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DareDevil Diver 世界は再起動する  作者: カガリ〇
世界をはじめるための戦争(後編)
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第108話 絶望と希望

 最終防衛ラインが爆破されたと聞いて、急いで駆け付けたデルン。彼は怪我をして倒れていたハリス・シャムを見るととても驚いた。


 幸いハリスは、既に坑道砦門にいた他の仲間たちの手によって手厚い治療を受けており、命に別状はないようだった。

 だが脇腹に刀にはよる生々しい傷が残っており、尋常でない事は分かった。


「うわっ ハリスさん、その怪我どうしたんですかッ?」


「いやな、少し不覚をとったのさ。俺としたことが情けない」


 ハリスはベッドの上で腹を痛そうに抑えながらそう言った。


「大丈夫…ではなさそうですね」


「その通りだ! うしゃしゃし…っ痛てぇー!!!」


 思いっきり大きな声で笑ったハリスは、お腹が動いて余計な痛みを感じた。


「まったくッ おじいちゃんはもう若くないのよ。あんまり無理しないで!」


 そういって、アスカはぷんぷん怒りながらも真剣にハリスの看病をしていた。

 彼女はハリスが怪我をしたと聞くと、ケイブロングヴェルツ坑道からこの砦門まで出てきていたのだ。


「そうだなー、おじいちゃんが悪かった。だからそうカリカリせんでくれ」


「ほんとよ! おとなしくしてて」


「痛いっ アスカもっと優しく」



 デルンは、そんな祖父と孫の忙しい戯れを苦笑いしながら眺めていた。


「あはは… やっぱり、大丈夫そうかな?」


「ええ。おじいちゃんなら心配いらないわよ」


「そうみたいだね。 ところで、この坑道砦門に居るはずの僕の仲間の姿がさっきから見えないんですが何か知りませんか? 望ちゃんとロンドの二人なんですけど……」


 するとハリスは、急に深刻そうな顔をしてこう答えた。


「ああ……実はな、その二人はまだ敵の侵入者と戦ってるかもしれないんだ」


「ええっ それはどういう事ですか??!」


 ハリスは機械室で見たことを、すべてデルンに説明した。

 仲間の窮地を知ると、デルンはすぐに作戦班本部のある部屋から飛び出そうとした。


「何でもっと早く言ってくれなかったんですか! 大変だ。すぐに助けに行かなくちゃ!」


「待てっ。その必要はない」


「どッどうしてですか」


「もうすでに、彼らの元には頼りになる奴が助けに向かってるってな。アイツに任せておけばきっと大丈夫なんだ。心配するなっ」


「そう、ですか…」


 デルンはまだ少し望たちの事が心配であった。だが、本当にハリスの言う事を信じてもいいのかと悩んでいるうちに、彼が間髪いれずに妙な事を言ってきたのだ。


「それより、お前さんはそうとう頭が切れると聞いたが本当か?」


「は? ……まあ、僕たちのコロニーにいる他のダイバー達に比べれば多少は」


 その時デルンの頭の中には、自分の兄や〈ダイバーシティ〉でよくカードをしていた仲間たちの顔が浮かんでいた。


「そうか! ならちょうどいい」


「だから何がですか?」


「とにかく向こうの作戦班に行ってみてくれないか? みんなお前さんの知恵を必要としているはずだ。 また戦場で、厄介な事が起こりはじめたようなんだよ……」



 ハリスに言われた通り、デルンはガルゴン王のいる作戦班にやって来た。


「ああっ デルンさん!」


「キャンディ。色々たいへんな事が起きてるみたいだけど、今度は何が起きたの?」


「は、はいな。 とりあえずこちらをどうぞです」


 キャンディからコンピューターの前に座らされる。その液晶には大まかな軍の全体図が表示されていた。


 六つあった連合軍の主力部隊は、いつの間にか数を半分に減らしていた。最初に中央部隊が突破されてから芋づる式に他の味方の部隊も崩壊したのだ。

