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神官アドニスの生い立ち4 (とある女魔王の鬱・裏面)

ま、間違えて「6」本編のほうに投稿していました…

即座に指摘してくださった方々、有難うございました!

下手したら数日くらい気付かなかったかもしれません。

本当に助かりましたー!

 新たな仲間が参入して、父や勇者が随分と楽になったことは確かでした。

 余裕が出来たと言えばよいのでしょうか?

 勇者の顔が、随分と明るくなったのですから。

 単純に考えて負担が減ったのですから、その心境の変化は大きなものでしょう。

 肩の荷が下りたとも考えていたかもしれません。


 勇者一向に上向きの変化をもたらした二人の新しい仲間。

 ギャンブラーと商人。

 そんな彼らの主な役割は、戦闘…

 ……の、際に私を連れて物陰にひっそりと潜むこと。

 隠れつつ、堪え性のない子供(私)がふらふら飛び出さないよう、一緒に遊ぶことです。

 一言で言えば、子守。

 戦闘中はどうしても足手まといになってしまう私と一緒に隠れている毎日。


 一夜の火遊びに身を焦がすギャンブラーと、嫁に逃げられたばかりの傷心商人。

 子守には不適切な人間に思えますが、意外と二人とも面倒見は良い人でした。


 戦闘に駆り出され、剣を振るう勇者アレス。

 片手に法具、片手にモーニングスターを携えて勇者を支援する神官の父。

 そんな二人を遠目に、木陰や葉陰から応援しつつガラガラを振るう商人。

 繰り返し読まれた絵本を情感たっぷり、演技力しっとり朗読するギャンブラー。

 子守二人に遊んでもらって、上機嫌な私(いつのまにか五歳)。

 メンバーの過半数(私含む)が戦闘に不参加です。


 父や勇者の戦闘を尻目に。

 私と商人とギャンブラーの三人は、日々ほのぼのとした時間を共有していました。


「いやいや、だからな? そこはもうちょっと指先の感覚を大事にして…」

「うぅ? こーお?」

「そうそう、うまいうまい! お前才能あるぞ、アディー」

「またサイコロですかー? そんなこと教えてるってバレたら、神官様に殺されますよー」

「ばっか、こういうのは一回バレた後だからこそ、もうやるまいって油断がだな?」

「………そういえば前に既にばれて殺されかけてましたよねー」


 暇潰しか、それともそれが彼らなりの教育の一環だったのか。

 子守を一手に引き受ける、戦闘中。

 それはいつしか、二人の知識と技術を伝授される時間になっていました。

 ギャンブラーからはカードやサイコロの扱い方、ここぞという時のイカサマのやり方を。

 商人からは経済や流通、埋もれた逸品の見分け方から珍品や名品に関するお得な情報を。

 それぞれギャンブルの極意や金銭の活かし方などなど…

 二人の取っておき、同業者には絶対に教えないコツの数々。

 父と勇者の知らぬ間に、私は知らず知らず、みっちりと仕込まれまして。

 今思うと、どう考えても穢れた大人の情報豆知識。

 子供は知らなくて良い領域に関する後ろ暗くて黒い情報ばかりだったような…

 年にそぐわず、なんだか金儲けに関する知識にばかり詳しくなっていたような…

 教育に悪いと、父の嘆くようなことばかり教えられていたような気がします。

 しかしそれも、きっと彼らなりの将来困らないようにという善意だったのでしょう。

 我ながら、一行唯一のお子様として可愛がられていたと思います。

 …まあ、そもそも勇者一行に戦力度外視の子供がいること自体、おかしいのですが。



 なんとか上手く回っていた、私達の、勇者アレスと父と、その仲間達の五人旅。

 しかしこの五人体制の破綻も、私達が思っていたよりも早く訪れたのです。

 それは旅の最終目的地、魔境……………に、入るよりもずっと早く。

 魔境に近づいてきたと、実感が持てるようになった頃のこと。

 

 まず離脱したのは、商人でした。


 一行を離れる。

 そう申告を受けた時、私達は誰もが寝耳に水の状態で。

 前兆もなく、事前に相談を受けたという者もなく。

 本当にいきなりだと、私達にはそうとしか思えませんでした。

 

 なぜ?

