神官アドニスの生い立ち1 (とある女魔王の鬱・裏面)
とある女魔王の鬱…の、方ではまだ全然目立ちませんが。
セネアイーディ様の将来のお相手、神官アドニスさん。
女魔王の鬱の方で話に組み込みづらいものを感じたので、先にアドニスさんの説明
話を入れることにしました。
生い立ち、と言いながら内容は 釣 り 勇 者 の冒険…的な?
むしろ苦労話の気配が漂っております。
これは、とある神官の生い立ち。
後に魔族の王配となった、白い神官の生い立ち。
私は神官、アドニス。
私の父もまた神官であり、人伝に言葉でしか知らない母は剣士であったと聞きます。
そしてそのどちらもが、魔王と戦い帰らぬ人となったあの方…
勇者アレス。
あの方の、旅の仲間でした。
そもそも私の父と、勇者アレスは同郷で。
見晴るかす遥かな山の裾野に構えられた、のどかな村の出身だったといいます。
幼馴染として二人は育ち、父は神官として経験を積む為に都へ。
当時はまだ勇者ではなかった只のアレスは、羊飼いとしての任についていました。
後に永住の地となる場所で、後々妻となった人に勇者の過去を語ったことがあります。
その時の彼女の反応は、意外なもので。
驚きを顕に言ったものです。
「羊飼いじゃと!? それは人間最強の戦士の称号ではないか!」
…彼女の認識は、私達の常識とはずれている気がします。
しかし実際に羊飼いが勇者になっているのだから…どうなんでしょう?
彼の地は独自のルールや価値観が多すぎて、首を捻ることも多いのですが。
彼らの常識が歪んでいるのか、歪む元となった何があったのか…疑問は尽きません。
まあ、私の疑問は置いておきましょう。
今は、父と勇者アレスの物語です。
二人は幼少の同時期、同じ事件で父親を失った同士でした。
多くの人が身を張る事件でしたが、亡くなったのは二人だけ。
互いに同じ寂しさを抱えた父と勇者は、兄弟のように仲良く育ったといいます。
羊飼いのアレスが青年となり、都へと足を運んだのは父を訪ねての事でした。
私の父は当時、神官として都の神殿で修行をしていたのです。
その、羊飼いアレスが都へと出てきたとき。
まるで図ったかのように、王は選定の女神から託宣を受けたのです。
魔王を倒すための勇者に選ばれたのは、羊飼いの青年。
我が父の竹馬の友、アレス。
この時から羊飼いの青年アレスは、勇者アレスとなったのです。
そして、父は。
未だ修行中の身ではありましたが。
勇者として過酷な使命へと旅立つことが定められた親友を案じ、決心したのです。
勇者アレスの無二の友として、仲間として。
彼とともに、魔王討伐の旅に出ることを。
当時既に回復魔法を修めていた父の同行は、諸手を挙げて歓迎されたと聞きます。
しかし世慣れない青年二人の旅立ちです。
村から都まで移動したことはあっても、本格的な旅などしたことがありません。
そんな二人の為に、国王は新たに同行者を加えました。
それが、当時王国随一の腕を持つといわれた女剣士。
貴族の出身でありながら剣の道を志した、信念の人。
私の、母です。
はい、このあたりで何となく話の先が見えた気がしますね?
私の母は、青年二人よりは少しマシという程度で、やはり世慣れぬ人でした。
元より軍務の一環として行軍経験はあっても、騎士団という隔絶された世界にいた人。
それ以前はより限定的に行動を区切られた、貴族社会に生きていた人です。
王様も庶民の旅事情など知らないので、こういった人選に落ち着いたのでしょう。
野営や戦闘という厳しい面では二人の青年を圧倒していましたが…
生活面など、他の様々な部分では母の方が教えを請う立場であったそうです。
しかし持ちつ持たれつ、三人の関係は最初は上手くいっていました。
父と、母が恋仲になるまで。
考えても見てください。
バリバリの、前衛戦闘職と回復役の二人です。
もうこの時点で、有る意味二人の関係が恋愛に落ち着くのは宿命のようなものです。
何しろ三人旅。
回復役は、父一人。
回復役の父は、一行の命綱。
その父を失えないと、回復の重要性を軍務経験で母は知っていたのでしょう。
戦闘専門職で鍛えた母の方が当時は勇者アレスよりも強くて。
戦闘の度に、神官である父を守る為、母は体を張って戦いました。
そして母が傷つく度に、全力で守られた父が懸命に心を込めて回復したのです。
父を守って怪我を負う母。
そんな母を癒す父。
二人が男女として惹かれあうのに、時間はかからなかった…と。
勇者アレスが、遠い目で幼い私に語ったものです。
逃げることも出来ない三人旅の中。
勇者アレスは、全力で居た堪れない思いをしていたそうです。
この上、二人が破局でもしようものなら…勇者は、戦々恐々としていました。
次回も、神官アドニスの生い立ちの予定です。
女魔王をお待ちの方は、少々お待ちください。