 現在は、残った三つの主力部隊が合流し、なんとかこれ以上の進攻を水面下で食い止めているといった状況だった。


「うそでしょ? 僕が兄さんと分かれてから、まだ2時間しか経ってないんですよ」


「敵の戦術兵器が復活してしまったのです。それで、一気にクローン軍の勢いが増したみたいで」


「そんなことが…」


 それを聞いたデルンは、ふと戦場にいる兄の事が心配になった。そしてキーボードを叩いて何か有力な情報がないかと調べ始めた。


「我も信じたくはない」


 二人の所にガルゴン王が近づいてきた。


「敵は、まさに昇竜のごとき勢いで次々に戦線を突破してきている。だからこそ、ケイブロングヴェルツへの侵入を許す前に、何としてもここで食い止めねばならん。我が国の無辜なる民の犠牲。それだけは許してはいけないのだ」


「でもっ どうやってです? クローンの攻撃を持ちこたえられる時間は、あと1時間くらいしか見込みがないんです」


 すると、近くにいたボルドン大臣はこう言った。彼はとても暗い顔をしていた。


「どうもこうも、何もない。 …もう終わりだ。勝てるはずがないんだ」


「ボルドン! 貴様はまたそのような後ろ向きな事をいうのかッ まだあきらめるな。活路はある!」


 それを聞くと、ボルドンは疲れきった様子で反論した。


「王よ、それは先ほどようやく見つけた信号の事を言っているのですか? たしかに、クローンに謎の信号が受信され始めてから、戦況は一気に悪化しました」


「そこまで分かっているなら何故やめる。何か、状況を好転させる手段があるはずだ」


「無理なんです! 信号には暗号で鍵がかかっていて、これ以上の解析は不可能なのです! それも1時間以内なんてとても、無理なんです」


「……そんな、バカなッ…」



 そして、ついに王すらも口を閉ざす。希望はもはや何処にあるのやら。


「くっ、せめてクローンに送られた謎の信号の暗号さえ解除できれば……」


 だが突然、何かを思い出したようにデルンはこう言った。


「…………暗号? それなら多分、さっき解けたと思いますよ?」


「な、なんだとッ それは本当か!?」


「ええ。さっきコンピューターを見たとき、おかしなプログラムがあったので気になってつい」


「見せてくださいです!」


 急いでキャンディが確認すると、確かに暗号は解除され、今まで不明だった特殊信号の解析結果が画面に現れ始めていた。


「すごいですデルンさん! でも、どうして分ったんです?」


「ハハ、たまたまだよ。前まで使ってた電子端末のプログラムとちょっと似てたのかな」


「何にせよ、これで先に進める。皆、急いで情報を精査するのだ!」



 王の命令で、すぐに特殊信号の解析結果がまとめられた。


 ハリスが怪我で動けない為、キャンディは彼の代理として重要な活躍を担った。


「……つまり、クローン兵の動きが急変した事も、魔法で封印されたはずの兵器が再び動きだした事も、すべては敵の指揮官ロワンゼットが直接兵士をコントロールしているからだというのか?」


「はいです。おそらく脳の電気信号を使ってるんだと思いますです。けど、それだけだと数十万ものクローン兵をすべて操作する事は出来ないだろうから、きっと何処かに信号の増幅機のような物があるはずです」


「なら、その増幅機の場所を突き止めてどうにか停止させれば!」


 ガルゴン王はそのとき光明が見えたと感じたが、実際はそう簡単ではなかった。


 そして学者や技術者たちは、それから先の問題点について王よりもよく分かっており、口々に議論を始めた。


「増幅機とやらが仮に実在したとしても、それをどうやって見つけるんだ?敵もそんな重要な装置は隠しているに決まっている」


「見つけ方は検討がつく。脳信号をどうにか逆探知すればいいのだ。だが、そうして場所が分かったとしても、やはり時間が残されていないのでは?」


「そもそもだ。信号を止め、ロワンゼットの洗脳を解除したとしても、そこから今の敵の勢いを止めることは出来るのか?! 我々の軍はすでに壊滅的な被害をうけているんだぞ」


