新たなる竜の生まれた日4 ~盗まれたキラキラ~
急遽ちびっ子ギャングの襲撃を受けた子守バイトの蜻蛉竜、メガテン。
彼は己の保身の為、子供達の注意を他へ逸らすことに腐心していた。
お子様が二人がかりで追い回した結果。
「相手は手を出しちゃならない相手。これはオイラの分が悪いっすよ!」
蜻蛉竜は子竜達を抱えて、なんととんずらしてしまった!
あんなに小さいのに、下手すれば自分よりも大きな子竜を5頭も6頭も10頭も抱えてしまうその姿に、幼女達は大喜び。ついでに、抱えられた子竜達も大喜び。
そのままあの薄く脆く儚そうな蜻蛉羽で【竜の谷】のいずこかへ飛び去ってしまった。
留守番を言いつかっている以上、蜻蛉竜が【竜の谷】の外へ出ることはない。
幼女達はそんなことなど知らなかった。
だが、それでも思いこみ同然に「この里のどこかにいるはず」と、根拠なく信じていた。
まあ、それは当たりだった訳ですが。
「よぉし、かくれんぼだー!」
「かきゅれんびょー♪」
逃走されたというのに、非常に前向き、かつ楽観的に。
幼女達はわくわくと、可及的速やかに行動した。
これはかくれんぼだと、蜻蛉竜の気持ちも知らずに。
ここならばもう追ってこれまいと。
蜻蛉竜が気を抜いて油断する。
そこへ、じりじりと。
しかし確実に近づく幼女達の気配も感じることなく。
「あ、また分かれ道ー」
「あう」
「せっちゃん、今度はどっちかなぁ」
「うー………あっち! でしゅの」
「よし、じゃあっちにいこ!」
「あい!」
まだ、大した魔法もろくに使えないのに。
しかし魔王姫の名は伊達ではない。
これはこういうものだと、認識すらしないままに。
せっちゃんは、無自覚に己の感覚を使いこなしていた。
即ち、生き物の気配と魔力を追跡する、第六感めいた気配の察知能力を。
お陰でせっちゃんは、かくれんぼなら負け知らずだ。
今回はリアンカちゃんも便乗し、ゆっくりと、だが確実に標的との間合いを詰めていく。
やがて彼女達が辿り着いたのは、【竜の谷】の最奥宮。
真竜の王族が居住区とする、特別な宮だった。
「るんたるんたるーん♪」
「みーんみんみんみん!」
「む? えーと…つ、つくつくほーしつくつくほーし!」
「じーわじーわじーわ!」
「にーいにーいにーい!」
無邪気な幼子達は、今日も絶好調に傍若無人だ。
これはいけないこと。
そんな罪の意識も、危機意識もなく。
無遠慮に、躊躇なく。
ぽってぽってと華美な建物に踏み行っていく。
思いっきり全力で、不法侵入以外の何物でもない。
幼子だからこそ、許されること。
これで子供でなければ、捕獲されて説教どころでは済まないだろう。
何故ならこの宮には、真竜族の『宝』が守られているのだから。
その宝とは、子………真竜の未来を守り、一族の将来を担う、王族の子。
まだ生まれてもいない、ぴかぴかの卵たち。
色とりどりのそれは、まるで宝石のようで。
安置された部屋の中、絹とビロードに包まれ、柔らかく守られている。
そんな、何よりも大事な部屋に。
幼女様達、超侵入。
「ほあーっ」
「ふわぁ!」
感嘆の声を上げる、ちびっ子たち。
最早頭の中から、蜻蛉竜を探そうと思っていた記憶は吹っ飛んでいる。
ただただ、目の前の宝石のような卵達にうっとりと見とれていた。
きらきら、きらきら。
卵に内包された、赤ちゃん達の魔力を溢してちかちか光る。
まるで川底にある水晶が、日の光を照り返して輝くように。
そして女の子といえば、カラスのように光物が好きと相場が決まっている。
「きれいねぇ…」
「きれーえ!」
二人、幼女達は上機嫌ににこにこと笑い合った。
それは美しかろう。
何しろこの部屋にある卵は、どれも全て竜の頂点に座す一族の子等なのだから。
