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とある女魔王の鬱4

 勇者達の眼前に立ちふさがる、小さな姿。

 しかし最大級に大きな障害。

 女魔王セネアイーディ様は、幼い体を誇示するように堂々たる振る舞いで。

 薄くもぷにぷにした胸を張り、玉座の上から勇者一行を睥睨する。


「魔王…!」


 未だ信じられないながら、確かに彼女が魔王らしい。

 普通に美少女であることを除けば、人間の子供と変わりなく見えるのに。

 だが彼女が魔王であるというのならば。

 それがどんなに不本意な相手であろうと、人類の希望である勇者は剣を掲げ、戦わなくてはならない。



 ………が。


 剣に手をかけ、緊張感を漲らせる勇者…に、一斉に一大非難の声が!


 魔王本人がいう。


「貴様…! こんなに幼い容姿の妾に平然と剣を向けるなど…外見に限った話とはいえ、それでも幼子に見える相手を平然と害しようなど、貴様どこに倫理観を捨ててきた! 人道にもとる、この外道めが!」


 物凄く酷い勝手な言い分ながら、何故か否定はできない、その物言い。

 子供擁護主義種族、魔族の本領発揮とばかりに非難囂々だ!

 勇者本人も内心で気が進まなかったので、精神面に物凄いダメージが!

 更にセネアイーディ様は己の傍ら、側近に声をかける。


「貴様はどう思う?」

「こんなに(いとけな)い魔王陛下を襲おうなんて、最低ですね」

「うむ」


 外道の代名詞、魔族から真顔で「最低」の一言。

 勇者の精神面に、新たなるダメージ!

 しかし魔王は追撃の手を緩めない!

 彼女は今度は、玉座の脇に控える魔族の四天王に声をかけた。


「そなたはどう思う」

「己の大義の為なら幼子でも殺そうというのですね……クズが。死ねばいいのに」

「ではそなたはどうじゃ」

「私ですかぁ? え~…そうですねぇ。………きもい」

「一言じゃな。ではそなたは?」

「ははは。こんなに小さな女の子殺そうなんて、なんて下種。殺します」

「あたくしも同じ気持ちですわ。陛下の愛らしさを剣で無残に散らそうなど…万死に値しますわ」

「ふむ。皆も同じ気持ちのようじゃな。言葉の端々がど~うにもっ引っかかって仕方ないのじゃが…この場に置いてはよしとしておいてやろう」

 

 女魔王に仕える四天王は、見事に全員がタイプの違う美女ぞろい。

 それらが口々に、蛆虫でも見るような侮蔑の目で勇者を非難する。

 正しいのはどちらか…

 そんなこととは関係なしに、四天王の方が正義に見えるのは何故だろう。

 そのことを疑問として呈していたのであれば、四天王はこう答えたことだろう。

 即ち、「可愛いは正義! 超絶美少女(ロリ)魔王陛下は絶対正義!!」と。

 この場には、子供好きしかいなかった。

 有る意味では、最も結束の固く結ばれた家臣団である。


 そんな中、特にいい動きをするのは女魔王の側近だった。

 さり気ない動きで何時の間にか勇者の背後…その仲間の方へと歩み寄っている。

 す…っと警戒させない絶妙の動きで接近した側近が、晴れやかな笑顔で聞いた。


「勇者一行の、聖職者の皆さん! 正直、客観的に見てどう思いますか!?」


 敵意の欠片も感じられない質問に、うっかり返答してしまう聖職者(おひとよし)が一名。

 それは勇者の幼馴染にして巫女の、シェルカ。


「きゃ、客観的に、ですか…!?」


 問われて思わず、勇者と女魔王をまじまじと見比べた。


「………幼児虐待にしか、見えません…」

「外道ですね! 人道に反する、人でなしですね!」

「あ、あぅぅそ、そこまでは…!」

「そっちのキミはどう思いますか、マリウス・ラロ君!」

「え!? 私ですか!?」

「さあ! 客観的視点で見てみよう!」

「客観的………」


 そういわれて、吟遊詩人もまたじっくりと勇者と女魔王を見比べた。


「………鬼」


「おいまてこら! シェルカ、マリウス! うっかり敵に乗せられてるーっ!!」


 堪らないのは勇者の方だ。

 仲間から食らった自殺点に胸を押さえてよろけている。

 今にも血の涙を流しそうな悲痛な顔をした勇者に、側近は追撃の手を緩めない!


