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とある女魔王の鬱6

神官アドニス、本領発揮(笑)

 → 隠しコマンドの発動!

 にっこりと微笑む青年神官は、勇者一行(パーティ)において最強だった。

 勇者一行の内部において、最強だった。

 微笑を一切翳らせることなく、神官が穏やかな声で告げる。

 彼がまず話しかけた相手は、解呪の巫女シェルカだった。


「シェルカ、あなた新しい祭具(すず)が欲しいと言っていましたね」

「は、はうぅ…っ い、言ってましたー!」

「魔境には面白い金属や魔石があるようですね。ですがこちらには神に祭礼を捧げるという意識があまり浸透していないようです。もしも魔石や魔法金属で強化された祭具を…となると、オーダーメイドになるようですよ?」

「ち、ちなみにおいくらばかりで………」

「――そうですね。私が調べた限り、こんなところでしょうか」

「…はうっ!?」

「私の管理する必要経費から出しましょうか?」

「………宜しくお願いします…」


「マリウス、そろそろ楽器も弦の張替え時ではありませんでしたか…?」

「そ、そうですけど?」

「――より魔力伝導率の高い弦は、高額だと言っていましたが…

音楽の都から取り寄せた、特注の弦の使い心地はいかがでした?」

「た、大変使い勝手がよろしくあわわわわ…っ」

「そうですか。今後もそちらの弦を購入する…ということで良いんですね?」

「ううぅ………」

「それで費用の捻出先ですけど………どうしますか…?」

「僕は一生、アドニスについていきます!」

「そうですか。それでは、活動費の中に予算枠を組み込んでおきますね?」


「アレク?」

「ふふふ…私には、どんな熱心な口説き文句を下さるのでしょう」

「口説くも何も、貴方はご自分で結構な額をお持ちですよね?

………何処で得ている資金なのかは、存じませんが」

「おやおや…確かに私に買収は意味がありません。それで貴方は、どうします?」

「……………。とうとう、これを出す時が来たようですね」

「!! そ、それは…っ!」

「…以前、旅の中で父が入手したものです。貴方ならコレが何かわかるでしょう」

「せ、聖奇人アンドレーヌの聖布……」

「そう、あなた方(・・・・)が【聖遺物】と呼ぶ代物です。欲しいですか?」

「私は今から、貴方の下僕(イヌ)として生きることを決めました。わん!」


 神官による、買収という名の説得が一通り彼らの行動選択を縛り上げる。

 一行の活動資金(サイフ)を握り、帳簿をやりくりしているのは神官だった。


 そして、勇者もまた。


「ええと、カロム」

「な、なんだ…!? 俺は、今特に必要な物もないし、買収に応じは…」

「――三ヶ月前、その【聖鎧王(ヨロイ)】…派手にぶっ壊されたことを覚えていますか?」

「うぐっ!?」

「その鎧の修繕費、私が立て替えてましたが…仮にも神話になるほどの逸品です。修繕できる職人を探し出すだけでも、とても苦労したことを覚えていますか?」

「……………」



「ところで、修繕にかかった費用(30回払い)…貴方の自己負担で良いですか?」

「エアwjtオアjdふぉいあ絵jふぁお…ッ!!?」



 秘儀 神官の最後の手段!

 勇者の財布にクリティカルヒット…!

 勇者の財布は3,323,333€のダメージを受けた!

 勇者は謎の奇声を発して固まった!


「俺に対してだけ、対応が違い過ぎるだろ!?」

「私の父が貴方のお父上に対する時も大概でしたよ」

「父さん…会ったことないけど不遇すぎる!」


 買収という名の、神官の説得。

 猛威を振るう圧倒的パワーの前に…勇者もまた、膝を屈するのだった。




「――という訳で、無事に意見統一が適いました。

お待たせしてしまい申し訳ありません、セーネ様。これでセーネ様がお望みの解呪に関しても、巫女(シェルカ)が尽力してくれることでしょう!」


 膝を屈した(つわもの)共も、夢のあと。

 キラキラキラ…っと爽やかに微笑み全開で振り返る、女魔王の婿候補(自称)。

 晴れやかな神官の笑みを前に、ずざっとセネアイーディ様が後退さった。

 目の前で見せ付けられた一連の買収(せっとく)作業に、本能が告げる。

 腕っ節以前の問題でコイツは、ヤバイ…と。

 そんな女魔王に、何故か側近がこれはめでたいと祝辞を述べた。

「これはこれは…よかったじゃないですか、陛下。

お望みのまともそう(・・)な御夫君候補で! 流石は陛下、モテモテ!

