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まっすぐな長い道



 鞍を置いた駿馬にまたがるときの用心深さと真剣さで、雪羽は自転車にまたがった。

 同じアパートの住人が引っ越していくとき、昔使っていた子ども用の自転車を譲ってくれたのだ。雪羽は大喜びだった。これで友だちが遊びに行く相談をしているときも、自分だけ仲間はずれにされずにすむ。

 ところが、それは小学校二年の雪羽の体には、かなり大きかった。当然、補助輪もついていない。

 サドルにまたがるときは、慎重にバランスを確かめながら、ぴょんと飛び乗る。せいいっぱい爪先を伸ばして地面に立ち、重いペダルを漕ぎ出す。ひとつひとつのことが、最初は至難のわざだった。

 ころぶたびに、口をきゅっとへの字に結んで立ち上がって、また同じことを繰り返す雪羽を見守りながら、ユーラスの胸は痛んだ。

 かわいそうに思ったのではない。これほど何度も挫折を味わっても新しいことに立ち向かっていく勇気は、もはや自分にはないものだと悟ったのだ。

 かつては『勇者』と呼ばれた存在であったのに、そして今も十二歳の肉体は力にあふれているのに、老成した心には勇気の片鱗すらない。

 特訓の甲斐あって彼女の成長はめざましく、時折ふらつくものの、調子がよければ数十メートルは一度も足をつかずに走れるようになった。

「ユーリおにいちゃん!」

 雪羽は、ハンドルから少しだけ片手を放して、すばやくユーラスに向かって手を振り、あわててハンドルをぎゅっと掴んだ。

 まだまだ、手綱さばきに余裕があるとは言いがたい。

 たった七歳の幼い少女に恋心を抱いている自分のことを滑稽だと思っていたが、それはむしろ、「あこがれ」に似たものなのかもしれない。

 若さに対するあこがれ。

 たゆまぬ努力、探究心、未来に向かって進んでいける迷いのない心――すでに自分が失ったものへのあこがれ。

「この路地では、もう練習にならぬな」

 戻ってきた雪羽が安全に着地するように、車体のうしろを支えてやる。「隣町の川原に行けば、広いサイクリング用の舗道がある。今度連れていってやろう」

「うん!」

 雪羽が彼を見つめる目は、喜びと誇りにきらきらと輝いている。

 まぶしくなって目をそらし、片膝を地面についた。自転車の車輪や、それらをつなぐチェーンやブレーキのチューブを丹念に調べる。見れば見るほど精巧にできていると感心するばかりだ。

「これを、わがナブラ領に持って帰れたらな」

 アラメキアに自転車はない。四輪の馬車はあるが、二輪で走れる車など、誰も想像したことがなかった。

 もし、自転車をアラメキアに持ち帰ることができたら、そして、これを真似て大量に作ることができれば、気軽に隣町や村々に行き来することができる。翼を持たず、四つ足で走ることもできない弱い人間たちも、行動範囲は格段に広くなる。

