『人妻りっちゃんと秘密の訪問販売員』
とうとう、やってしまいました…。
しかし中身は18禁的な内容とは全く関係なく。
いつも通り闇討ち仮面が最後に降臨します。
「あっ いけません! やめてください、牛乳屋さん! 私には魔王陛下が…」
「え~、今この場にいない男のことなんて別にいいじゃん。
ばれないばれないって! それより俺とさあ、楽しいこと、しよ?」
「………いけないって言っているでしょうが、この***」
「……………え?」
「死になさい。今、すぐ」
* * * * * * *
「…そうか、牛乳屋も失敗したか」
「はっ ただの人妻と侮っていましたが…予想以上に手強い相手のようです」
「しかし、我々にはあの人妻が必要だ。
より正確に言うのであれば、あの人妻に託されたアレが…それは確かだ。だろう?」
「その通りです、総統。調べによりますと、やはり鍵はかの人妻に…」
「く…っ 誰でもよい、総力をあげて鍵の奪取を! 秘密裏などと甘いことはもう言っていられぬ。
我らが訪問販売員組合に、あの人妻を堕とせる者はおらぬのか!?」
「――そう言うことでしたれば、総統。俺にお任せを」
「っ! 貴様…!?」
「あ、貴方は…『訪問販売とは違うだろう』と組合を追放された白山羊の郵便配達員殿…!?」
「ふっ…まだ俺のことを覚えておいででしたか。
ええ、この俺、白山羊の郵便配達員が次なる刺客の任を負いましょう」
「待て! そもそもお前は、我らが訪問販売員組合の者では…」
「総統」
「…ッ」
「例え除籍されたとはいえ、俺は未だにあの日の夜を…
………総統に拾われた恩を、忘れてはいませんよ」
「郵便配達員、貴様…?」
「それでは、成功の暁に再びお会いしましょう」
「待て、郵便配達員…!」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「ヨシュアン…? これは一体どういうことですか…?」
「あ、あはははは、はははー……リーヴィル、ご機嫌麗しゅう…?」
「全くもって麗しいわけなどないでしょう!!」
「ぎゃーやっぱりー!!」
回廊にて。
壁画の修復作業に精を出していたヨシュアンの前に、仁王立ちのリーヴィルがいた。
鬼の形相で。
原因は明らか。
それはリーヴィルが持ってきて、たった今ヨシュアンの足もとに投げ捨てられている。
『人妻りっちゃんと秘密の訪問販売員』
By ヨシュアン
それを目撃した壁画修復チームのメンバー達が、さっと目を逸らす。
死んだな、あいつ…そんな声が聞こえる。
しかしヨシュアンは自殺志願者になった覚えはない。
その人生の命題と職務上、危ない橋を渡ることはある。
だけど、自殺する趣味はないつもりである。
「これは、なんですか…?」
でも今、目の前に死神がいた。
骸骨でもないし、死神の鎌もない。
それでも今の彼を見て、死神だと判断せずにいられるだろうか。
爛々と眼鏡の奥の目を殺気に光らせ、ヨシュアンの命を吹き飛ばそうとしている。
だらだらと冷や汗を流しながら、ヨシュアンは思った。
俺、今日生きて帰れるかな…?
残念ながら、その保証は誰にもできない。
「それで、どういうことでしょうか?」
前回で懲りていなかったのかと、ヨシュアンを吊るし上げながらリーヴィルが問う。
きりきり縄で縛られ、木に吊りあげとされながら、ほとほと困ったという顔のヨシュアン。
その顔は、これから訪れる運命を悟って青い。
「いや、さ…よく見ればわかると思うけど、その本って完成品じゃないの」
「…確かに本としての体裁は整っていませんし、下書きのようですね。ですが、それが?」
「その容赦のない氷の視線で、俺もう雪だるまになりそう…」
「後で雪に埋めてあげましょう」
「やめて! 殺人事件の下手な隠蔽工作より酷いよ!? 雪解けしたら凍った俺が出てくるから!」
「………私が、雪解けするような場所に埋めるとでも?」
「永久凍土!?」
今の此奴なら、やる。
本気で、やる。
悲しいかなそれが分かってしまうので、ヨシュアンの全身に鳥肌が立つ。
一刻も早く弁明しなければ。
そんな思いに後押され、ヨシュアンの口が回転率を上げる。
「そ、それでねっ? その下書きみたいなやつ、ほら北方に長期出張行ってた頃に描いたやつで!」
「下書きってことは、いつか完成させるということですよね」
「話を聞いてぇ!? それ、前リーヴィルに絞められる前に書いたやつなんだってば!!」
「それがなんで第三貯蔵庫の天井裏にあったんですか」
「こっちが聞きたいよ!? なんでそんなとこにあった! 失くしたと思って探してたのに!!」
「紛失して、衆目にさらした…と」
「違うって! 俺は破棄するつもりだったの! 本当なんだからー…!」
本当に、ヨシュアンは焦ってソレを探していた。
何よりも、誰よりも。
リーヴィル当人の耳に入ってしまうよりも、早くと。
しかし、ああ無情。
まさかリーヴィルその人が所在を見失っていた原稿を見つけてしまうとは…。
こうなる前に、燃やそうと思っていたのに。
「…成敗!」
「ぎゃぁぁああああああああっっ!!?」
ヨシュアン、君は知らない。
その原稿が、風の悪戯によって画伯信奉者の手に渡っていたことを。
愛好家達の手で、こっそり隠されていた事実を。
そして。
既に、その原稿が崇拝者達の手によって完璧フルカラーで写本済であろうとは。
よもや画伯本人も思っても寄らなかったのだ。
一ヶ月後、発覚。
魔王城に悪魔の死神が降臨した。
そして蹂躙された被害者は、発端である画伯を筆頭に三百人を越したという。




