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神官アドニスの生い立ち5 (とある女魔王の鬱・裏面)

アドニスの生い立ちは此処で終了です!

長々とかけて、申し訳ありませんでしたー!

 勇者と神官である父。

 そして私(6歳)と山羊(3代目)のタンホイザー。

 魔王討伐を志した勇者の歴史は長いものですが。

 その中でも、きっとかなり奇異な一行(パーティ)だったことでしょう。

 こんな面子で魔境に突入するとは、きっと誰も思っていませんでした。

 とうの勇者も、きっと私の父も。


 激化する戦闘。

 魔境に生息する魔物や魔獣は、それまでの比ではありませんでした。

 戦闘不参加の私でも、それが分かるほどです。

 まだ足取りの拙い私は、大型山羊のタンホイザー(♀)に乗せられて。

 手綱を引っ張る父に、全身全霊で守られていました。

 そのお陰で、勇者の支援がまた手薄になるくらいで。


「だ、だからお前! 回復しろよぉー(泣)!!」

「アドニスとタンホイザーに防御力と俊敏上昇、幸運値上昇の魔法をかけてからです!」

息子(アドニス)はともかく、俺は山羊(タンホイザー)よりも後回しか!?」

「山羊がうちの息子の命運を握っているんです! 背中にいるんだから当然でしょう!」

「うわ、こいつ当然って言い切った!」

「よいこですね~、アドニス。父が今、補助魔法をかけてあげますからね」

「パパ、むりしないで…! ゆーしゃ、ないてるよー」

「いいんですよ、大の男は放っておいても勝手に死にはしませんから。

ギリギリでも、死にそうだと自己申告してくれてから回復して充分間に合います」

勇者(オレ)息子(アドニス)との扱いが違い過ぎる…!」


 ………魔物や魔獣は桁違いに強くなりましたが、勇者と父は相変わらずでした。

 これも一つの余裕だったのでしょうか…

 実際、危うげなく魔境の奥地までこのままでしたし。

 誰一人として、深刻な怪我を負ったりはしませんでしたし。

 今思えば、勇者と父の力量は相当なものがあったのでしょう。

 幼子を連れて、魔境の奥地に余裕で踏み込めるくらいに。


 しかし、真の敵は魔境の更に奥深く。

 深遠の魔王城、………その手前に、存在しました。

 当時の勇者一向にとっての、最大にして最難関たる、敵が。


 歴代勇者が魔王に立ち向かう際、最後の補給地にしたという伝説の地。

 魔境唯一の人間の村、ハテノ村にこそ待ち構えていました。

 待ち構えていたのです…!