 顔色を青くして疑問を呈した勇者に、商人は神妙な顔で理由を語ります。


「実は、田舎の母から手紙が来まして…」


 こんな魔境に程近い場所まで手紙が来たことも驚きなら、旅暮らしで所在の掴めない商人にわざわざ手紙を届けた猛者がいることにも驚きでした。

 どうやって所在を掴んだのか、不思議でなりません。

 きっと、私には並々計れぬ苦労がそこにはあったはず。

 そんな苦労を押してまで、商人に届けられた手紙とは?

 そこにはきっと、ただ事ならぬ事情が記されていたのでしょう。

 勇者や父は、一気に深刻な顔で。

 商人が何を語るのかと、固唾を呑んで見守りました。

 果たして、商人はこう言ったのです。

 

「隠居していた父が、新たに起こした事業で一儲けしたらしく…」


 その言葉で、深刻な空気は霧散しました。

 張り詰めた空気に不安を抱いていた幼子の私は、意味も分からず緩んだ空気にほっとして。

 無邪気に笑う私の頭を、商人がいつものようにそっと撫でてくれました。

「私は戦闘でも不参加で、これといって役に立つような…どうしても私でなければ駄目だという、そういう役目はありませんから。田舎の両親も、手が足りないので手伝ってほしいと、何処で野垂れ死んでいるかもしれない私にわざわざ手紙を送ってくる程です」

 だから、離脱を許してほしいと。

 そう語る商人の顔はきりっとしていて。

 その瞳には、新たな商売への野心を燃料に、炎が燃えていました。

 男の顔だと、ギャンブラーは言いました。

「それに、私には夢が出来ました。皆さんとご一緒させていただいて、生まれた夢が」

「え…?」

 何か夢が出来るようなことをしたかな、と。

 道々、子守しかさせた覚えのない勇者が首を傾げましたが。

 それにこそ、「それですよ」と商人が笑うのです。

「私はこの三年、アドニス坊ちゃんと間近に接してきました…だからこその夢です。


  そう、世の恵まれない子供たちの為に、素敵な孤児院をこさえるという…!!


その夢のためには、こんなところで……魔境でなんて、死んでいられません!

私を拾ってくださった皆さんには感謝しています。

でもいつ死ぬとも知れない旅を続けて、夢を捨てる訳にゃ…!

親のいない、親に恵まれない子供たちがアッシを待っているー!!」

「落ち着け! 落ち着け、お前…人格変わってるゾ!?」

 夢を語っているうちにヒートアップした商人は、ほとんど勢いのままでした。

 その手にいつの間にか自分の荷物を掲げ、今にも逃走の構えです。

 勇者や父としては、商人は子守要員。

 どうしても離脱を認められない、という相手ではなかったのですが…。

 問題は、私にありました。


 いきなり出て行くと聞かされ、その内容を理解して。

 私はうるうると涙目だったのでしょう。

 普段優しく、私との時間を大事にしてくれる父。

 しかし毎日の多くの時間、子守として一緒にいてくれる遊び相手の商人。

 別腹です。

 父や勇者さえいればいいなんて、私にはとてもではありませんが言えませんでした。

 そう、子守として遊んでもらっていた私には、商人も掛替えのない仲間で。

 私は彼の服の裾をはっしと掴み、見上げながら涙目で訴えたのです。

「しょーにぃ…どっかいっちゃうの? ぼく、おいていっちゃうの?」

「ああ、アドニス坊ちゃん…!」

 普段、過酷な旅の空気を察してか、他に理由があったのか。

 今となっては理由など過去の中に散逸してしまって、分析しても良く分かりませんが。

 私は、我ながら滅多に我儘を言わない子供でした。

 むしろ、ほぼ皆無。

 この年頃の子供としては、おかしいくらいに。

 その子供が、全身で嫌だと訴えるのです。

 常日頃、子守として時間をともにしていた商人も別れ難いものがあったのでしょう。

 私達はひしと抱きあい、涙ながらに大げさな別れを告げたのです。

「私も、坊ちゃんと離れるのは寂しく、辛いですー!