「おにいちゃんは、いつアラメキアに帰るの?」

 雪羽は不安を宿した眼差しで、彼を見下ろしていた。「……マナおねえちゃんと一緒に」

「さあな」

 まさか、『そなたの父親である魔王を倒したときだ』とは言えない。それに、いつのまにかユーラス自身も、そんな考えはとうに捨てている。

「帰るときは、地球から、何かを持ち帰りたいのだ」

 ユーラスは立ち上がって、自転車のサドルを撫でた。「この自転車よりも、もっと大きな何か。それは形あるものではないかもしれぬ」

「形のないもの?」

「だが、それが何か、まだ余にはわからぬ」

 ユーラスは悔しげに吐き捨てると、雪羽を見て表情をやわらげた。「魔王の娘。そなたもいつかはアラメキアに行くと言っていただろう」

「うん」

 雪羽はうれしそうにうなずいた。「父上のおさめていた魔族の国に行きたいの。そして、こまっている魔族のみんなを助けたい」

「そうか。それはよいな」

「じゃあ、雪羽も、おにいちゃんが帰るとき、一緒にアラメキアに行くね。連れて行ってくれる?」

 ユーラスは返事をせずに、ただ空の向こうをじっとにらんでいた。

 心の中に、一本のまっすぐな長い道がある。

 雪羽は自転車をあやつり、軽やかにどこまでも走っていく。そして、ずっと後から遅れて、離れていく背中を見つめながら彼は歩く。

 決して、隣り合って歩むことはできない、そんな光景。



「う……ん」

 朝まだきに目を覚ますと、理子は隣に寝ている夫のパジャマの半袖を、しっかりと握っていた。

 夢を見たのだ。夫がどこにもいない夢。とうとう行ってしまったのだとわかって、ひとり立ち尽くして、泣いている夢。

 浅黒い肌の夫は寝返りを打ち、重そうに瞼を半分持ち上げる。「リコ?」

「ごめん、起こしてしまって」

「どうしたんですか、こんニャに早く」

 ヴァルデミールは、またパタンと瞼を閉じて眠りに戻ろうとしたが、すぐに目を開いた。「ねえ、どうして泣いてるの」

 上半身を起こして、理子の上にかがみこむ。その拍子に長い黒髪がふわりと彼女の首筋をくすぐる。

「ヴァルは、アラメキアに帰ってしまうんだろう」

「え?」

「だって、シュニンを連れて帰るために来たんだって、前に言ってただろう」

 すねたように、もごもご呟いている理子の頬を、ヴァルデミールはぺろりと舐めた。

「だいじょうぶ。わたくしは、ずっと地球にいますから」

 理子は、彼の胸元に顔を埋めた。

「ほんとに?」

「ほんとに」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんとですです。リコと会長と相模屋弁当の人たちを置いて、どこへも行くわけありません」

 顔や首のあちこちを、いとおしげに舐める夫の仕草に、理子はうっとりとなる。最初会ったときは、何をしてもトロくて頼りないと思っていたヴァルデミールは、結婚してみれば、とても頼りがいがある男らしい男だった。理子は日々、夫に惚れ直してしまうのだ。

「そんニャことで泣くニャんて、リコは可愛いニャあ」

「……バカ、からかうな」

 照れた理子は、夫の首に両腕を回して飛びついた――全体重をかけて。



「また、おまえたちは少しはしゃぎすぎたようだのう」

 弁当工場で戦場のような激務を終えて、朝の食卓についた四郎会長は、ヴァルデミールの眉間にある青あざを見て、うれしそうに言った。

「これほど仲が良いのだから、そろそろ子どもを授かっても良さそうなもんだが」

 ヴァルデミールはなで肩をきゅっとすくめながら、黙って味噌汁をすする。

 結局、今に至るまで、彼がアラメキアから来た魔族だということを、どうしても打ち明けることができない。

 魔族と人間とのあいだに子どもができることは、絶対にありえない。だが、これほど孫ができるのを楽しみにしている義理の父に、それを知らせるのは、とても酷なことに思えるのだ。

 さりとて黙っていると、裏切っているような、いたたまれない気分になってしまう。

 最後まで楽しみにとっておいた塩鮭を味もわからずに飲み込んだヴァルデミールは、茶碗と箸を置いて、顔を上げた。「あの……」

「なんじゃ、ヴァル」

「あの、そのう。わたくしとリコさんの真剣かつ厳正ニャる話し合いの結果ですね。今は子育てより、相模屋弁当株式会社の将来のために、夫婦一丸とニャって働くことのほうが大切ではニャいかと」

「なんだとう」

 四郎会長は、入れ歯をカポッと鳴らして、大きな口で怒鳴った。「理子とおまえに子宝が授かる以上に、大切なものなど世の中にはない!」

「か、会長。落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか。おまえたちがそんな罰当たりなことを考えているなら、相模屋の工場など売り飛ばしてしまうぞ」