竜の気配と魔力を察知し、追跡していたはずのせっちゃん。
だけど気配を探ろうとすれば、より強い気配を感知してしまうのは当然で。
そのより強いモノにまぎれ、小さく弱いモノは見つけにくくなってしまう。
今日、里に留守番していた竜の子等は、いずれもただの真竜の子。
真竜王族に比べれば、いくらも劣る。
気配を辿っている内に、いつしかせっちゃんは強い魔力…真竜王族の卵の方に引き寄せられ。
生命力の輝きに、本来の標的を見失って。
辿り着いた先は、完全に予想外。
しかし予想外の結果を前にしても、幼女達は気にしない。
それは卵の美しさ故。
素直な感性を持つ幼女達は、完全に本来の目的は忘れ果てていた。
気が逸れると、注意関心も逸れてしまう。
幼女達は夢中で卵を観察していた。
「わぁ、つるつる! それにあったかい!」
「ぽかぽかー! きもちいぃの」
触るなという注意書きがあったとしても、抑止にはならなかっただろうけれど。
それにしても、幼女達は本当に遠慮がない。
彼女達はぺたぺたと、べたべたと。
その手の平で卵をペタペタ触り、頬で擦り寄った。
安置してある卵は、8つ。
その全てに、平等に。、
幼女達は順番に触っていく。
万が一にも落としたら、などということは考えない。
彼女達は完全に、「ただしたい」から「する」という考え方で動いていた。
まるで山賊の様である。
将来、彼女達がならず者にならないことを天に祈ろう。
順番に、卵に触っていた時のこと。
「はみゅ?」
不意に、せっちゃんが足を止めた。
それから不思議そうに、首を傾げて目の前の卵に見入る。
その目は、どことなく切なそうだ。
「どうしたの、せっちゃん。おなかすいた?」
「みゅぅ………ちがいましゅの」
「どうしたの? ぽんぽん痛い?」
「うみゅー………ちがいましゅの。にゃんだか、呼ばれてましゅのー」
「よば?」
「みゅ」
その感触を確かめるように。
せっちゃんが、再び卵に手を寄せると…
ふわり
卵から、温もりに満ちた光が溢れた。
それは、間違いようもない金色の歓喜。
卵が、喜んでいる。
「せっちゃんと、おともだちになりたいのかな?」
「みゅ、おともだち!」
首を傾げて零したリアンカちゃんの一言に、せっちゃんは大喜びで食い付いた。
友達。
その一言にうっとりとより一層の熱心さで卵を見つめてしまう。
嬉しそうな顔に、リアンカちゃんも嬉しくなってしまう。
「うん、きっとおともだちになりたいんだよ!」
「ふわぁ…!」
その解釈は、きっと、たぶん間違いではなかったけれど。
それでも、この後彼女達が下した判断は、確実に間違いで。
「りゃんねーしゃ、この子もりゃんねーしゃとおともだちーって!」
「えー? リアンカもてもて?」
「もてもてー!」
「うちの子になりたいのかなぁ…いっしょにいきたいのー?」
「うー……きらきらしてましゅの!」
数ある卵達の中から、二つ。
それは彼女達に過剰な反応を示した卵。
喜びと期待に、輝いた卵。
それは綺麗に透き通るような、水色の卵と金色の卵でした。
この日、この時。
幼女様達は果物を採りに来ていて。
自分の取り分を詰める為に、まぁちゃんに幼児用リュックサックをもらっていて。
そのリュックサックに、丁度すっぽり収まってしまいそうな卵が、二つ。
………………。
この日、【竜の谷】から二つの卵が消えた。
無邪気な二人のちびっ子ギャングに、かっ攫われて。
そして、成竜達は宴会の為に絶賛お出かけ中。
加えて子守の蜻蛉竜も留守番の子竜達も、王族の宮には立ち入らない。
卵紛失の発見が遅れてしまったのは、どうしようもないことだった。
こうして卵(リリフ&ロロイ)は拉致された(笑)




