新たなる竜の生まれた日2 ~おこさま探検隊(傍若無人)~
幼少期編『子竜たちの誕生話』第二弾。
こちらもきりのいいところで区切ったため、まだ子竜は出てきません。
彼女達がいかにして、【竜の谷】に見咎められず侵入(笑)したかという話です。
「るんたるんたるん♪」
「りんたりんたりん♪」
適当な歌詞をつけ、二人の幼女は手に手を取り合いくるくる踊る。
もっしゃもっしゃと食い荒らした果物の果汁をべっとりと頬につけたまま。
ちびっこ達はきゃらきゃらと笑って、足取りも軽くスキップだ。
小さい割りに器用にステップを踏む姿は、まさに軽快軽妙。
その器用さが、同年代の子供と比べても運動性能の高さを思わせる。
だけど今回、その運動性能のよさがまぁちゃんに災難を呼び込んだ一番の元凶だ。
果物を食べ、はしゃぎまわって駆け回り、踊る。
やがてそうやって遊ぶのにも飽きてきた頃、リアンカちゃんがこう言った。
「ハテノ村たんけんたーい! しゅつどーう!」
「しゅつじょー!」
せっちゃん、それは出場だ。何に参加する気なんだ。
ただいま絶賛、ツッコミ不在で彼女達の無謀な行為は進む。
「それじゃ、せっちゃんがたいちょーね!」
「たいちょ、がんびゃりましゅの!」
「たいちょーしゃんは、行く先をしじ、してくだしゃーい!」
「はぁい!」
そして更に無謀な方向に話は転がり進もうとしていた。
リアンカちゃん、ソレはいくらなんでも冒険過ぎる…。
テンション高く幼子達は、探検ごっこに夢中も夢中。
加えて彼女達の探検は、あらゆる意味で本格的過ぎた。
これも普段の行いゆえか。
子供とは思えない行動力と、行動範囲。
魔境というとんでもない場所を遊び場に育った子供達は、普段からのやんちゃゆえに。
そう、幼子とは思えないほどにスペックが高かったのだ。
「にゃあ、にゃあ♪ ひがちにむかってしゅしゅめー、でしゅの!」
「ひがしってどっちだっけ」
「むー? んーと、えーと、むー………みぎ!」
「じゃ、右にむかってしゅっぱーつ!」
「しゅっぱつー! でしゅの!」
しかしその割りに頭の中身は幼児そのものなので、厄介なことこの上ない。
指針となるべき、年長者。
監督役を欠いた今の彼女達は、まさに野放し状態。
彼女達の行動を止める者は、現在狩りの真っ最中。
幼女達の道を阻むものは、どこにもいなかった…。
「いーざすーすーめーやー………なんだっけ」
「チキーン!」
「あ、なんかそんなかんじ! だった気がする!」
そして彼女達は、ひたすら【右】へと進んで行くこととなる。
ちなみに方角的に見て、そちらは【南】の方だった。
ひたすら、ひたすら真っ直ぐ南へとお子様達は猛進した。
「きゃーあ!」
「きゃあきゃあ!」
喜びの悲鳴つきで。
現在、たくましいお子様達は更にたくましい感じになっていました。
リアンカちゃん、その手に握った蛇はどこから持ってきたんだい?
それ、ボアの子供じゃないですか…。
頭を掴まれた状態で振り回されすぎて、蛇は死んだようにぐったりしていた。
せっちゃんは頭に沢山の花を飾り、さながら生花展覧会の器の如き様相。
それはそれで似合っているのは、輝かんばかりの美少女様なら当然のこと。
しかし頭に咲いた花の中に、一つ食人植物の蕾が混ざっている。
子供達を襲おうとしたところで、
「あ、これきれい!」
「きれー!」
傍若無人なお子様達に、咲く暇も許されることなく、ぶっちとばかりに引き千切られた。
本体と引き離された為に咲く気力も襲う気力も失って、こちらもぐったりしていた。
お子様達はまさに天然自然の暴君様!
