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はじめてのおつかい(あでぃおんくん26さい) 

サブタイトル

『いざ始まる盛大なる破滅協奏曲 ~前奏~』

 何故、こんなことに…

 彼がそう思うのは、もう何度目だろう?

 目の前に聳え立つ、緑の巨壁………いや、違う。

 それは野菜だった。

 アスパラガスだった。

 ただし手足が生えていた。

 アディオン・ロベル 26歳

 初めての未知との遭遇(であい)だった。

 それが魔境では結構あることだと、この時点で彼はあまりよく知らない。




 それは、勇者様がアディオンを置いて祖国へと旅立って五日が過ぎた頃のこと。

 どこまでも主たる勇者様に付き従う覚悟だったアディオンは、地味に腐っていた。

 乗員オーバーという悲しい現実を前に、悔しさを感じずにいられなかった。

 しかし自分の振る舞いが主の評価に繋がることを、彼は宮廷生活で学んでいる。

 それはもう、骨身に染みるほど学習していた。

 加えて、今の彼は居候として世話になっている身。

 おまけにご厄介になっている先は、今まで数ヶ月に及んで主の世話をしてくれた恩ある家。

 更に言うと、今、この家のご息女(リアンカ)は勇者様の供として遠く旅立っている。

 それがどれだけ危ういことか知らないアディオンさん。

 彼はリアンカが女性の身でありながら主の友となってくれたことに感謝していた。

 加えて、修羅の巣とも言える宮廷へと同道してくれたことにも感謝していた。

 それがどれだけ危うい状況を招くのか、魔境に来て日が浅い彼は本当に知らなかったから。

 今はまだ何も知らないアディオンさんの心の平安は、今のところぎりぎり保たれている。


 そんな、彼に。

 リアンカが抜けた穴を埋めようと、せめて家事など家の仕事を手伝う、彼に。

 ある日のこと、村長夫人が言った。

「アディオンちゃん、ちょっとおつかいに言ってくれないかしらー?」

 それが、アディオンを地獄へと突き落とす破滅協奏曲の始まりを告げる音色であった。

 アディオンは、そんなことには全く気づくことができなかったけれど。

 前奏部分から、ぶっ飛んだお願いをされるとしても。

 それがどれだけ危険なことか、判断できるだけの知識が今の彼にはなかった。


 村長夫人は、こう言ったのである。


「いま、村の端にエルフさん達の行商がきてるのよ」

「エルフ!? 妖精郷(アルフヘイム)でもない、ここにですか?」

「ええ、魔境にはエルフがいますよ」

 けろりと言い放つ、村長夫人。

「それで、行商とは…?」

「この村にはね、時々エルフさん達が珍しい薬草やお里で作ったお野菜を売りにくるの」

「…本当に、行商ですね………」

「それで今、私ちょっと村の寄り合いに行かなきゃ行けなくて手が離せないんだけど…」

「いえ、皆まで言わずともわかっていますよ。何を買ってくればよろしいのですか」

「あらー、お話が早くて助かるわぁ!」

 それじゃあこれとこれとこれを買ってきてね、と。

 渡されたのは買い物籠とお買い物メモ。

 そこには夕飯の材料としてか、複数の野菜の名称が書かれていて。

 中には季節はずれのものもあったが、エルフの野菜は季節に関係がないと言われて。


 そうして、買い物籠片手に。

 魔境での通貨を渡されて。


 彼の破滅への第一歩(おつかい)は始まったのである。


 アディオン・ロベル 26歳。

 勇者様に置いていかれ、一人で過ごす夏の初めのことだった。


 

続くか否かは不明。

今後の気力しだいです。

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