「そっちの貴方にも聞きましょう、微笑み牧師」

「私ですか………良いでしょう、お答えします」

「おや、積極的…っていうか、やっぱりこんな時でも素敵な笑顔ですね」

「有難うございます」

「さあ、それでは勇者への酷評いってみましょう!」


「そうですね……率直に申し上げて、 カ ス 野 郎 …でしょうか」


「予想以上にずばっと率直にいった!! 牧師、貴方は私の想像以上の人材だ!」

「有難うございます」


 何故か敵同士にもかかわらず、互いに微笑みとともに握手を交わす二人。

 その姿はどう見ても、 二 人 と も 勇 者 の 敵 だ 。

 勇者のメンタルと評判は、もうぼろぼろである。


「そこ! その二人を一緒にしないで混ぜるな危険ー…!」

「勇者…元気を出してください」

「アドニス…!」


 もう頼りになるのは兄代わり(アドニス)だけだ。

 そんな思いで、勇者が白い神官に縋りつく。


 …が、しかし。


 幼少期から彼を(しご)いてきた神官は、有る意味で誰よりも辛辣だった。

 そう、二十年前の勇者一行で猛威を振るった、その父親並みに理不尽に。


「万が一幼女虐待をするような人間の屑に成り下がったら、兄代わりの私が責任を持って介錯して差し上げますからね…? だから安心してください。道を踏み外したら地獄に直通経路を開いて差し上げます」

「俺のこと殺る気だ、こいつ…!!」


 方々から責め立てられ、人非人扱いを受け。

 うっかり戦う前に心の折れかけた勇者を妖艶ロリ魔王が悠然と見下ろした。


「さて、勇者よ……そなた、己が立場は弁えたようじゃな」

「く…っ 魔王め………お前がそんな姿してるから…! 卑怯だっ」

「妾とて好きでこのような姿をしている訳ではないわ…!!」


 互いにきつく鋭い眼差しで睨み合う勇者と魔王。

 その姿は彼らの立場…宿敵という立場以上に、相容れないものを感じさせる。

 だが女魔王は対峙する勇者に対し、ふっと不敵な笑みを浮かべて見せた。

 何をする気だ、と。

 警戒に身構える勇者。

 セネアイーディ様は果たして、勇者をびしっと指差し高らかに叫ぶ。


「どうじゃ、勇者よ…! 敵とはいえ幼子(おさなご)に剣を振り上げた外道との(そし)りを受けてもよいのか? 風評被害は洒落にならぬぞ…!?」

「じゃあどうしろって言うんだよ…!!」

「ふふん、簡単なことじゃ……のう、巫女よ」


 ぎらり。

 なんだか凄まじく切羽詰り、獲物を前に飢えた獣のような、目。

 濡れて光る眼差しが、まっすぐに巫女を貫いた。

 女魔王のぎらついた眼差しに身をすくませる巫女。

 幼馴染でもある彼女の怯えに、即座に勇者は反応した。

 その広い肩で巫女を背に庇い、女魔王を睨みつける。


「シェルカに、何をする気だ!?」

「ふん…何もせぬ、否…するのは、巫女の方じゃ。のう、巫女?」

「わ、私に何を求めるというのです…私は、悪には屈しません!」

「ふふふ…じゃが、お主が動かねば勇者が風評被害に苛まれ、転落人生を転がり落ちることになるぞえ………それでもよいのか? 社会の最底辺で、女児に暴力を振るった最低男やその仲間と呼ばれて這いずり回る人生は…如何なモノじゃろう?」

「!」

「駄目だ、シェルカ…聞くな! 心が痛くなるから!!」

「妾とて、正々堂々と戦えるのであれば戦おう。しかしのう、この身じゃ。妾も万全とはいかぬ………巫女よ、お主が妾の呪いを解いてくれぬことには、の…」

「………呪い?」

「左様」


 怪訝な眼差しを受け、こっくりと頷く魔王の姿は、外見相応。

 幼く見える仕草に、どうしても警戒心が緩む。

 しかしそのような緩みを許さぬ鋭い瞳が、まるで縋るような必死さを滲ませて…


「妾の齢は、妙齢28。しかし父君様の執念により、成長を止められておる」

「28歳!? ほ、本当に年上…!?」

「このような姿は不本意じゃ。のう、巫女シェルカよ…


  そなた、妾の呪いを解いてはくれぬじゃろうか 」


 そう言って、僅かに微笑むその顔は。

 幼い子供には持ちえぬ、人生の苦さを滲ませたもの。

 28歳という年齢を証明するような、その表情に。

 勇者一行は、驚き立ちすくんでいた。


 その場で、神官が動き出すまでは。




なんだか、書けば書くほどずるずる長くなっていきますー…

台詞だの何だの抜いて、箇条書きにすると何行かで終わるんですけれど。

全く場の状況が動かないのに、ずるずる長くなってしまって済みません…。



女魔王の鬱が落ち着いたら、活動報告に乗せていた短編を此方に移動予定です。

「一日奴隷とご主人様」「勇者様闘病中」が移動してくると思います。

一日奴隷~に居合わせていたはずなのに存在を抹消されたサルファパターンを追加するかどうか検討中です。読みたい方がいらっしゃれば、実行するつもりです。

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