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神官アドニスの生い立ち3 (とある女魔王の鬱・裏面)

まだまだ神官アドニスの生い立ちが続いております。

もっと早く終わるかと思ったら、書き始めたらネタが、ネタが…!


女魔王をお待ちの方、もう少し待っていただけると嬉しいです。


今回は釣り勇者の新たな仲間参入エピソード(笑)

 母を失い、勇者と父と私の三人。

 男二人の育児をしながらの旅路は、驚異的なことですが一年半も継続しました。

 しかし自分達だけじゃ無理だと勇者アレスが根を上げて、変わる状況。


 勇者が新たな仲間を募ったとき、私は二歳になっていました。

 かろうじて、うっすらと記憶が残る頃合です。


 二歳の子供というのは、厄介なもの。

 赤ん坊は赤ん坊で手がかかって厄介でしたが、二歳児は単純に歩きます。

 喋りもしますが、歩きます。

 つまり、活動範囲が増えてしまうのです。

 目を離せないし、放っておくとうろちょろ動き回る。

 更に何をするのか分からないので、父はより一層目の離せない我が子にかかりきり。

「か、回復頼む…!」

「はいはい。まだもうちょっと耐えられるでしょう。少しお待ちなさい。

ほらアドニス、得体の知れないきのこを食べてはいけません。お腹いたいいたいですよ~?」

「だから戦闘中だって言ってるのにぃ!!」

 成人済みの上、幼少期から互いによく知っている勇者の扱いはかなりお座成りです。

 気心の知れた親友ゆえ、扱いが酷くなるのでしょうか。

 父の勇者に対する扱いは、今思えばかなり雑でした。


「新しい仲間を探そう」


 そう言った勇者の目は、そういえば涙目だったかもしれません。




 その後、勇者の希望を採用して仲間を探すことにしたのですが………

 今だから言います。

 仲間の募集を募った場所が、場所でしたし。

 勇者は仲間を探す場所を、間違えたのかもしれません。


 有能な人材を探すためには、とにかく人の集まるところ。

 その発想は悪くありませんでした。

 勇者と父は、あらゆる人と物と情報が集う場所…

 交易商路と呼ばれる、大陸の大動脈。

 様々な国々の交易中心地とまで言われる、一大商業都市に足を向けました。

 

 人が集まり、珍品が集まり、金と情報の集う場所。

 集まるものがあれば、それに対応した市場が開かれ、商売が興ります。

 人の…行商を行う旅人の多いその都市には、近隣に名をはせる一大歓楽街がありました。

 勇者は都市の顔役に掛け合い、方々に募集通知を出して正式に仲間を募ったのです。


 様々な商売が顔を出すその都市は私の情操教育に悪いと、父は主張しました。

「なので、私はアドニスとペーター(山羊)と宿に引きこもっています。後はよろしく」

「なんでだよ!?」

 父の主張も、分からないではありません。

 ギラギラと輝くその都市は、幼子の目にも誘惑と好奇心の源が多すぎました。

 歓楽街は裸と変わらないような姿の男女が客を引き、怪しげな露天が立ち並びます。

 仰々しい格好で派手な身振り手振りの大道芸人は裏の仕事を隠しもしません。

 賭博に身を落とすものがいれば、絶対の自信を元にいかさまに手を出して命を失う者。

 花売りの少女から花を買おうとして、背中にナイフを突き立てられて命を財布を失う者。

 人の身を取引材料にするものもいれば、人間そのものを商品にする裏の商人もいて。


 はい、治安悪すぎです。

 さすが近隣に名を馳せた、悪辣の都。


 いえ、まともな部分もあるんですよ?