しかも願ったり適ったりなことに、婿入りまで承諾してくださっていますよ!」

「き、貴様はあの光景を見て、言うことはそれだけか…!?」

「中々有能な婿君のようで将来有望、結構なことではありませんか」

「…誰ぞ! 誰ぞ、焚き付けを持って参れ! こやつを燃やしてくれる…!!」

「落ち着かれて下さい、そんな屑でもいなくなれば業務が回らなくなります!」

「ええいっ 口惜しや…最低限の仕事は出来るよう、足でも千切ってくれようか」

「わあ! 陛下ご乱心…っ!!」

 手に扇子を持ち出し、ヨイショと持ち上げる側近。

 その首をくびりたい、女魔王。

 今にも側近を手にかけそうな幼女魔王に、青褪める四天王。

 場は、中々に混沌(カオス)としていた。

 恐らくセネアイーディ様もまた、突然の求婚沙汰に混乱しているのだろう。

 正気を保っているのも難しく感じるほどに、寝耳に水。

 何しろその容貌、何処からどう見ても幼女。


 セネアイーディ様は、有る意味では純粋培養で。

 恋愛沙汰に関する免疫というか経験値が、圧倒的に低かった。


 彼女が歳相応にリアルが充実していたのは、実に十歳以前まで。

 それ以降は幼女の外見が災いし、望んでもまともな求愛者が出るはずも無く。

 そして変態(ロリコン)は告白の内容を吟味するまでも無く、全て冷徹な一瞥と肘鉄で悉く沈め、無かったものとして処理してきていた。

 そんな彼女に、何の奇跡か。

 はたまた、何かの罠なのか。

 奇特なことにも、(一見して)まとも(そう)な求婚者が現れたのである。

 それも、仲間を従わせてでも意見を押し通そうとするくらいに、情熱的な。

 真意は別とするにしても、恋愛LV.3の女魔王様が太刀打ちできるのか。


「無理じゃないでしょーか」

「…誰ぞ! こやつを不敬罪で刻んで参れ!」

「んもう、陛下ってば。八つ当たり反対!」

「だ、誰が八つ当たりじゃ…! そ、そ、そなたが余計なことを言うからじゃ!

妾は大変に立腹しておる。そなたは妾を不快にした罰として千切りの刑じゃ!」

「いくら待ち望んでいた求婚者がいきなり、こんな将来の命運を左右するような大事に現れて驚いたからって、私を刻んで落ち着こうとするのはやめましょうよ!」


 神官の好意に動揺し、慌てる女魔王。

 その様子を見て…神官の笑みが、ぐっと深まった。

 ――イケル! …と、彼がそう思ったかは、謎だが。

 しかして恋愛的な好意に不慣れな様子は見ただけで分かるだろう。

 そして愛を捧げられることに慣れていない彼女は…真摯な愛情を持って迫られ、押されることに弱いと見た。

 例え物質的な実力は大陸最強の魔王様であろうとも。

 押せば、迫れば確実に落ちる…そう確信するだけに足りる、初々しさがあった。

 少々強引に押しても大丈夫そうだと、神官はこの邂逅で感じ取っていた。

 だが、ここで急いては己の心象を悪くする。

 恋に狂っていようとも冷静な思考が、頭をきりきり働かせて予想を弾き出す。

 だから、神官はにっこりと殊更優しげに微笑んだ。

 その余裕に満ちた姿が、悲しいことに女魔王様の妙な警戒心を高めていたが。


「セーネ様に喜んでいただくことは、私の喜び…まずは、貴女の身を苦しめる呪いを解くことに専念いたしましょう。ですが、セーネ様…どうか、お願いです。

私のことを少しでも認めていただけるのであれば……


 ――見事、解呪が叶った暁には貴女に想いを告げ、口説くことをお許し下さい 」



 物腰も、物言いも穏やかなのに。

 何故かその言葉には、脅迫を受けているような…

 そんな印象を受け、固まるセネアイーディ様であった。








 そして。

 セネアイーディ様の呪いが解けるのには、数年を有し…

 彼女が年齢本来の姿を取り戻したのは、三年後のことであった。




 




 



 ただし、長年呪いにかかっていた影響は色濃く体に残っていた訳で。 

 相当量の魔力体力を消耗した時。

 そして弱ってしまった時。

 そんな時には、体が八歳に戻ってしまう体質になっていた…。




 本当は月の半分とか、年の半分はロリに戻る忌まわしき体質になってもらおうかと思ったのですが…現実的に考えて、セネセネ様のお子さん達が誕生の危機に陥るような気がしたので止めました。

 神官は全く気にしていませんが、彼にかけられたロリ趣味疑惑も解けなくなってしまいますしね!

 本人、本当に全く気にしてなさそうですけれど…!!



 ちなみに解呪に至った後、改めて決戦を望む勇者と求婚を望む神官の意見がせめぎあい、魔族の恒例行事「武闘大会」にチームとして出場決定。

 優勝したら魔王様との決闘だ♪

 三年も魔境にいる間に、各々お望みの結婚相手も見出したようで(勇者以外)、求婚するためにもセネセネ様との決闘には乗り気だった模様。



 そしてその結果がどうなったかは…推して知るべし。


 という内容が続くわけですが。

 …読みたい方、いらっしゃいますか?

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