しかし男には時として縋る家族に別れを告げ、背を向けなきゃならん時があるんです!」

「それ、いまじゃないとだめー? だめなの? ねえ」

「そう、今です! 今以外にいつしろと!? 常々言っていましたが、坊ちゃん!」

 その時、常に行動をともにしていた三人…

 私と、商人と、ギャンブラー。

 互いの発言を一番近くで耳にしていた私達三人の声がぴたりと揃いました。


「「「好機、逸すべからず。時は得難くして失い易し」」」


 こんな時だけ合わせてくるギャンブラー。

 彼は、商人が離脱を申し出てから初めて、口を開いて。

 そしてその流れに逸れることなく、商人の肩を叩いたのです。

「お前の決意、俺は受け取ったぜ? 最初は全部失った腑抜けの、生きる屍だったのにな。

よくぞそんなことをほざくまで立ち直ったもんじゃねーか。

………アディーのことは俺に任せな。お前の分まで遊んでやっからよ」

「応援、してくれるんですか…?」

「当たり前じゃねーか。俺とお前…アディー坊やと一緒に遊んだ仲、だろ?」

「おお、我が兄弟よ…!」

「お前と兄弟になった記憶はねぇぞ?」

「そのくらいの絆を感じる、ということですよー! いっそ義兄弟になってしまいましょ!」

「よせよせ。商人なんて利権の為に親兄弟も売るような人種じゃねーか」

「ははははは…!」

「って、否定しねぇのか」

「はははははははははっ!」

「否定しねぇのかよ、おい!」

 最後、私達は涙を拭い、笑いあって道を分かちました。


 離脱の承諾をまだ出してもいなかった勇者と父は、二人だけ置いてきぼりで。

 話についていけず、置いてきぼり感に満ちていました。


 

 こうして、いささか派手に惜しみあって分かれた私達。

 ですが更なる別れもまた、間近に迫っていたのです。


 商人が離脱し、男四人となった旅の行き路。

 私はいつしか、六歳になっていました。


 それは、魔境に到達しようかという頃。

 魔境へ入る前の、最後の町へと到達した日のこと。

 いよいよ旅も佳境に差し掛かり、後はもう旅も過酷さを増していくだけ。

 完全な安全地帯として保証が有る場所は、此処が最後。

 それが分かっていたからでしょう。

 父と勇者はじっくりと話合い、一つの決まりを下しました。

 それは、最後の骨休め。

 これ以後、気を張るばかり。

 休むことも憩う事もできない。

 だからこそ。

 もしかしたら死ぬかもしれない、からこそ。

 この町で、羽を伸ばそうと決めたのです。

 まさに、最後の休暇として。


 それぞれがそれぞれの、やりたいことしたいことを。

 そう言い合って、私達は一度分かれました。

 心残りをなくす為、それぞれの自由行動を取ったのです。


 父は、葛藤していました。

 ここまでつれてきてしまったけれど、私をこれより先まで連れて行っていいのかと。

 恋人を亡くしたばかりで、まともな判断能力のなかった頃とは違います。

 それこそ、危険ばかりの場所に行こうというのです。

 その最中、私や父が死なないとは誰にも言えません。

 父は今更ながら、幼子を連れて行くことに躊躇いを見せていました。

 連れて行くのか、置いて行くのか。

 連れて行けるのか、置いて行けるのか。

 いっそ、自分も一緒に残ろうか………

 その躊躇いを、未練を、心残りを。

 全ての葛藤を振り払い、決断を見出そうと心の中で藻掻きながら。


 父と私は遊びました。

 自由時間の間中、ふたりで目いっぱい。

 近年…というか、ギャンブラー達と仲間になって来、初めての親子二人きりで。

 水入らずという言葉をそのまま表すように。

 朝から日の暮れるまで、二人で過ごしたのです。


 普段忙しく、中々滅多に独り占めできない父と二人きり。

 そんな滅多にない状況に、私も大喜びで。

 父の内面でどのような葛藤が渦巻いているのかも知らず。

 父に目いっぱい遊んでもらえる状況に、笑みを消す暇もありませんでした。

 きっと、六年間の人生で最良の一日でした。


 そして、父は決断したのです。

 私を連れて、自分も魔境に行くと。

 親子ともに、道果てるとも。


 それは父の自己満足だったのでしょうか。

 いえ一応、父も私に意向を聞いてみたそうです。

「アドニス、貴方はどうしたいですか? 行きますか、残りますか。

危険ですから良く考えましょう。どうしたいのか、父に言ってごらんなさい」

「んー? ぼく、行けるよー? うん、一緒に行く!」

 すかっと頭から消えて覚えていませんが。

 そんな感じのやり取りがあったようです。

 本当に、全く、記憶に残っていませんが。

 …父に遊んでもらって、嬉しい楽しいという記憶はあるんですけどね。

 どうも楽しさにまぎれて忘れてしまったようでした。


 結局私を連れて行くと言い渡され、勇者が頭を抱えていました。

 どうやら事前に、父と勇者も何かの相談をしていたようで。

 私を連れて行くか否か、決めることを知っていたのでしょう。

「何でそこで、結局連れて行くって結論になるんだ…?」

「神の啓示です」

「言い訳が適当すぎる…! 神の名を都合よく使い過ぎだろ、神の僕!