「今からあがいても、もうすでに勝敗は決まっているのではないか?」


 科学者たちの言葉には、きちんとした根拠があった。それ故に、もう望がないのだとハッキリ分からされた。彼らは光を失っていった。


 だがしかし、この世界に抗い続けてきたダイバー達にとっては、絶望とは隠された希望を意味した。


 デルンは逆転の発想により、この窮地(ピンチ)こそ、最大の好機(チャンス)だと悟ったのだ。


「待ってください。これは、もしかしたら最後のチャンスかもしれませんよ?」


「……何を言ってるんだお前は。ああ、そうか。頭がどうかなってしまったんだな」


 学者の一人は憐んだ目をデルンに向けた。

 だがデルンはあきらめずに、彼らに自分の思い付きを話した。


「違いますよ! いいですか、ロワンゼットは自分の脳から出る電気信号を送り付け、クローン兵を操りロボット兵器を復活させた。そこで、僕が疑問に思ったのは、ロワンゼットが全てを操っている状態の今、クローン兵の意識はどこにあるのかという事です」


「は? ええっと、それは…………」


「数十万のクローン兵の意識はすでに消失している。そうは考えられないでしょうか?」


「!!!」


 何の前兆もなく、ロワンゼットは配下のクローン達に向けて強制的に電波を送り付けた。

 一つの生物の中に二つの意識がどう時に存在することは出来ず、元からあったクローンの意識は、ロワンゼットの支配で上塗りされてしまったのではないか。デルンはそう考えたのだ。


 また例外的としてSF小説などである二重人格者は、たいてい片方の人格が内部から時間をかけて発生したものであり、今回のケースは該当しない。


 デルンの推理を聞いた学者たちは、再び議論を始めた。


「もしそうだとしたら、ロワンゼットから送られる電気信号さえ止められたら、全てのクローンを停止させる事が出来るのかも?!」


「だが、それは希望的観測にすぎないだろう。クローンの意識はただ埋もれているだけかもしれない」


「たしかに。だが少なくとも可能性はあるぞ」


 すると、さらにデルンはこう言った。


「フリークさんの極大の禁呪による魔法封印が破られた理由。それも洗脳ではなく指揮系統の書き換えだとすれば辻褄があうんです。単純にロワンゼットが機械を操ってるからではなく、ロボット兵器の意識と一緒に魔法封印も書き換えられたと考えれば……」


 ロワンゼットは、仮にも生命として意識のあったクローンからそれを奪い、文字通り自分の駒として仕立てあげた。あまりにも非道な事でミュートリアン達は信じがたかったが、実際それが真実であった。


