表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/93

勇者様こにゃんこ物語3 にひきで半分こ編

こにゃんこ物語2のまんま続きです。

そして微妙な終わり方をします。

「どうしたの? ないてるの?」

 小さなおんなのこにゃんこが、心配そうな声で話しかけます。

「………おんなのこ?」

 小さなおとこのこにゃんこは、話しかけられたことにぴくりと尻尾をふるわせました。


 見上げた視線と、見下ろす視線。

 蹲っていたこにゃんこ…勇者様は、ぱちくりと瞬き一つ。

 八の字に眉を歪め、怖々と隣にしゃがみ込む、おんなのこ。

「ね、おなまえは? わたしはね、リアンカっていうの」

「すずき………ゆうしゃさま」

 涙に掠れ、舌っ足らずな勇者様のお声。

 涙声で紡がれた名前に、リアンカがほわっと笑う。

「変な名前だね」

「うわぁ、ずばっと直球ー」

「つけたひとのセンス、すごいと思うの」

「うん、それは同感だけど…」

「でしょう?」

 情けない顔でしっかりと同意を示す勇者様に、リアンカはくすくすと笑いを返す。

 余程面白かったのか、ツボにはまったのか。

 まるで鈴の音を転がす様に、くすくす、くすくす。

 翳りなく真っ新に笑うリアンカの笑顔は、ひどく純粋に見えて。

 何も言えなくなって、勇者様はすごく新鮮な気持ちで。

 ただ、邪魔にならない様に息を詰めて、おんなのこが笑う姿に見入っていました。


 ブリーダーさんの所で産まれて、鈴木さんのおうちに貰われて。

 逃亡の果てに迷子になって、疲れ果てて。

 そんな時に声をかけてきた、緑の瞳のおんなのこ。

 それは勇者様が鈴木家に貰われてから初めて見る、自分と同じにゃんこの姿でした。




 勇者様は、両の手でぐしぐしと顔を拭う。

 涙の伝った、頬。

 未だうるうるに大粒の涙を溜めた、目。

 泣きやもう、泣きやもうと小さな手でぐいぐい擦る。

「め、はれちゃうよ?」

「うぅ…でも、みっともないもん」

 男の子なのに、女の子の前で泣き虫ぶりを披露する。

 それが情けなく感じたのだろう。

 勇者様はまだ溢れてくる涙を、一生懸命に止めようと両の手を動かす。

 勇者様がぐいぐいと頬をこすっても、涙が止まらない。

 鼻の頭が、真っ赤になっていた。

 その様子に、リアンカにゃんこがふふっと笑う。

「泣き虫にゃんこだね」

「にゃう…」

 泣き虫にゃんこは恥ずかしそうにふいっと顔をそむけるが、リアンカはくすくすと笑っていた。

「でもそっか、おうちがわからなくなっちゃったの」

「………うん、かえれない」

「じゃあ、あたらしくおうち作って、そこに帰ればいいよ」

 いきなりの極論に、勇者様は目をぱちくり。

 驚きに、ハトが豆鉄砲だ。

 家というものへの執着が感じられない言葉は、勇者様には今までなかった発想だ。

 もう、自分の家を見失ったというだけで絶望にまみれていた。

 帰れない、その一言に思考が停止していた。

 家を見失い、帰れなくなったからといってそこで命が終わるわけではない。

 まだまだ、生きる道はある。

 今までそれに気付かなかった勇者様の目から、ぽろりと一枚、鱗が零れ落ちた。

「なんなら、リアンカのおうちにくる?」

「え、でも…」

「それじゃ、とりあえずリアンカといっしょに来て、もとのおうちをさがす?」

「そんなことできるの!?」

 勇者様、今日一番の食い付き。

 おおう、良い食い付きっぷりとリアンカにゃんは一歩距離をとりつつ、にこっと笑った。

「うちの保護者様(まぁちゃん)のにゃんにゃんネットワークのすごさを見せてあげる!」

「にゃ、にゃんにゃんねっとわーく…」

 胡散臭いと一瞬思ったのは内緒だ。

 勇者様の懐疑的な視線に気づかず、リアンカはふふっと笑う。

「うん、にゃんこだけじゃなくてわんわんとかも混ざってるけど」

「それ、にゃんにゃんネットワークっていえないよな!?」

「メインはにゃんこだよ。六割くらい」

「ほか四割のうちわけがひっかかる…」

 その実情をそのうち知ることになると、この時の勇者様は知らない。

 知っていても気にしたことのないリアンカにゃんは首をちょいっと傾げて上目づかい。

「なんか、だめだった?」

 不安げな面持ちに、勇者様は思った。

 深い追及は止めよう…そして、この何とも言い難い気持ちは胸の奥に仕舞っておこうと。

 ひとつ大人になった勇者様は、おずおずとリアンカを見上げる。

「それじゃ、たのんでもい…?」

「うん、大丈夫だよ! ぜったいに見つかるから」

 にぱっと笑って、リアンカが右手を差し出した。

 差し出された手と、リアンカの顔と。

 交互に見て、勇者様がじっと見つめてくる。

 問いかけるような眼差しに、リアンカは嬉しそうに弾んだ声を返した。

「んっとね、えっとね、リアンカとおともだちになろうよ!」

「ともだち…!」

 正直に言おう。

 勇者様は、ぼっちだ。

 唯一の縋る(よすが)(勇大)はいるが、友達はいない。

 鈴木家に貰われてから、一歩も家を出たことがないので当然である。

 躊躇いがなかったとは言わない。

 何しろ今日出会ったばかりで、どんな性格かもよくわからない。

 だけど。

 躊躇を押して、勇者様はリアンカの手を取った。

「それじゃ今日からおともだち! その、しるしね」