お前、都合の悪いことがあったら神の啓示で誤魔化す癖、どうにかしろよ!」

 どうやら、いつもこの流れで勇者は父に言い包められているようです。

 そんな父の癖は、将来的に私も大いに活用させてもらい訳ですが。

 そんな将来など知らない二人は、てんやわんやと大騒ぎ。


 そんな最中に、ギャンブラーがいつもの夜遊びから帰ってきたのです。

 いつもとは様子の違う、どこか陶然と浮かれた様子で。


 彼は、言い争う父や勇者には目もくれず、囁くような声で言いました。


「俺、離脱するわ」


 瞬間、父と勇者はぴたりと動きを止めて。

 異口同音に、同じ口の動きを見せたのです。


「「はあ!?」」


 どこかぼんやりとした面持ちのまま、何となくふわふわした様子のギャンブラー。

 だけど口だけはきっぱりと、自分の強固な意志を示すのです。


「俺、結婚する」


 その言葉に、父も勇者もただただ言葉を失っていました。

 ギャンブラーの彼から聞くのに、こんなに意外性のある言葉もなかったので。


 人間の領域、最後の町。

 最後の休養と、羽伸ばし。

 いつもいつも夜遊びに精を出していた、ギャンブラー。


 彼はなんと、一夜の恋に永遠を見出したと言うのです………


 常であれば、こんなに喜ばしいこともありません。

 きっと、今でなければ素直に祝いの言葉を告げたはず。

 一緒に喜べたはず。

 だけど現実はどうでしょう。

「おめでとー!」

「ありがとな、アディ坊や」

 嬉しそうに、今まで見たことのないはにかみ笑いで喜びを顕にするギャンブラー。

 その空気は、かつてなくふわふわと花が飛んでいるようでした。

 そんな彼を、複雑そうに引き攣った顔で見ている大の大人が二人います。

 

 結局、素直に祝いの言葉を口にしたのは私(六歳)だけだったのです。


 しかしこればかりは仕方のないこと。

 その気の無い者を、強引に連れて行けるほどの鬼はここにはいませんでした。


「ずっと一緒に、最後まで一緒にいるっていったのに、ごめんな。アディー」

「ううん、いいの! パパだってゆーしゃだって、いるもん…!

それにぼく、しょーにんとやくそく、したんだよ。ぼく、なかない良い子になるって。

おにいちゃんたちがいなくっても、もうなかないよ」

「アディー…こんなろくでもねぇ環境で、良い子になったなぁ」

「さ、さみしぃ、けど……っおにぃちゃん! おしあわせに、ね!」

「いつでも遊びに来いよ、待ってるからな…!」

「うん、うん、またね…!」


 こうして、ギャンブラーは一行を離脱し、その場に残りました。

 私との、涙の別れを後にして。



 そうして結局、男二人と幼子一人。

 勇者一行というにはあまりに頼りない私達は、仕方なく三人で魔境を目指したのです。

 私を連れて行く云々の問題は、ありましたけど。

 しかしそれも気付いたら、ギャンブラー騒動にまぎれてうやむやになっていました。

 父の大勝利です。



 一緒に魔王の元までも行けると思っていた、商人とギャンブラー。

 母の時といい、破綻するのが早すぎる気がします。

 まだ魔境に辿り着きもしていないのに。

 結局、最終的に勇者に残された仲間は、最初から側にいた父と、私の二人。

 もしかしたら勇者と父は仲間に恵まれない星の元に生まれてきていたのかもしれません。




次回、勇者一行がとうとう魔境に!?

立ちふさがるのは……当時のハテノ村村長!?

この苦難に、彼らは立ち向かえるのか…!


…という感じになりますが、実際のものとは印象が異なるかもしれません。←広告詐欺予告。


次回はセネセネ様が出てくるところまで頑張りたいな、と思います。

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