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第36話 火急的措置

 暗礁の中から続く、蠢くもの達の跫音がやむことは無い。

 だがそんな中でも、クライシスたちは必死の抵抗を続けていた。


 マルティは気功活性(シェアム)でパーティーメンバーのスタミナを絶えず維持し続けた。

 その間、派手な立ち回りでダリアが魔物の注意(ヘイト)を買い、最後にクライシスが止めを刺す。


「良いですよ。その調子です」


「はぁっ、はぁっ…… ハイっ!」


 騒然とした剣戟の気配に誘われ、中層全域から、現在も魔物たちが続々と集まって来ていた。


 戦意狂渇により魔物が狂気に侵されていた為、一度に複数匹に群がられることは少なくなった。

 しかし狂気に侵された魔物は狂暴性を増し、一体一体の攻撃の対処が難しくなっている。

 だがそんな中でも、三人が力を合わせて連携をとりながら戦ったのが功を奏し、百体以上の魔物を相手にすることが出来ていたのだ。


 この成功の理由としては、魔物が狂気状態になっていた事は前提としてあるが、その上でクライシスがその都度状況を見極めながら冷静で的確な指示判断を下したことがかなり大きい。

 しかしだ。ダリアとマルティがクライシスの指示に素早く従ったことや、二人の持っている力が元々少ないものでは無かったことも理由だった。


「ちきしょう! コイツら、どこから湧いて出てきやがるんだ。このッ!」


「…ダリア、また剣が雑ですよ。冷静に一体ずつ対処するのです」


「くっ、分かってるよ。 クソぉーー!」


 ここまでは、比較的上手く行っていたとも言える。だがもう、彼らは手一杯であったのだ。


 クモたちは殺しても殺しても本当にキリがないくらいに増え続けていた。

 それに戦闘が佳境になった今になって、今まで出遅れていた龍樹が続々とやって来るという事態が、立て続けに起きていたのだった。


 加えて、ここではない場所で進めているペペロンチーノ達の作業についても、計画よりかなり遅れてしまっていることは、はっきりと推察できたのだ。


「ぐはッ! っ……」


「大丈夫っスか。いま回復するから」


「す、すまねぇ」


 マルティやダリアのスタミナは切れかけていて、これ以上長く激しい戦闘を続けることは出来そうになかった。

 彼らは互いにカバーし合うことで戦線を保っていた。


 一つ間違えれば戦線は一瞬で崩壊するような苦しい戦いだ。

 にもかかわらず、クライシス達はまだ中層の森に火の手が上がっている所を見られなかった。


 かすかに大気が熱を帯び始めているのを肌で感じることから、少しずつ森は燃え始めているのだろう。

 しかし全くその勢いが足りていない。遅すぎるっ。


 ─向こうで何かあったのか? 魔物の妨害か、それともそれ以外の緊急事態か?─


 どちらにせよ、このままでは森が大炎に覆われるよりも先に、きっと自分たちの死体が魔物の群れに覆いつくされる方が早いだろう。


「……。」


 クライシスは周りを見渡す。そして考える。


 増え続ける龍樹と変異種の群れ。それに対しこちらの体力は削られるばかり。

 だがそれでも、この3人ならしばらくは安全に戦える。しかしこのままでは、火付けが間に合わず、結局パーティー全体が全滅してしまう…………と。


 クライシスは判断を下す必要があった。確実な勝利を得るために、リスクを冒す選択を。

 そして彼はこう呼びかけた。


「皆さん、聞いてください!」


「「!!?!」」


 戦闘の最中だったので少し驚いたが、二人はすぐにそれが重要な話だと理解した。


「クライシスさん。どうしたんスか」


「急ですが、作戦を変更します。 ここで中層の魔物のヘイトをワタシ様が一人で受け持ちます。なので二人は、ペペロンチーノ達の応援に向かってください」


「ええッ でも、そしたらクライシスさんはどうなるんスか!? だってもう、マナも残っていないんでしょう」


 マナが無ければ魔法も奥義も使えない。

 いくら強いといっても、魔物の軍勢を相手に今の状態でたった一人で立ち向かうことが、自殺行為に等しいものであることは客観的にみても理解できた。


 しかしクライシスは言った。


「いえ、実は少しならマナは残っているのですよ」


「そうなんですか?」


「はい。ほら、この通り」


 そうしてクライシスはエンチャントフルブレイズを発動し、鋼の大剣に炎を付与した。


 しかし、実はこの付与魔法に使用したマナは、本来なら万が一の時にペペロンチーノを呼び出すための召喚魔法の分として取っておいていたものであった。

 そしてそれを使ってしまったため、クライシスの中には、もはや正気を保つ分のマナしか残っていなかった。


「……だから安心して行ってください。今はペペロンチーノ達の方に戦力が必要なのです。さあっ!」


 そう言いながらクライシスは、大剣の大振りをして目のまえに立ちふさがる魔物たちを薙ぎ払い、マルティ達が森の中央から離脱する大きな機会を作った。

 また炎を纏った派手な大薙ぎの結果、一時多くの魔物の注目がクライシスへと向くこととなった。


 その時のクライシスの幾つかの行動には、自分たちを急かすような意図も含まれていたと二人は感じられた。

 だがそれ以前に、マルティ達はクライシスの強さを信頼していたので、彼がそこまで言うなら問題ないのだと思った。


 そして、マルティとダリアはそれまで相手していた魔物との戦いを中断させると、急いでクライシスの戦っている場所の反対側から森の外周へと向かって駆け出していった。


「よし分かった! あとは任せるぜクライシス」


「必ずペペロンチーノさん達を助けて、作戦を成功させますっス!」



 その後、二人の姿が見えなくなると、マナを少しでも節約するために、クライシスはエンチャントフルブレイズを解除した。

 そして戦意狂渇を発動し、黒い魔物の血の中で狂気と共に踊った。


 たった一人で……。


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