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とある女魔王の鬱3

場の状況は全然動いていませんが。

2の直後、勝負の行方は?

 驚愕。

 驚き立ちすくむ、勇者の一行。

 間抜け面を曝す彼奴等を前に、妾は悠然と笑って見せる。

 どうじゃ、勇者ども。

 


   とある女魔王の鬱3



 勇者は呆然と突っ立ったまま、言うべき言葉を見つけられずにいた。

 目の前には、幼い女の子。どう見ても幼女です、はい。

 それが自分達に挑戦的な目線を傾け、年齢にそぐわぬ大物のオーラを纏っている。

 状況が理解できなくて、勇者はうっかり悩んでいた。

 この状況は、一体なんだろう。

 あの女の子は、一体何者なんだろうと。


 ここで突然ですがQ&A!

 Q:あの女の子は何者か?


 ヒント

 ・ここは魔王城、玉座の間

 ・座っている椅子がどう見ても玉座

 ・先刻投げつけられた物体は王錫

 ・頭には禍々しいデザインの王冠


 さあ、お答えは…!?

 A:



「……………」


 自分で荒唐無稽な答えを弾き出しそうになり、勇者は頭を振った。

 いくらなんでも、それはないだろうと理性の声がする。

 ほら、よく見てみるとあれだ。

 物凄くかわいい女の子じゃないか。

 まだまだ小さくて、十歳にもなってないんじゃないか?

 とても虫一匹殺せそうにない、深窓育ちのお姫様より無垢に見える。

 そんな相手が、まさか、なあ………?

 

 → 勇者は現実から目をそらした!

    かしこさが18下がった!

    判断力が低下した!


 現実という不可視の心理から目をそらした勇者は、自分を納得させるためだろうか。

 求める姿を探し、首をきょろりきょろりと巡らせる。

 探しているのは、宿命に定められた敵の姿。


「く………っ 魔王め、どこにいる!?」


 言った瞬間、衝撃が来た。


「此処におるわ、この戯け者がっ!!」


 魔王クラッシュ! ←手元にあった水晶玉を投げつけただけ。

 勇者に400のダメージ!


 投げつけた姿勢で固まった少女は、玉座の上でしっかりと両足を踏み締めていて。

 その瞳は、怒りにぎらっと光り輝いていた。


「貴様、魔王(わらわ)の存在を無かったことにしおったな…!?

こんなに堂々と、こんなにあからさまな妾の存在を………!!」


 怒りに燃える美少女は、声高らかに宣下する。


「妾は女魔王セネアイーディ! この魔境と魔族を統べる、最強の女魔族じゃ!!」


 痛々しいほどに気持ち(こころ)の篭った、その叫び。

 怒りのあまりに潤んだ涙目で、きっと強く強く睨み据える。

 そんな美少女の、目前で。

 セネアイーディ様の投げた水晶玉によるダメージに、げほげほと咳き込む勇者。

 水晶玉は勇者の胸部にクリティカルヒットを繰り出していて。

 鎧の真ん中に、深い亀裂とへこみを作り上げていた。


「あ、あなたが魔王…だと!?」


 未だ咳き込み続けている勇者の背を擦りながら、代わりに口を開いた牧師様。

 驚き戸惑う一行の前で、女魔王は嫣然と笑う。

 それは幼い外見には、不釣合いな成熟を感じさせる笑み。

 年数を経た、深みを感じさせる外見とはアンバランスな笑み。

 麗しい笑顔に歪を感じ、巫女がはっと息を呑む。

 世の中の様々な物事を見据えてきた吟遊詩人が、痛ましく顔を歪ませる。


「そんな……こんな  幼 い 子  が、魔王だなんて………!」



 瞬間。


 セネアイーディ様が、吼えた。



「誰が、だれがロリじゃと…!?」

「陛下、陛下、誰もそんなこと言ってないっすよ! 過剰反応しすぎですって!」


 ああもう、普段から周囲の反応が酷くて、幼いとか禁句なのに、と。

 焦った様子で影に控えていた側近が、今にも暴れそうな魔王に取りすがって宥めにかかる。

 だが、気心も知れてある程度の無礼も許せる相手とは違い、勇者達は初対面の敵。

 そんな相手に地雷を踏み砕かれ、セネアイーディ様は納まりつかなく猛っている。


「妾は、妾はこのような(なり)ではあるが、見た目通りの年齢じゃと思うでないぞ!?