 父達は、地図と地形を何度も見比べて。

 困惑を隠しもせず、何度も何度も見比べて。

 いよいよ間違いないとなった時、思わずといった風に口を開きました。


「アレが、魔王城……………そして、ハテノ村」

「っって、近ぁッ!!」

「………近いですね」

「おいおいおいおいおいおいおいおいっ むしろ隣接してるじゃないか、魔王城と!」

「さすが、人類最前線の異名は伊達では………ちょっと、予想以上に異常でした」


 最後の補給地は、最終目的である敵の本拠地に隣接していました。

 それはもう、ぴったりと。

 密接といわんばかりの、勢いで。

 この村に立ち寄っても、本当に大丈夫なのだろうか…。

 そんな不安に駆られる、父と勇者。

 しかし歴代勇者やその仲間の残した手記には、問題なく過ごしたとあります。

 ここは先達を信じつつ、いざという時には即座に逃げられるようにと。

 勇者の一行は警戒と逃走準備を怠りなく整え、ハテノ村に足を踏み入れたのです。

 最大の試練が、ここで待ち受けているとは露とも知らずに。


 勇者と父にとって最大の試練は、人のいい顔をして現れました。


「おお、アナタ方が勇者様ご一行…! ………子連れはちょいと、予想外でしたが。

いやしかし、よもや私の代で勇者ご一行を迎えることができるとは!」


 喜色満面。

 大歓迎の言葉で迎えてくれたのは、アビシニアン・アルディーク。

 この時代の、ハテノ村の村長でした。

 そして彼こそが、勇者と父の前に立ち塞がった最大の試練だったのです。



 この日の夜は、宴会でした。


「うっ……もう、のめ…!」

「だ、だいじょ、うぶ…か……うぅ」

「はっはっはっはっは! お客人! 呑んでおられますかー!」

「ぐ…っ そ、村長」

「おや、なんと! 杯が空ではありませんか! お注ぎしますぞ、ささ!」

「いやいやいやいや、もうじゅうぶ……うぷっ」

「お、おきづかい…な、く……」

「ご遠慮なさらず! まだ三樽空けただけじゃありませんか!」

「それだけ空ければ、充分で………っ」

「はっはっはっはっは! 夜は長いですぞー!!」


 翌日、村長はぴんぴんしていましたが、父と勇者は惨憺たる有様でした。

 

「パパ、ぱぱーっ しっかりして!」

「う、うぅ…あ、アドニス、もうちょっと小さい声、で……」

「ぐぅ…あたまに、あたまに響く…っ」

「はははははっ 勇者様方、二日酔いには迎え酒ですぞ!」

「酒は…っ 酒は、もう…!」

「ささ、遠慮なさらずまず一杯!」

「きゃー……っ」


 それから三日三晩、宴会でした。


「パパのかおが、どんどん悪くなってくよ…!?」

「あー…あ、うん、諦めが肝心!」

 宴会場の片隅で、幼い私は勿論お酒を勧められることなく。

 村長の息子だという同年代の男の子、ビリーと二人で果実水です。

 酒のことなど分からない年齢でしたが、村長の酒量が異常なことはわかります。

「ごめんなー、うちの父さん絡み酒なんだよー。他人に飲ませるのが大好きなんだ」

「からむの? 蛇みたい」

「ああ、しつこさは蛇以上だ。おまけに魔境一の大酒豪」

「ええぇぇぇ…パパ、大丈夫かなぁ!?」

「うん、大丈夫じゃないと思う。最近誰も酒の相手してくれないって拗ねてたからさー…そこに勇者一行が来るんだもん。宿を借りてる手前、断れないところに目を付けられたっぽい。ありゃ半死人になっても解放されないね!」

 やけにきっぱりと断言するビリー。

 彼はもう既に慣れた、諦めたという顔です。


「おお、なんと良い呑みっぷり! まだまだいけるでしょう、ささどうぞ!」

「だ、だからもう、結構で…!」

「勇者様、先程から杯が進んでおりませんぞ!? いけませんなぁ」

「おおぉぉぉ……っ」


 酔っ払ってふらふらの、父と勇者。

 そんな二人を格好のカモと見ていたのかもしれません。

 他人に呑ませることが大好きだという、大酒のみの村長さん。

 彼は既に、その夜だけで六樽のお酒を胃に納めていました。


 この話を後々、妻となった女性に語ったことがあります。

 その時、妻は驚愕の眼差しで顔を青褪め、言ったものでした。

「アビシニアンの酒にまともに付き合ったのか!? 肝機能がいくつあっても足りんぞ!!?」

 ………彼女にそこまで言わせる方だとは。

 

 私達は、知らなかったのです。

 当時の村長が、紛れもなく魔境一(・・・)の大酒豪であること。

 それは、魔族も真竜族もひっくるめての、ことで。

 酒に強いはずの、両種族。


 当時の魔王は村長の酒に一週間付き合った挙句、酔い潰され。

 生まれて初めての二日酔いに悩まされながら、もう酒席を共にしないと誓ったとか。

 また当時の竜の谷に、酒の相手を求めて村長さんが酒樽抱えて突撃した時。

 竜の一族総出での大宴会の末、竜という竜が軒並み呑み比べでノックダウン。

 最後には真竜王と村長のさしの飲み比べとなり…

 結果、真竜王が潰されて、村長さんは最終的に一人で飲み続けたと………

 