 真っ当な行商さん達が、汗水垂らして真っ当にお金を稼ぐ場所もあるんです。

 しかし都市の顔役さんが根城を構えるのは、都市の中でも特に治安の悪い場所で。

 歓楽街の奥の奥の更に奥。

 裏の人間と一部の狂人と命知らずだけが潤いを得られる場所です。

 とても真っ当な子連れ狼が立ち寄れる場所ではありません。

 ですが顔役に仲介を頼んだ以上、連絡を取り合うために近くにいる必要があって。

 その関係もありました。

 それ以上に、今後の甘い蜜を狙って顔役が勇者アレスの足止めにかかりまして。

 都市にいる間、勇者アレスは顔役の屋敷に滞在することになってしまったのです。

「あんなところにのうのうといられるほど、私の道徳心は死んでいません」

 うっかり奴隷商人にでも私を攫われては大変だ、というのが父の主張で。

 しょんぼりと肩を落としながらも、勇者はその訴えの正当性を認めました。


 そうして、旅を始めてから初のことですが。

 勇者アレスと父は完全なる別行動を取りました。

 その間、仲間探しは完璧に勇者アレスに一任(まるなげ)して。

 勇者による仲間選びは、じっくりと半年をかけて行われました。


 …そして、集った仲間は。


 勇者アレスは、二人の仲間を見出し、私達に紹介しました。

 旅は過酷であれど、勇者の仲間といえば成功の暁には莫大な恩恵があります。

 有る意味、とってもギャンブル。

 そんなギャンブルに命を賭けようと言う命知らずは結構集まったそうです。

 その中から、これはと勇者アレスが拾い上げた人間は二人。

 仲間が決まったと、勇者は父に彼らを紹介しました。


 新たな仲間。

 女にだらしない色男のギャンブラー。

 それと、商売に失敗して財産の半分と嫁を失ったばかりの商人を。


 勇者アレスが今でも生きていれば、是非とも聞いてみたかったことがあります。

 なんで、その二人?

 幼少期は疑問に思わずとも、長じた私の人生七大疑問の一つともいえる謎でした。


 冷静な顔に淡々とした口調で、父も同じことを勇者に尋ねていた気がします。

 私は子供の聞くことではないと、仲間になったばかりの二人に遊んでもらっていて。

 お陰で勇者がなんと言っていたのか、殆ど覚えていません。

 断片的に覚えている言葉をつなぎ合わせると…


「だって他にまともなのいなかった!」

「あの二人で、随分とマシな方だったんだ!」

「それとあの商人、ここで見捨てたら首くくりそうな気がしてプレッシャーが…!」


 …とかなんとか言っていたような気がします。

 しかしそれも、うろ覚えで殆ど忘れ果てた記憶の断片からの予測です。

 正確なところ、本当はどうだったのか………

 今となっては知ることもできない、勇者アレスの胸の内の出来事でありました。



 その後、父と勇者の間にどのような話合いが持たれたのかは知りません。

 ですがおそらく、話は一応お互いの納得と理解の下、平穏に終わったのでしょう。

 だって、ギャンブラーと商人が本当に仲間になりましたから。

 よろしくとへらり笑った二人の顔は、朗らかに意外と親しみやすく。

 とてもじゃありませんが世界を救う冒険に踏み出す戦士の顔ではありませんでした。

 むしろギャンブラーは夜の街で気だるげに女性を引っ掛けている方が似合います。

 商人は貴族の奥方様に首飾りでも売りつけているほうが似合っていたでしょう。

 そもそも、ギャンブラーに至っては旅支度すらしていなかったような…

 本当にそれで旅立つの、と。

 旅には全然向いていなさそうな派手な衣装に首を傾げたものです。


 何はともあれ、仲間は集い。

 勇者一行は新たなスタートを切ったのです。




 ちなみに戦闘面では、戦い全般が勇者と父に丸投げでした。

 それじゃあその間、ギャンブラーと商人は何をしていたか?


 私(二歳)の、子守要員です。




何とかアドニスがセネアイーディ様(正真正銘8歳)に出会うまでいきたい。

けど、中々進まない…。

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