「わあっ。そんニャ」

 そのとき、隣の椅子ががたんと倒れた。理子が食卓から立ち上がって、口を押さえながらバタバタと洗面所のほうに走っていく。

「え……?」

 ふたりの男はつかみ合ったまま、凍りついた。この絶妙なタイミングでは、さすがの鈍いヴァルデミールでさえも、何が起きたか察しがつくというものだ。



「第8週に入ったところです」

「……」

「少し前から、つわりがあったのではありませんか」

「はい……。でも、忙しくて、気にするどころではありませんでしたので」

 カーテン越しに、妻と医師の会話が聞こえる中、ヴァルデミールの頭の中は、ぐるぐるとたくさんの考えが回っていた。

(アラメキアでは、魔族と人間のあいだに子どもはできニャいと言われていたんだ。いったい何が起こったんだろう?)

「ご主人。こちらへどうぞ」

 医師がヴァルデミールをカーテンの内側へと呼んだ。「超音波検査で、赤ちゃんの様子をご覧になってください」

 ヴァルデミールは、「ええっ」と叫んで、中へ飛び込んだ。

「もう、赤ちゃんが見られるんですか!」

「はい。このモニターを見てください。手や足もはっきり見えますよ」

「こ……この黒く丸いのは卵ですか。さなぎですか?」

「さなぎ? いや、これは胎嚢という赤ちゃんを包む袋のようなものですね」

「しっぽやツノは生えてますか」

「しっぽに似たものは胎芽期にはありましたが、もう消えていますね。ツノは……ハハハ、さすがに人間にはありません」

 黒い画面の中で白く波打って見える子宮。その真ん中で、ドクドクと心臓を鼓動させている我が子を、ヴァルデミールは呆然と見つめた。

 新しい命を預かる親になれたという実感が、しみじみと湧いてくる。

 だが同時に、不安もあった。生まれてくるのは、二本足の人間なのか。それとも、全身を黒く硬い毛で覆われた四つ足の魔族なのか。

(もし、そんニャ赤ん坊が生まれたら、病院じゅうが大騒ぎにニャっちゃう。リコだって、自分の産んだ子が毛むくじゃらだと知ったら悲しむよ。会長ニャんか、びっくりして倒れてしまうかも)

「どうしよう」

 診察が終わって病院を出るとき、妻は、それまで浮かべていた満面の笑顔をふと曇らせた。

「このところ、食べ物の匂いを嗅ぐと吐きそうになる。つわりのせいだったんだな。こんな状態が続いては、現場に入ることすらできない」

「ニャ、何を言ってるんです」

 ヴァルデミールは、理子のふくよかな手の甲を心をこめてさすった。「リコは余計ニャことは考えずに、ゆっくり休めばいいんです。相模屋弁当の工場は、センムのわたくしが、ちゃんとカントクしますから」

