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Mr.バレンタインの惨劇 後日談

ちょっと作中に書ききれなかった内容です。

あまり纏まりのない感じですが、オマケとしてどーぞ☆

【葦の腕輪】


「そうだ、リアンカ」

 宴の席で、今は丁度良いタイミングじゃないかと。

 そう思って、勇者様が取り出した物。

 それは…


「葦ですね」

「ああ、葦だ」


 中途半端に編もうと努力した結果、編みきれずにへんにゃりと萎れた葦だった。


「「………」」


 勇者様とリアンカの、逸らされること無い視線。

「それで、これをどうしろと?」

「編み方…、いや、腕輪の作り方を教えてくれ…」

「勇者様………」


 Mr.バレンタインの悲劇。

 それは、不器用な訳じゃないのにこう言う雑多な生活知識を知らないことかもしれない。


 結局、勇者様はバレンタインの日に贈り物一つ用意することができなかった。

 一番簡単なカードを書く程、落ち着いて机に向かう時間もカードを用意する時間もなく。

 だからと葦を編もうにも、そもそも腕輪の作り方どころか編み方すら知らず。

 ならばと菓子を作れるような技術は勿論のこと台所に立ったことのない彼が知る由もなく。

 そして、最も用意しやすい物。

 …花は、恋情。

 考えるまでもなく、問題外だった。


 この日、宴の後。

 勇者様は遅くまでリアンカの指導を受けて腕輪作りに挑戦するのだが…

 下手に凝った物を作ろうとしたせいで、時間が無用にかかってしまい。

 それでなくても、宴で遅くまで時間を潰されていた。


 勇者様は、その日、バレンタインの日の内に腕輪を完成させることができなかった。


 月を見て正確に時間を計りながら見守っていた、まぁちゃん。

 居間でせっせと葦を編んでいた勇者様に、無情な声をかける。


「はい、タイムアウトー」

「ああぁぁ…!」


 時間内に間に合わせることのできなかった勇者様は、机に突っ伏して撃沈した。

 そんな勇者様に、腕輪を一番に贈って貰えるはずだったリアンカは困った様に苦笑する。



 後日。

 期日中に贈り物を用意できなかった勇者様その他少数の為に、新たにイベントが用意された。

 リベンジと、お返しの意味を込めた日。

 バレンタインに贈る側として参加できなかった人が、贈り物を渡せる様に。

 そう意味を持たせて、ハテノ村オリジナルの行事が作られたのです。


 贈り物を用意する為に、余裕を持たせて。

 バレンタインの丁度一月後に設定された、お返しの日。

 その日は提唱者である村長の好きな花の色に因んで、「ホワイト・デイ」と呼ばれる様になった。


 そして気持ちを伝える日と返礼の日は、その後も長くハテノ村で親しまれる様になったのでした。






【まぁちゃんはいま何処(いずこ)?】


「そう言えば、あの日まぁ殿は何処にいたんだ?」

「あ?」

「いや、俺だけ追い掛けられて…まぁ殿はどうしたのか、と」

「んだよ。俺も追い掛けられれば追っ手が分散したのにって?」

「う…そう言う訳じゃないが…」

「目ぇ見て言えよ」

「良いから、まぁ殿は何処にいたんだ」

 勇者様の真剣な目に見つめられ、まぁちゃんはうんざりした顔をした。


「…あの日、俺は一日中台所でリアンカの手伝いしてたんだよ」


 本当に、うんざりした様な顔だった。

「一日中、甘い匂いの充満する台所だ」

「まぁ殿、甘い物は…」

「好きだ。好きだが、な? 物には限度という素敵な言葉がある」

「つまり?」

「匂いにも中てられた。けど味見のしすぎが一番辛ぇ…」

 ぐったりと。

 机にもたれて、まぁちゃんは重々しく嘆息した。

「俺、当分は甘い物とかいーや……」

 そう言うまぁちゃんの顔は、ぎこちなく強張り、青ざめていた。






【ミュゼっちの幸せ】


 勇者様は気も重く、バレンタインの日に傷つけてしまった乙女のことを考えていた。

 あの時は切羽詰まっていたとはいえ。

 返す返すも、酷いことをしてしまったと。

 自省し、申し訳なさに胸を痛めていた。

「やっぱり、頭を下げに行こう…」

 何時間もは悩まなかった。

 考えた末での、結論だった。


 だけどそんな彼の出鼻を挫いたのは、リアンカの言葉だった。


 ぱたぱたと立ち上がった勇者様のいる部屋に、リアンカがやってくる。

 勇者様を見つけると、ぱっと顔を輝かせた。

 ご機嫌だ。

 何があったのかと首を傾げる勇者様に、リアンカは告げた。

「勇者様ー。そう言えばバレンタインの日にミュゼと知り合ったんですよね?」

「あ、ああ…」

 まさに今、話題の女性の元まで謝罪に行こうとしていたところだ。

 言いかけた言葉を呑み込んで、ただ肯定するに留めたのだが…。


 勇者様の神妙な気持ちは、次の瞬間吹っ飛んだ。


「ミュゼ、結婚するらしいですよ」

「…は!?」


 一瞬、結婚という言葉の意味が思い出せなかった。

 しかし勇者様の動揺に気付かず、リアンカは畳み掛ける!

「なんでも、ミュゼ曰く新郎との仲を取り持ったのは勇者様だとか?」

「は!?」

 寝耳に水。

 全く身に覚えのない言葉に、勇者様は混乱した。

「感謝を表して、勇者様に仲人してほしいそうですよ」

「意味わからん!」

 勇者様は、本気で分からなかった。


 錬金術師、ミュゼカ

 彼女はこの一月後、本当に勇者様を仲人に指名して結婚することになる。


 お相手は、ミュゼ秘蔵の 特 別 製 ゴ ー レ ム だ。


 何でも例のクッキー・ゴーレムから逃げる最中のこと。

 命じずとも体を張り、全力で自分を庇い守るゴーレムに言い知れぬときめきを覚えたとのこと。

 ゴーレム自身も、以前から造物主たるミュゼを女神の様に恋い慕っていた。


 結婚式に参列する最中、勇者様はこれで良いのかと首を傾げた物だが。

 しかし式に臨む新郎新婦を見て、本人達が幸せそうなら、それで良いかと考えを改める。

 ゴーレム職人とゴーレムの異色カップルは、それはそれは幸せそうだったという……。


 そしてそれを許容した勇者様は、中々魔境に染まっているなぁと。

 リアンカやまぁちゃんはこっそり思って、本人の為に口にせずにいておいてやった。




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