 パシッという、良いおと。

 その気持ちの良い音が幸先を現わしているような気がして、勇者様は笑った。

 照れくさそうに、嬉しそうに。

 印象深く、胸に焼きつく可愛さで。

 それがリアンカの見た、勇者様の初めての笑顔になった。


「それじゃあ、うちの保護者様(まぁちゃん)のとこにいこっか」

 身ごなし軽く立ち上がり、リアンカが繋いでいた勇者様の手をひっぱりあげる。

「あ…」

 刹那。


 立ち上がった勇者様のお腹から、くぅっという情けない音がした。


「……………」

「……………」

「………くりぃむぱん食べる?」

 勇者様は、それはそれは恥ずかしそうに頬を染めて。

「…………………うん」

 ちいさなちいさな気まずそうな声で、微かに頷いた。



 あぐあぐ、あぐあぐ。

 大きなクリームパンに一緒に齧り付く。

「それじゃあ、はんぶんこ!」

 そう言ってリアンカが渡してくれたクリームパンの半分。

 半分でも、それでも小さなこにゃんこの身体に十分な量があって。

 しばし、腹ぺここにゃんこ達は食べるのに夢中になった。

 でも途中、思い出したように勇者様が顔をあげる。

「にんげんの食べ物って、からだに悪いんじゃ…」

「空腹をみたすのがさいゆうせん、だよ!」

 リアンカは勇者様の不安をスパッと切り捨てた。

「からだのよしあしは二の次、三の次!」

「え、でも」

「空腹はこわいんだよ。からだがすいじゃくして、うごけなくなって。

エサもとれなくて死んじゃうんだから!」

 死んじゃうんだから……死んじゃうんだから………

 今まで縁のなかったその言葉が、勇者様の心の中でエコーとなって響く。

 顔を青ざめさせた勇者様に、年下ながらリアンカはお姉さんみたいな顔で「めっ」と言った。

「生きのびるには、ごはん食べなきゃ! だからおなかをみたすのさいゆうせん! わかった?」

「う、うん…!」

 勇者様は、素直なこにゃんこだった。

 こくこくと頷いて一所懸命にパンを頬張る。

 食への切実さなど知らない彼でも、空腹は本当で。

 懸念材料が気にならなくなると、一心不乱まっしぐら!

 食べ終えた時には、自分が何を気にしていたかも忘れていた。

 

 満腹になったらくつろぎたいもの。

 猫なら当然。

 泣いて困っていたことも忘れ、満腹になった余韻にまったりと寝転ぶ。

 そんな勇者にゃんの上にぽすっと首を乗せて、リアンカにゃんもごろごろしている。

「ねえねえ」

「みぃ?」

 うとうとする勇者様の頭を、つんつんと突っつくリアンカ。

 見上げてくる視線に、にこりと笑う。

「勇者ちゃんって呼んでいい?」

「………おれ、おとこのこなんだけど」

「知ってるー。だめ?」

「……………ママさん思い出すから、だめ」

「じゃあ、ゆうちゃんは?」

「…ちゃんづけからはなれよーな?」

「それじゃあ、よびすてで呼ぶよ。勇者様、これでいいよね」

「うん。じゃあおれも、リアンカってよびすてにする」

「うん」

 両者の納得が導かれ、空気はより一層まったり。

 ひらひらと、もんきちょうが飛んでいる。

 抗いがたい睡魔が、子猫たちを襲った。

「それにゃあ……まぁにゃんのとこ、行くはなし」

「うん」

 リアンカも勇者様も、声が溶けそうだ。

 目は露骨にうとうとしている。

「ひとねむりして、おっきしてから行こー」

「賛…成……」

 にひきは、ひと固まりの団子になって眠りに落ちた。

 おやすみなさい。





「まぁちゃーん、おともだち拾ったー」

 小高い丘の上、野良の溜まり場。

 勇者様の手を引張りながら、リアンカがのぼってくる。

 幼い妹を腹の上に乗せてごろごろしていたまぁちゃんは、リアンカの言葉にずびしっと返した。

「お友達は拾うもんじゃなくて作るもんだ」

「ホムンクルス? ヘルメスの神様よぶの?」

「錬金術じゃねーよ! 友達いねぇから錬金術に走るって、どんだけ寂しい生涯だ!」

「にゃあ、まぁちゃんが言いだしたのにー」

「言ってねぇー」

 たくさんの、のらねこ。

 その中心に、のそっと身を起こす影。

「みゅー」

 転がり落ちそうになったこにゃんこ。

 勇者様やリアンカよりも幼い黒猫をはしっと口にくわえて落下を防いだのは隣にいた黒猫だ。

 そろって勇者様を見る猫達の視線には、同じ様な感情の色。

 視線には呆れ六割、好奇三割警戒一割。

 大きなオトナの白にゃんこは黒いこにゃんこを地面に放ち、悠然と見下ろしてくる。

 何でもない様子の、その姿。

 だけど言い知れない危険な香りを感じ取り、勇者様の尻尾がぶわっとふとくなる。

「なかなか見どころありそーだけど、そいつ誰だ?」

「鈴木勇者様くんだよ!」

「………」

 沈黙が、痛い。

 それまであまり勇者様のことを気にしていなかった猫達。

 彼らまで、そろえたようにざわっと勇者様に目を向ける。

 勇者様は居た堪れない。

「名づけた奴、すげーセンスだな。悪い意味で」

 まぁちゃんの言葉には、深い同情が満ちていた。



 その日、勇者様は野良猫さん達の寝床にお泊まりした。

 みんな、何故か勇者様にとっても優しかったそうです。




猫をも唸らせる、微妙ネーミングセンス…!

ママさん、もうちょっと考えて名付けてやってー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