襲おうとした側の気力も根気もエネルギーも根こそぎ刈り取り、虐げる。
本人達に虐げている自覚がないあたりが、なんとも言えない。
そんな彼女達の足は、気ままに進む。
それでも当初に決めた【右】の方角から逸れないあたり、驚きである。
真っ直ぐ目的に進めるだけ、彼女達の自制心は余裕があった。
単に、興味の赴くものが多いのでとりあえず真っ直ぐ進んでいただけかもしれないが。
そうして、彼女達の真っ直ぐ進んだ先に。
ひっそりと穏やかな生活を営む【竜の谷】。
新たなる暴挙の被害者となる運命を知らず、谷は静かに沈黙していた。
小さな暴君様達の訪れまで、後15分。
更に間の悪いことに。
今日は竜達にとって特別な日であった。
真竜王の末の妹である闇竜が、嫁ぐ日であったのだ。
嫁ぎ先は、偏屈で変わり者の闇竜の青年。
それでも嫁ぐ彼女にとっては、世界一の男。
幼い日から100年以上をかけて育んできた、淡くも甘酸っぱい幼馴染の恋。
ちなみに初恋かどうかは不明。
しかし長年焦れ焦れしていた幼馴染同士の恋は、周囲も知るところで。
想い合っていることは確実なのに、中々くっつかない二人に、里中がやきもきしていた。
挙句に偏屈者は里の中ではなく、里の外の少し離れた場所に庵を結んでしまう。
お陰で幼馴染カップルは、更にくっつく以前の付かず離れず状態。
誰か此奴等どうにかしろよ! と、余計な口出しを慎みながらも竜達は身悶えしていた。
じれったくてもどかしい。
もういい加減、遠回りしてないでくっついちゃえよ。
そんな思いを里全体に巻き起こした竜達が、今日やっと結ばれるのである。
交際すっ飛ばして結婚かよ、というツッコミはどこからも上がらない。
むしろこれ以上じれじれするのは勘弁してくれと、誰もが急展開の結婚を喜んだ。
今まで二人の仲の進展具合に一喜一憂しながら振り回された里の竜達は、老いも若きも男も女もその別なく快哉を叫んで盛り上がった。
いい加減、じれった過ぎて皆が心配のし過ぎで気持ち悪ささえ感じていた頃だった。
中には胃痛を訴える、殊勝な竜までいたくらいだ。
他人の恋愛に振り回されて胃痛になるドラゴンなど、前代未聞である。
それくらい、自覚なく周囲に過度の重圧と嵐を巻き起こしたカップル。
その結婚を祝わずして、何を祝えというのか。
二人に振り回された竜達は、これで心労から解放されると、いつになく羽目を外していた。
そう、里の竜総出で、嫁入り先の青年の庵まで酒瓶片手に押しかけるくらいには。
それこそ老若男女、動けるものは全員で婚礼の席に押しかけた。
今夜は祝いの宴だ! 誰一人(新郎新婦含む)寝かせねぇぜ☆とばかりの盛り上がりだ。
特に羽目を外していたのが、一番振り回された真竜王。
彼は誰よりも多く秘蔵の酒を持ち込み、キラン☆と目を光らせている。
これまでの鬱憤全てを、押しかけ宴席の酒で晴らす気であった。
当然、真竜王の一番の被害者は、彼をやきもきさせた新郎その人であった。
新郎が酒豪な竜の一員でありながら酒に潰されるまで、後二時間。
そんな目出度いけれどくだらない理由で、現在【竜の谷】は空っぽになっていた。
空をも飛べる巨体の竜にとって『少し離れた』場所にある、新郎の庵。
大宴会場と化した其処は、【竜の谷】から山を3つほど越えた場所だった。
かつて無いほど無防備と化した【竜の谷】に今、お子様達の足が踏み入ろうとしていた。
続きます。