 王は言った。


「ウム。その可能性にかけるとしよう。これが最後の戦いになりそうだ。信号増幅機を実際に見つけるまでも問題だが……」


「大丈夫です。兄さんたちなら、きっとすぐに駆け付けてくれます」


「それならアタシも同意です。あの人たちなら、どんな困難も乗り越えられるって信じてますです」


「その言葉を、我も信じよう。皆、場所の特定を急ぐのだ」




 一方そのころ、望とロンドの二人は地下水路での逃走を続けていた。


「う~ん」


「どうしたの、ロンド君」


「……いや、なんでもないよ」


 しかし、侵入者と戦ってから、彼の頭の隅には引っ掛かる物があった。それでも確信が持てずに打ち明けられずにいたのだ。


「だめだよ、こんな時にぼんやりしてたら」


「うん。……ごめん」


「ほら、もうすぐだから頑張ろ! この水路を登りきれば安全な街の中に出られるんだから」


 ケイブロングヴェルツの中に逃げ込めさえすれば流石に追ってはこれないはずだ。

 階層構造の街はとても複雑で、追跡を撒くのにはうってつけだった。それに街に入ればだれかに助けを求めることも出来る。


 しばらく歩き、二人の眼前に一筋の光が見えた。地上の光が注ぎ込んでいるようだった。


「やった! 出口だよ」


 そう言うと、望は目の前の水路の出口めがけて走りだした。


 だがその瞬間、ロンドは脇道の空間に隠れていた怪しげな人影にギリギリで気が付いた。


「望さんッ 危なぁい!」


 ーガキィンッ  バチバチ―


 黒装束は二人の事を先回りして待っていたのだ。

 望に向かってレーザーブレードが振り下ろされたが、ロンドによって寸でのところで凶刃は防がれた。


 望は困惑した。


「ど、どうしてっ? ケイブロングヴェルツの住人でもないのに、こんな迷路のような入り組んだ場所で先回りが出来るの?」


「さあ、もう観念しろ。お前たちの持っている神の雫を渡せ!」


「ううっ…どうしようロンド君」


 するとロンドはこう言った。


「望さん、絶対に渡しちゃダメだよ?! そのレリックは望さんにとって大切なおじいさんの形見で宝物だろうけど、おれ達にとってもこの旅の意味を知る上で欠かせないものなんだ。だから、それは最後まで望さんが持っていなくちゃ!」


「……ッ うん!!!」


「おれなら負けないよぉ! やぁァーッ」


 そう言うと、ロンドは果敢に立ち向かって行った。


 だがそもそも彼は狭い場所で戦いなれておらず、戦闘力も黒装束の方が勝っているようだった。



 そして一分もたたずに、ロンドと望は狭い通路の壁際へと追い込まれてしまったのだった。


「さあ、覚悟は出来たか?」


 黒装束は赤いレーザーブレードを高々と構えた。とどめを刺す気なのだ。


 もうダメだと思い望は目を瞑った。


 しかしその時、突然ロンドが意味不明な事を言い出したのだ。


「……師匠!! もうやめて下さいッ」


「っ!?」


 望には、ロンドが何を言ってるか見当もつかなかったが、それを聞いた黒装束は確かに動揺していた。


「今だ!」


「何っ」


 その動揺した一瞬の隙を逃さず、ロンドは黒装束の持つレーザーブレードを叩き落とした。そして、黒装束の眼前に自分の黄色いレーザーブレードを突き付ける。


 望はロンドに尋ねた。するとロンドはこう答えた。


「おれは何度も稽古に付き合ってもらったから、この人の太刀筋だと分かってしまったんです。ですよね、シリカ師匠」


「……なら最後まで油断するなとも教えたはずでしょう?」


「えっ? ああ、しまったぁ!」


 黒装束は懐に隠し持っていたもう一つのレーザーブレードを抜き放つと、それですっかり勝った気になっていたロンドの剣を呆気なく叩き落してしまった。

 その剣はシリカがいつも使っていた青色のレーザーブレードだった。


「シリカさんどうして…?」


 望が尋ねると、シリカは答えた。


「シリカには……大切な、大切な弟がいました。ですが、もうこの世界にはいません。なので彼のためにも仮想空間(カテドラルスペース)は必要なのです」


「で、でもっ それは偽物じゃないんですか?」


「それの何が問題なんですか? 仮想空間(カテドラルスペース)ならもう一度あの子に会うことが出来る。シリカにとってはそれが最重要です」


 シリカの決意は固い。

 仲間を売ってまでも仮想空間(カテドラルスペース)に行こうとした彼女を説得するのは難しい。

 しかしロンドは諦めなかった。


「……どうにもならないんですか。おれに出来る事なら何でもします!だからもう、こんな事やめてください!」


「ロンドさん、それは本当ですか? だったらシリカの弟になってください」


「えッ」



 ロンドはとても驚いた。

 だがそれくらいでシリカが凶行を止めてくれるなら、弟くらいなってもいいと思っていた。次の言葉を聞くまでは。


「実は……ロンドさんの事は初めてみたときから気になっていたんです。とっても可愛いなって。アは。ロンドさんの為ならシリカなんでもしてあげますよ?好きなご飯も作ってあげるし、お風呂だって一緒に入ってあげます。どうですか?悪くないでしょ」



「…ええっと」


「……そうですか。そんな目で見るんですね」


「あ、いやっ 違う」


 心の声に触れて思わずひるんでしまった。それが致命的にいけなかった。


「もういいです。本当に、すみませんでした」


 そういうと、シリカはレーザーブレードを振り上げる。


「さよなら。私の幻想の礎になってください」

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