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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
豪傑たちの伝説
69/120

第69話 バ・バルゴン

 ―ピピッ


 ネベルの持つトランシーバーが甲高い電子音を鳴らした。


「フリーク。弱点の水晶体は見つかったのか?」


「いえ、それはまだです。しかし突破口は見つかりましたよ」


「ム。突破口だって?」


「大蛇の鼻の上を攻撃してください。そこにあるピット機関なるものを破壊すれば、探知能力が大幅に下がってしまうそうです」


「よし、分かった」


 通信を切ると、ネベルはロンドにこう伝えた。


「フ、俺たちも前進だ。こいつの顔面をぶん殴りに行く」


「はいっ! 了解です!」


「よーし、ネベル!やっちゃえーッ」


 ロンドが手綱を操ると、ソーンテイルはぐんぐんとスピードを上げていった。



 先行していたバーンズ兄弟二人は、ソーンテイルに跨り大蛇の前方を追われるように走りながら、どうにかピット機関を狙い撃とうとしていた。

 だが、エナジーライフルの射程は良くて40メートル。高さのある大蛇の頭を狙うには射線で放物線を描く必要もあり、危険な毒のある牙の近くにかなりの接近を強要された。


「…兄さん。もう少し左に寄ってください」


「こ、こうか?」


「はい、ありがとうございます! よし、ここからなら狙えるかも」


 それはまさにギリギリをせめる死のチキンレース。

 デルンの撃ったエナジー弾が大蛇の顔に当たると、驚いた大蛇は急激に速度を速めた。

 直後に突進やら毒粘液やらの猛攻がディップ達に襲い掛かる。


「あああ!! 逃げて逃げてぇ」


「ヒーっ、このままじゃ食われちまうぜ」


 必死に逃げ惑う二人。こうなってしまうと、もはやピット機関の破壊どころではなかった。



 だがその時、彼等の元にようやく救援が訪れた。しっぽの方からネベル達が追い付いてきたのだ。


「ああ、助かったっ。早くなんとかしてくれぇ~」


 ネベルはギリギリまでソーンテイルを大蛇の胴体に近づけるように指示した。


「ネベルさぁん! がんばってッ」


「……フン。ああ」


 ロンドの声援に応え、ネベルは軽く手を挙げると、颯爽と大蛇の背中めがけて跳躍をした。

 だが砂の上を滑り進むよう進化した大蛇の鱗は思ったよりも踏ん張りが効かず、あやうくネベルはうっかり足を滑らせそうになった。


 しかし瞬時にブラックバインを発動させると、魔法の蔦を足がかりに蛇の背中まで登っていった。



 ディップ達のいる頭の方まで一気に駆け抜ける。

 背中の上も非常に不安定ではあったが、この距離ならばネベルの持つ超人的な反応速度でバランスを取りつつ渡りきる事が可能だ。


「ハァァッ!」


 そしてネベルはほぼ垂直に、エクリプスを大蛇の鼻先めがけて突き刺した。すると大蛇は瞳をカッと見開き、激痛で暴れまわった。


 この大きさなのだから、ただの寝返りでさえも巻き込まれたらひとたまりも無い。


 長期戦が危険だと判断したネベルは、一気に勝負を決めることにした。

 ギアを操作し、エクリプスの刃先からカートリッジを射出。


 サンドスケイル戦でも使用したエクリプスの機能の一つ。点火式(ファイア)体内爆出(インジェクション)機構(ショット)である。


 技の発動後、ヨムルガンドの頭部で混合爆薬による激しい爆発が起こった。

 その勢いを利用し、ネベルは素早く頭部から離脱する。



「凄い痛がってるみたいですね。もしかして、もう倒しちゃったんですか?」


デルンがそう言うと、大蛇から降りてきたネベルはこう答えた。


「いや、これは一時的なものだろう。弱点というのがあるなら、それを狙った方がいいさ………」


 彼の言った通り少しすると大蛇は暴れるのを止めた。

 しかし、大蛇がこっちを追いかけてくる様子はない。

 

 どうやら作戦は成功したようで、探知能力を失った大蛇は自分たちを見失っているようだ。



 空にいたフリーク達は、大蛇の動きが止まったのを見ると水晶体の捜索を始めた。

 サウザンドウイングを操り、その場で停滞する大蛇の上空をゆっくりと旋回しだす。


「うーん、見つからないですー」


「……あっ。今一瞬光ったよ」


「どこです?!」


「ほら、あそこ!」


 望が示した先をキャンディが双眼鏡で確認する。

 そこには確かに、緑色にきらめく水晶体が蛇の鱗から浮かび上がるようにして現れていた。



 望はトランシーバーでマックに水晶体の位置を伝えた。


「マックさん。そこから狙えそうですか?」


「オーケー! 問題ないとも」


 TC-30の照準器は、すでに輝石黄蛇の弱点部位を捕捉していた。


 轟く一発の銃声。

 放たれた弾丸は、導かれるように水晶体の中心に向かって直進していく。


 弾丸は水晶体の中心にヒット。大きな亀裂を入れた。


 すると大蛇は、とたんに何ががこと切れたようにぐったりと動かなくなってしまった。

 一番近くにいたディップたちが、恐る恐る大蛇に近寄り生死を確認する。


「動かないな……」


「死んだんでしょうか」


「いや、まだ分からないぞ。気を抜くな」


 すると大蛇が倒れたのを見て、空からサウザンドウイングが舞い降りて来た。望とキャンディが嬉しそうに駆け寄ってくる。


「やったね。ディップさん」


「オイこら、不用意に近づくな。まだ完全にくたばっていないかもしれない」


 しかし彼の忠告は少し遅すぎた。まだ僅かに息のあった大蛇が、目の前に現れた望とキャンディ目掛けて牙をむいたのだ。


「危ない!」


「え? う、うわぁぁーっ」


 完全に不意を突かれ、ダイバー達の誰も助けが間に合わなかった。追い詰められた獣こそ一番恐ろしい存在なのだ。



 本来なら彼女たちは大蛇に殺され、ここで冒険は幕を閉じていただろう。

 

 だがそこで、思わぬ助け船が現れたのだ。



 ―ビュンッ ズバッ―


 突然どこからか飛んできたのは、見事な鋼鉄の戦斧だった。戦斧は大蛇の頭に突き刺さり、最後のトドメを刺した。


「おぬしら。無事だったか」


 そう言ってネベル達の前に現れたのは、たくましい髭を生やした子供くらいの大きさしかない人だった。


 ずんぐりとした筋肉質の身体。深い皺のある肌。そして革鎧とマントを着用していた。

 その見た目はまさに、彼らの想像通りのドワーフとそっくりだった。


 望は助けてくれたドワーフの男に頭を下げる。


「た、助けてくれてありがとうございました」


「いや~、いいんじゃよ。誰かが砂漠の怪物と戦っているのが見えたものでな。ちょいと助太刀しようと様子を見に来たのじゃよ。まあそれで来てみたら、戦いはほとんど終わっておったのじゃがのぉ。グッハッハッハッ」


 髭を生やした戦士は大きな声で豪快に笑った。

 彼はミュートリアンだが、わざわざ人間である自分たちを助けに来てくれたらしい。それにやけにフレンドリーだ。


「あの、あなたは一体?」


「うん。わしは、ケイブロングヴェルツの戦士バ・バルゴンじゃ。おぬしらも、わしらの国に向かう途中なんじゃろう。ならば共にゆこうではないか」


「……はぁ?」


「グッハッハッハッ!」

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