 そこまでくればもう人間じゃないと思うのは、私の気のせいでしょうか。

 あまりの呑みっぷりに、酒の神が様子を見に来たという逸話まであるそうです。

 …結果、酒の神を酔い潰したというのですから、筋金入りですね。


 酒豪という名の妖怪に、目を付けられた父と勇者の二人。

 彼らは逃れられない酒の海にあぷあぷと溺れていて。

 毎日朝には、地上最大のグロッキー状態。

 そんな状態で、魔王城に突入など出来るはずもなく。

 村に着いてから、ただ毎日を酒と体調不良に悩まされ、延びる滞在期間。

 まさかこんな理由で足止めを食らうとは、誰も考えていませんでした。

 こうなることを予測していた、ハテノ村の村民以外。


 その果てに、腹をくくった父が勇者に提案しました。


「こ、ここは! 私が、私が勇者の分も、ひ、ひ、引き受けます…!!」

「お、お前…!?」

「ですから、ですから…! 貴方は、魔王との対決に備えて、体調の準備を!」

「お前ってやつは…。分かった、お前の犠牲は、無駄にしない…っ」

「私のことはどうか、気になさらず……ご武運を…!」


 勇者は父の身を呈した提案に、涙を呑んで非情となる覚悟を決めたそうです。

 こうして、予想外ながら。

 最後まで道を共にするかと思われた父の、ハテノ村での実質リタイヤ宣言。

 勇者は、たった一人で魔王城への突入を余儀なくされたのです。





 悲愴な、今生の別れとなるかもしれない覚悟を二人が決めている間。

 夜は果実水とご飯を食べてぐっすりすやすや。

 朝昼は大人と違って元気一杯。

 六歳の私は、毎日ビリーと一緒に遊んでいました。

 今まで旅暮らしで、年の近い友人がいなかった私です。

 毎日が新しい発見と驚きに溢れて、若干大人が心配ながらも満喫していました。


「アディ、金色カブトムシー」

「うわぁ! ぜんぜん金色じゃないよ!?」

「酒に漬け込むと金色になる」

「お酒に漬けてどうするの…?」

「そのあと揚げる」

「食材!?」


 そんな日々の中で、私は出会ってしまったのです。

 後に妻と呼ぶ………銀髪の、女の子に。


「ビリー、遊びに………その子は、だれぞ?」

「セーネちゃん! この子はアディ、新しい友達!」

「? 誰かの拾ってきた子?」

「ううん、旅の…って、ほら、アディも挨拶しろよ」


「……………」


「アディ? セーネちゃん、アディ固まってるよ」

「どうしたの…? わたしのこと、じっと見て…」

「アディ???」

 

 それは美しい女の子でした。

 私よりもいくつか年上の、独特の雰囲気を持った綺麗なおねえさん。

 大人から見れば一緒くたに子供といわれる相手でも、幼い私には大人びて見えました。

 凛とした立ち姿、幼いながらに可憐で優艶。

 彼女は村の子供ではなく、お姫様でした。

 私はそのことに吃驚しましたが…お姫様という言葉に納得していました。

 納得する程、可愛かった。


 それから私達は、仲良く一緒に遊びました。ビリーもいましたけど。

 彼女の側はキラキラしていて、近くにいると緊張して恥ずかしかった。

 でも………楽しかった。

 ビリーもいましたけど。

 彼女に度々見蕩れて、ぼうっとしてしまう私。

 そんな私に気付く度に、彼女は心配そうに顔を覗き込んできて…

 その優しさが嬉しくて、胸が高鳴りました。

 ビリーもいましたけど。


「アディ、セーネちゃん可愛いよな!」

「!……う、うん…」

「俺、大きくなったらセーネちゃんお嫁にすんのー」

「!!?」

「もう、ビリー。またそのようなことを…」

「えー…駄目? なんでー?」

「何度も言っているけど、わたしは将来父君様の後を継ぐの」

「俺だって父さんの後継ぐよ。家も近いし、大丈夫だよー」

「そういうことじゃない。ビリーが村長の後を継ぐってことは、村の仕事をするってこと。でもわたしは、夫はわたしを支えてくれるひとが良い。父君様のおしごと、大変そうだもの。旦那様が別にお仕事をしていたら、わたしを支えてもらえないでしょう?」