「お父さんも、この頃はあてにならないぞ。ヴァルに全部背負わせてしまって、本当にいいのか」

「あたりまえです。まかせておいてください!」

 理子の手前、きっぱりと宣言したが、内心では大変なことになったと思っている。弁当の製造から営業まで、たくさんの従業員を経験の浅い彼ひとりで指揮できるだろうか。

 妻を家まで送り届けて休ませたあと、ヴァルデミールは、いてもたってもいられず、一目散に走り出した。

 こういうときに相談できる人は、ひとりしかいない。



 しんと静まりかえった工場を、ゼファーは鍵をかけて回った。

 ほかの従業員たちは、もう全員帰宅している。

 新工場への移転まで、あと一ヶ月。通常業務に移転作業も加わって、坂井エレクトロニクスは超過密スケジュールを強いられていた。

 そこへ、電力会社から節電の要請が来た。真夏の電力需要が逼迫しているため、企業や家庭は一律に15%の節電をしてほしいという。

 もともと零細の製造工場に、無駄に使っていた電力などなかった。照明を落とす、空調の設定温度を上げるなど、すでにギリギリまで節電していたのだ。

「とりあえず、今はできるだけの協力をしよう」

 社長の命令に、工場長と製造主任であるゼファーのふたりは頭を抱えることになった。

 しかし、そこは専門技術者の集まりだ。設定電力を超えそうになると自動的に制御を行なうデマンド・コントロール装置を取りつけて、出力を抑えるようにしたのだ。

 だが当然、出力が下がれば、製造効率も下がる。予定どおりに納品ができないという危機が、この夏は幾度も訪れた。今までは納期が迫ると、残業でなんとかこなしていたのに、その残業すらできない。

 工場の鍵を閉めて回りながら、ゼファーは綱渡りのような一ヶ月の日々を思い起こしていた。

 もうすぐ楽になる。新しい工場は最新の空調設備も整い、節電効率も今とは比較にならない。何よりも、広い敷地を生かして、作業のしやすいラインが自在に組める。移転に伴って、新しい社員も三人雇う。

 みんなの夢が実現するのだ。あと少しの辛抱だった。

 そろそろ9月になろうというのに、空調を止めた工場の中はうだるようだ。すでにゼファーの作業服はびっしょりと滝のような汗でぬれている。ひと夏の疲れがたまっている体には、ひどく堪えた。

 照明は消したが、天窓から差し込む長い西日で、工場の中はまだ明るい。

 停止したコンベアに沿って歩いていたゼファーは、足を止めた。中央の作業台に乗っていた仕掛かり品に不良を見つけたのだ。検査もせずに何故わかったのか、自分でも不思議だ。長年の勘といえるものだった。

 そのまま放っておいて、明日の朝一番に前工程に差し戻せばよかったのかもしれない。けれど、それだけでラインに朝から十数分の時間のロスが出る。一日の士気にもかかわる。明日じゅうの納品はむずかしくなるかもしれない。

 ゼファーは工具を手に取ると、部品を分解し始めた。

 汗が全身の毛穴からどっと噴き出す。一日フル稼動していた夕方の工場内は、もう40度近いが、そんなことにかまってはいられなかった。

 ――地球に来て、もうすぐ十年になるのだな。

 心の中でいろいろなことを思いながら、ドライバーを回す。あのとき、まだ二十代なかばだったゼファーも、四十歳に近づきつつある。

 もう若くはない。体も日ごとに無理がきかなくなっていく。あと数年で、ユーラスと剣で戦っても勝てなくなるだろう。

 精霊や魔族には、「老い」というものがない。それにひきかえ、老いをいつも見据えて生きるのが、人間という種族の宿命だ。

 手に入れた力を手放し、名声も栄誉も手放して、人間は確実に衰え、そして死んでいく。

 悲しいとは思わなかった。限られた寿命の人間のほうが、長命の精霊や魔族より潔く生きている気がする。だが、八百年生きてきたゼファーにとって、あと四、五十年の寿命は、あまりにも短い。

