言葉は、妾も信頼しておるのじゃが。
何故に、こうまで妾を飾りたがるのじゃろうか。
「そんなもの、陛下が麗しきお方だからですよ!」
「そう、こんなに飾り甲斐があるのに、せっかくの飾れる機会に放置なんて!」
「今までの稚くあられたお姿もとてもお可愛らしくて、着飾りたくなりましたけど…大人のお姿はまた、大人のお姿で! それに今まで子供のお姿だったためか、妙齢の貴人としては手付かず状態…!」
「この隙のある感じも堪りませんけれど、この手で完成させたくもあり…!」
「………ああ」
そういえば幼き姿の時も、こやつ等はことあれば妾を飾り立てようと虎視眈々…。子供の姿の時限定かと思いきや、まさか大人になっても有効だとは。
思わず遠くを眺め、妾は諦めた。
こういった時の女人の勢いには、抵抗しても無駄だと身に染みて知っておる。
ずっと変わらぬ忌々しき姿を、こやつらは嬉々として飾り立ておったからな…。
「お衣装はこちら! 私が万事抜かりなくご準備しておきましたよ、陛下!」
そう言って、側近が何処からともなくばさぁ…っと美しき衣装を広げて見せる。
「……………衣装が最初から決まっておるのであれば、まだマシじゃな」
これで衣装から選ぶとなれば、確実に日が暮れるじゃろう。
これから試合じゃというのに、過剰に飾り付けるのはどうかとも思うのじゃが…
にこにこと、裏もなく真に嬉しそうな顔で、妾を見るメイド達。
衣装に否を唱えることもなく、楽しそうな様子の四天王。
その全員が、妾に温かい視線を注いでいるのを五感が感じ取る。
妾が真の姿を取り戻し、それを心から喜ぶ、祝福の感情を。
「…………………」
こやつらは、心底から妾の成長を喜んでいるのじゃな…
その喜びを示す一端として、大人となった妾の身支度に関わりたいのじゃろう。
そうと悟れぬほど、妾の心は稚くはないつもりじゃ。
今までは体が子供である分、心は年齢相応にあろうと気を張ってきた。
鷹揚さを示し、子供扱いにもある程度は甘んじつつ、軽んじるのは許さずに。
身なりを必要以上に整えたがる者共の酔狂にも付き合うてやってきたはずじゃ。
見た目からして大人とわかる姿になってまで、付き合うてやる義理はないのじゃが…体が本来の年齢を取り戻したからと、気を緩めるつもりなどない。
臣の楽しみを取り上げるような、器の浅いことは王者の振る舞いではないしの。
妾は臣下達が妾を飾り立てたがるのを純粋に、成長への喜びと祝福だと信じた。
じゃから面倒な身支度にも甘んじ、飾り立てることにも付き合うたのじゃが。
「………些か、この衣装は華美過ぎぬか?」
着せられたのは、妾でも驚くくらいに贅の凝らされたドレスであった。
鏡を見るに誂えたように似合うのじゃが…裾は長く、レースの重ねられた衣装。
清華な印象のドレスは上品な印象で、妾としても美しいと見惚れるほどじゃ。
じゃが、魔王であっても特別な時にしか着ぬのではないじゃろうか…
この規模の、豪奢な衣装は。
戦闘には、不似合いなことこの上ないのじゃが…。
「何を仰います! 豪華すぎるくらいで丁度良し、ですよ。良くお似合いです!」
「そうです! これが初のお披露目、皆に華美な陛下のお姿を焼き付けるのです」
「じゃがな、戦うには些か…」
「陛下のお強さであれば、問題はありますまい?」
「そのお姿で圧勝すれば、戦神の如き魔王陛下と印象付けられますよ」
「何しろ魔王! 今まで見せ付ける機会はありませんでしたが、魔族最強ですし」
「そ、そうじゃろうか…? じゃがいくら民へのお披露目だとはいえ、限度が…」
「ありません、限度なんて! 今まで二十三年も民を待たせてきたのですよ!?」
「陛下の今のお姿を見てこそ、民も安心安堵致すというもの」
「これも魔王のお勤めですよ、陛下」
「うぬぅ……そなたらがそこまで言うのであれば、そうなのじゃろうが…」
何故か、うっすらと騙されているような気もするのじゃが。
そなたら、言葉を畳み掛けて妾を言い包め様としておらぬか?
疑惑の視線を注いでも、心臓の強いこやつらは眼差しにびくともせん。
心に疚しきことがあっても、平然としておるしのー…
「先程も言いましたけど、先手必勝! 機先を制してこそ勝機が見えるもの」
「そうです! 陛下の麗しきお姿で、勇者一行を圧倒しちゃってくださあい!」
「ふむ………」
そうまで言われると、のぅ…。
どうも心に秘めたことを打ち明けようとはせぬようじゃし。
好意は確かに感じる。
それを無碍にするのも、君主の器としては否じゃろう。
「わかった。この姿で勝負に臨むとしよう」
しかし、この後。
機先を制されたのは妾の方であった。
それを、試合にてまざまざと見せ付けられることとなろうとは………
取り合えず側近、そなた、謀りおったな…。
この時の妾には知る由もなきことであった。
母君様は妾が幼少の頃にお亡くなりになっておったし。
そも、8歳児の姿では婚姻もままならぬと、半ば諦めておったからの…
今まで、見ても虚しくなるだけと一度も確認などしなかったのじゃが………
妾が着せられた、衣装。
それは妾の母君様が輿入れの際に身につけた、 婚 礼 衣 装 であった。
お亡くなりになる際、育った時の妾の為に授けると。
是非に、婚礼の際に着用してほしいと遺し、大事に保管されていた、それ。
寂しさに目を背け、一度も確認しなかった。
それを、まさかここで着せられるとは…
妾は、本当に、思ってもみなかったのじゃ。
取り合えず側近、後で殺す。
まさかのウエディングドレス着用で戦う羽目になってしまったセネセネ様!
ちなみにドレスはエルフの里からお輿入れしたお母様の形見っすよ!
エルフ特製の、めっちゃひらひら美々しきウエディングドレス(防御力-150)。
さあ、次回はどうなってしまうのか…!?