「つっ……つまり、セーネちゃんは旦那さんは、セーネちゃんを支えられるひとがいいってこと!?」

「お、なんだアディ…食いつくな」

「そう…そう、うん。支えてくれる度量のある、優しくて有能なひとがいい。公私共に支えてもらいたいから、わたしに専念してくれるお婿さん希望…」

「つ、つまり、入り婿だよね!」

「アディはよく言葉を知っている。うん、入り婿最高」


 こっくりと頷く彼女の肯定に、何故か私はこの瞬間、将来が見えた気がしたのです。

 同時に村長を継ぐことが決定しているビリーに対し、何故か「勝った…!」と思ったのです。

 ええ、淡く自覚があるかも怪しいものでしたが、私は既に落ちていたのでしょう。

 当時六歳でしたが、私は父に後を継がねばならないような固有資産も責務もないことを喜びました。


 まだ将来を自分の手で選び取れるとは誰も思っていなかった幼い頃。

 私は悔しそうに歯噛みするビリーを尻目に、勢い込んで訴えました。


「せ、セーネちゃん! 僕は!?」

「うん?」

「ぼ、僕はお婿さんにどうかなぁ! 僕、いっぱいお勉強するよ。体だって鍛えるよ!」

「うーん…アディは、まだ六歳。婿には早すぎる」

「だったらお婿さんになれる歳まで、いっぱいいっぱい準備する! だから将来的にどうかな!?」

「……………未来のことは、まだ答えられない、し…」

「だったら約束だけ! 約束だけでもどうかな…!」


 この時、私は未だかつてなく必死でした。

 旅の中で育ち、人との別れに驚くほど慣れきって淡白になっていた私です。

 数年を共にし、兄のように慕った商人との別れも、ギャンブラーとの別れも引き止めなかった私。

 その私がこの縁だけは掴んで見せると、必死の食い下がりを見せていました。

 自分自身内心で、どうしてここまで必死になるのだろうと首を傾げながら。

 そんな私の勢いに、思うところがあったのでしょうか。

 私の幼さに約束しても意味はないだろうと渋りながら…

 それでも、彼女は私に一つ約束をくれたのです。

 それは、約束とも呼べないような約束でしたけど。


「それじゃあ、十年。十年経ってもまだ私に婿様がいなくて、その時アディがまだ私の婿になりたいという熱意があるのなら………その時、改めて考える」

「やったぁ!!」


 それは本当に約束とは呼べない約束で。

 状況によって簡単に反故にされてしまうものでしたけど。

 私はこの言葉に、希望があると思ってしまった。

 その気になれば、希望は掴めると。

 

 ………実際にそんな希望は微塵もなく、長じるごとに焦りを感じるようになり。

 十年が経過した頃には、もう彼女は結婚しているかもしれないと恐怖すら感じて。

 怯えて、怖くて、でも状況が許さず、なかなか会いに行けなくて。

 そんな戦々恐々とした日々。

 しかし他ならぬ彼女側の事情によって、そんな心配はいらなかったと分かるのは、この二十年後。


 でもこの頃は、そんなことも知らない。

 未来に何の不安も心配もなくて、毎日はただ明るく輝いていた。

 辛いことも苦しいことも。

 本当の意味では何も知らなかった幼い、あの日。


 それは、勇者と魔王が河に消えたと…

 生まれたときから側にいた勇者の訃報を聞く、一週間前のことでした。




勇者→魔王城に突入してから謁見の間に到達するまで、一週間近くかかったらしい。

 村を出る前に、神官に自分が死んだ時のことを託す。

 ・商人達を仲間にした街に恋人がいるので、面倒を見てやってほしいとのこと。

パパ神官→アル中にならないか心配な酒漬けの日々。そろそろ肝臓も限界。

 勇者の遺言通り、帰り道で勇者の恋人を訪ねる。

 するとまあ! 勇者にそっくりな男の子が!

 母子二人で苦労していたので、故郷に一緒にいくことに。

 母子は勇者の年老いた母親に引き取られ、仲良く助け合って暮らした。


村長→魔境に名を轟かす、酒豪の化け物。酒神を酔潰した伝説を持つ。

 そんな彼に対抗し、酔い潰すため当時の魔王(セネセネ様の父)とハテノ村の薬師が協力して開発した、一撃必殺のお酒。

 →ドラゴンスレイヤー


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