 不良箇所を直し、組み立てを終えて、ゼファーは工具を置こうとして、ぽとりと床に落とした。突然、指先に力が入らなくなった。

 (変だな)と頭のどこかで考えているのに、歩こうとしても足は前に出ない。

 気がつくと、膝が床についていた。手のひらで全身を支えようとするが支えきれない。

 ゼファーは、そのまま床に倒れこみ、意識を失った。



『魔王よ』

『……精霊の女王か』

 少しだけ頭をもたげると、透き通った裳裾を揺らして、ユスティナが立っていた。哀しそうな顔をして、両手を広げて。

『よくがんばったな。魔王。もうゆっくり休むがよい』

『俺は……死ぬのか』

『わかっておるだろう。死は終わりではない。死は移ることだ』

『ああ』

 ゼファーはなんとか、上半身を起こそうとした。『なんとなく……気づいてはいた』

『アラメキアと地球の関係のことか』

『俺が地球に来た理由もな』

『そなたの使命は果たした。あとは、次の世代にまかせるのだ』

『ふざけるな!』

 ゼファーは、拳を握りしめ、ありったけの力で叫んだ。黒い光輪が彼の体を包む。『俺はまだ、ここにいる。俺のなすべき務めは、まだ終わっておらん!』



「……ニン、シュニン」

 ヴァルデミールの泣き声が聞こえる。

 ゼファーは目を開けた。

 工場の扉が押し開かれ、敷地の木陰に彼は寝かされていた。涼やかな夕風が吹きすぎて、花壇には背の高いセージやクレオメの花が揺れながら、心配そうに見下ろしているのが見える。だが、精霊の女王の姿はどこにもない。

 ――あれは、夢だったのか?

 自分はひどく叫んでいたようだったが、それが何だったのか思い出せない。どんな話をしていたのかも、忘れてしまっていた。

「この水を飲んでください」

 背中を支えられながら、忠実な従者が差し出す冷たいペットボトルの水を、ゼファーは一口ずつゆっくりと口に含んだ。

 意識がはっきりしてくると、水で濡らしたウエス布が体のいたるところに乗せられているのに気づいた。

「シュニンは、ものすごく暑い工場の中で、倒れていらしたんです。ネッチュー症だとわかって、あわてて外に運んで」

 ヴァルデミールは、ぐしっと手の甲で涙を拭いた。「でも、ご無事でよかったです」

「すまん。おまえのおかげで命びろいをした」

「ニャにをおっしゃいます。主をお守りするのが、従者の役目です」

「俺も年を取ったな。これくらいの暑さでのびてしまうとは」

 まだ多少頭がふらついているが、ゼファーは立ち上がった。工場の入り口を見て、ふと不思議に思う。

「どうやって扉を開けたのだ。鍵をかけたはずなのに」

「いえ、開いてましたよ」

 そう言えば、最後の扉を閉めようとして、その寸前に不良品を見つけたのだった。もしその順序が逆であれば、ヴァルデミールは工場の中に入れず、あきらめて立ち去ってしまっただろう。

「実を言いますと」

 ヴァルデミールは、恥ずかしそうに説明した。「わたくしの手柄ではありません。リコのお腹に赤ちゃんができたんです。それを知ったとき、ニャんだか無性にシュニンに相談したくて……。もしかして、お腹の子どもが、そう思うように仕向けてくれたのかもしれません」

「そうか」

 すべては偶然なのだろう。不良部品を見つけたことも、鍵のかけ忘れも、ヴァルデミールがゼファーの工場を訪れようと思い立ったことも。

 だが、偶然とは、ときに誰かが必然という糸を手繰って起きるもの――その誰かが味方にせよ、敵にせよ。

 そして、生命とは、網の目のように張り巡らされた運命の糸の上で営まれている、危ういものなのかもしれない。

 

 ゼファーは、夢の中で精霊の女王が言っていた言葉を、ひとつだけ思い出した。

『あとは、次の世代にまかせよ』

「次の世代か――」

 ゼファーを取り巻く若き者たち。雪羽。ユーラス。マヌエラ。そして、まだ見ぬヴァルデミールの子ども。

「冗談ではない」

 まだ、死ぬわけにはいかない。この世界で、しなければならないことは山ほどあるのだ。

 佐和を幸せにすること。雪羽をりっぱに育てること。この工場の仲間たちが笑顔を失わずに働き続けること。

 ゴールは見えないが、道半ばであきらめるわけにはいかない。あきらめが悪く、頑固で、与えられた運命に逆らいたくなるのは、ゼファーの持って生まれた性分だ。

 だからこそ、彼は『魔王』ゼファーと呼ばれているのだ。








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