かような幼い形でも、少なくとも貴様らよりは長う生きておるわ………!」


 魂からの叫びとともに、セネアイーディ様は欠くことの出来ない主張を叫ぶ。

 先程から思いがけない事実発覚の連続に、勇者達がまたもやびしりと固まった。


 セネアイーディ様の、側近。

 情報収集を得意とする側近の報告によれば、勇者一行の最年長は27歳。

 対してセネアイーディ様の年齢は28歳なので、誤った事は言っていない。

 ただ、勇者一行からかなり早い段階で体力の限界を理由に離脱した、かつての仲間。

 老修道女(やっぱり回復職)がいれば話も別であっただろうが。


 今にも暴れだしそうなセネアイーディ様。

 その叫びに反応したのは、勇者。

 彼は魔王の見た目通りではないという言葉に反応して…


「では、二十年前…二十年前、先代勇者だった父を殺したのはやっぱり………!?」

 

 そして今回も、最後まで言いたいことを言えずに終わりました。

 セネアイーディ様が投擲した、ペーパーナイフをその身に受けかけて。

 

 威嚇するように勇者の頬をすれすれで飛んでいくペーパーナイフ。

 勇者様の頬を、だらりと赤い液体が垂れ落ちた。


 玉座の上には、暗澹たる空気を背負いながら黙り込む女魔王 (ロリ)。

 べったりと血を流す頬を押さえながら、硬直する勇者。

 皆が息を呑む中のこと。

 いきなり雰囲気を暗転させて静かになったセネアイーディ様の、地響きの如き声がする。


「貴様、貴様………貴様、釣り勇者の息子かぁぁああああああああっ!!」


 そしてセネアイーディ様が噴火した。


 その叫びに、さっきとは違う意味で佇む勇者。


「………釣り?」


 亡父に授けられた異名の意味が、本気で息子は分からない。


 そんな勇者の様子になど、目も向けず。

 女魔王は両手で顔を覆い、嘆きの中にいた。


「貴様が…! 貴様の父が……っ! 我が父君様を釣りになど誘わなければ!!」


 そこはせめて「誘う」ではなく「挑む」と言って差し上げてください、セネアイーディ様。

 勇者と魔王の様式的に、その図式は何かおかしいです。


「『魔王、釣りで勝負だ☆』なんて言う様な勇者でなければ、妾は! 妾は…!!」


 色んなものが言葉にならない、セネアイーディ様。

 だけどその嘆きは本物で。

 言葉に込められた気持ちも、本物で。


 → 勇者 は ますます 混乱した!

  頭 の 中 が 飽 和 状 態 に な っ た 。


 混迷する場を納められるほど、魔王の気持ちを静める手段など、勇者は持ち合わせない。

 確かに何かしらの理由で場の雰囲気が変わったはずなのに、どう変わったのかも分からない。

 勇者はただただ呆然と、木偶の坊と化していた。


 彼が問いかける言葉を持つのは、仲間のたった一人に対して。


「あ、アドニス…! 魔王の言葉はどういうことなんだ!? 釣りって、釣りって…!!」


 自分の父が想像とは違う方向に偉業をなした気配に、彼は恐怖した。

 どうしよう、自分が考えていたのとなんか違う。

 その言葉が羅列する頭をすっきりさせてくれるのは、この目の前の神官だけのはず。

 そうと確信し、勇者は信じて疑わない。


 だが、果たして。


 白い面の神官は。

 勇者にとって幼馴染という間柄にあたり、誰よりも良く知っていたはずの、


 神官は。


 勇者の予想を更に反する事態となったのだが。

 彼の混迷・混乱を更に助長させるような行動にしか出てくれなかったのだ。


「すみません…っ 幼子には酷と思い、私も父も真実を伝えきることが出来なかった…

そう、貴方のお父様である、先代勇者のためにも…!」


 そう言って、くっと息を呑み、顔を覆ってうつむいてしまう神官。

 勇者の望みと反し、その言葉が意味するものは…


「あれっ 肯定された!?」


 勇者、棒立ち。


 勇者が突入し、魔王を討たんと立ち向かう。

 そんな、英雄叙事詩にも出てくるような厳しく過酷でありながら、華々しい試練の場で。


 勇者の父である先代を「釣り」と罵る女魔王(どこからどう見てもロリ)。

 その言葉に呆然として戦いを忘れたような風情の若々しい勇者(22歳)。

 魔王の言葉を肯定し、沈鬱な仕草で勇者の精神を更に追い詰める神官。

 おろおろと右往左往する他の仲間達。


 魔王の謁見の間は、対決とは別の意味の悲壮感に満ち満ちて。

 勇者達を飲み込み、困惑と混迷の只中にあった。










当時の勇者一行


 聖騎士の勇者  カロム・エンヴィー

  武器:ロングソード

   戦闘コマンド/戦う かばう 光る 白魔法 


 封呪の巫女   シェルカ・キリス

  武器:鈴

   戦闘コマンド/トランス 祈る 神降ろし 白魔法


 色白の神官   アドニス・ヴォーダ

  武器:錫杖

   戦闘コマンド/戦う 祈る 説教 白魔法

   (隠しコマンド/買収)


 吟遊詩人の青年 マリウス・ラロ

  武器:竪琴、ダガー

   戦闘コマンド/歌う 踊る 隠れる 白魔法


 微笑み牧師   アレクサンダー・ガストルニス

  武器:十字架、鞭

   戦闘コマンド/戦う 祈る 買収 白魔法

   (隠しコマンド/脅迫)


 柔和な老修道女 エスメラルダ(年(68歳)を理由に途中離脱)

  武器:モーニングスター

   戦闘コマンド/戦う 祈る 結界 白魔法



戦いの空気じゃなくなってしまった対決の場。

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