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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
番外編:祝福の飴ちゃん

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ディランと祝福の飴ちゃん

こちらは、第1部終了時点のお話になります。

書籍発売中です。どうぞよろしくお願いします。

 王太子の執務室へと戻る途中、角を曲がったところでノアはディランと鉢合わせした。


「ノア、少し聞きたいことがある」

「はい、どういったご用件でしょうか?」


 一応は目上の立場にあたる相手なので、丁寧な態度で礼を尽くす。

 内心は、また「聖女候補生の仕事斡旋相談」だろうと辟易していた。


(今度は、どういった理由で切り込んでくるつもりだろう……)


 最近は、説き伏せられそうになることが多くなってきている。

 絶対に頷くものかと気を引き締めて、次の言葉をまった。


「アーサーが食べている飴のことだが、少し分けてもらえないだろうか」

「!?」


 予想外の展開だった。

 なんで、どうしてあの飴を、よりにもよってディランが欲するのか。


 一瞬だけ、息を止めたノアだったが、懐に手を入れて袋をひとつ取りだした。


「ディラン様、これが僕のおススメの飴です!」


 大きな声で紹介し、ディランへと押しつける。

 渡されて思わず受け取ったディランだったが、所望した品ではないことに、すぐに気付いた。


「私は、アーサーが好んで食べている飴を――」

「これ、すっごく美味しいんです。一度召し上がってみてください」

「それは、分かった。だが、相談したかったのは、この飴ではなくてだな――」

「僕が食べたなかで、一番の美味しさなんです!」

「そういう話ではなくてだな――」

「やはり人に勧めるなら、自分が食べて美味しいと思うものにすべきですよね!!」


 どんどん大きくなる声に、ついにはディランが根負けした。


「なら、いただこう」

「はい! ぜひたっくさん食べてください!!」


 元気ハツラツな態度で話題を締めくくったノアは、笑顔でディランを見送った。

 後ろ姿が消えたあとは、よろよろと壁際までいき、背中をもたれかけて体を支える。


「飴、用意しておいて、よかった~~」


 祝福の飴ちゃんの製作をリリィに辞めさせることができず、アーサーが食べるのを止めることも諦めた。

 話題がでたら代替品を渡して話題をそらそうと、半ばやけくそで準備していた飴が役に立った。


「ディラン様が興味を持たれるなんて……。どうしよう」


 次回もお勧めの飴を押しつける作戦で乗り切れるだろうか。


(無理だ。ディラン様を言い負かすなんて、僕にはまだハードルが高すぎる)


 どうしよう。どうしたらいいんだろう。

 ノアは次の策はないものかと悩んでしまった。



 ****



 さて。ノアから飴をもらったディランは、ひとつ食べてみることにした。


「ふむ。確かに美味いな」


 多忙なディランは食事も簡単に済ませることが多く、こういった嗜好品は滅多に食べる機会がなかった。

 だからとても美味だと感じた。


「確かに手元に置いておくと、手が伸びるかもしれんな」


 ふむふむと、アーサーの行動に理解を示そうとしている。


「――あの飴は、これ以上に美味いのだろうか?」


 王太子の舌を虜にした飴。

「祝福の飴ちゃん」とまで呼ばれているのだから、みすぼらしい見た目に反して上等な代物だったのだ。

 そうなると、なんだか「祝福の飴ちゃん」を手に入れたくなってくる。


(だが、アーサーに会おうにもノアが邪魔をする。ノアは飴を渡したくなさそうだしな。仕方ない――)


「本人に直接交渉するしかない、か」


 聖女候補生リリィに接触すべく、ディランは歩きだした。



 ****



 柱の陰に隠れたリリィは、息を潜めて気配を消す。


(どうして最近、あの人をよく見掛けるんだろう?)


 あの人とは、聖女候補生であるオリビアの兄・ディランである。

 城内で過ごすとき、リリィは高位な貴族の通る廊下を避けるよういわれて、使用人たちの通路を利用していた。

 普段見掛けるのはメイドや衛兵ばかりなため、ディランの姿は目立つのだ。


 高貴な人とすれ違うときの作法に自信のないリリィは、遠方にディランの姿をはじめて見付けた日、柱の影に隠れてやり過ごしていた。

 それから数日、なぜか毎日なんども見掛けている。


(誰を探しているんだろう? はやく用事が済むといいんだけど……)


 まさか自分に用事があるなどと思いもしない。ただ、どう挨拶していかかわからないので、ひたすら避けつづけているのだった。


「なぁ、リリィ。どうして隠れてるんだ?」

「ひぇ! ――銀、しっ!」


 いつのまにきたのか、銀が横に立っていた。


「こっちに入って!」

「なんだよ、もー」

「いいから!」


 半分はみだす銀の体を、柱の陰に一生懸命ひっぱった。


「こんなところで、一体なにをしている?」


 暗い影が、ふたつの小さな体に覆い被さる。

 見上げると、不可解な表情を浮かべるディランが立っていた。


「……あ、あの」

「君が、ノアの従妹のリリィさんか?」

「は、はい」

「よかった。実は君を探していたんだ」

「!?」


 まさか自分に用事があるなどと思っていなかったリリィである。


「あ、あの。どういったご用件でしょうか?」


 緊張して震えた声でしゃべるリリィをみて、銀が一歩だけ前にでて主を背中に隠す。


「大した用事ではないんだが。――突然話しかけたせいで、驚かせてしまったようだね」


 目的を果たそうと行動していたディランだが、いきなり接触したのはマズかったのだと、リリィの反応をみて察した。

 手前の少年からは胡乱な視線を向けられてしまい、慌てて事情を説明する。


「君が作った飴に興味を持ってね。少し分けてもらえないかと探していたんだよ」


 用事を伝えても、リリィはふるふると震えて怯えたままだ。

 なんだかディランのほうが、悪さをしている気になってくる。


「なーんだ、おっさん、祝福の飴ちゃんがほしいんだ!」


 銀のカラッとした声が、緊迫した空気をぶちやぶった。


「お、おっさん!?」

「ぎ、銀!」


 銀の無作法に、リリィはついに涙目になってしまった。

(きっとノア従兄様に苦情が入って私が怒られる! どうしよう、銀のバカ!!)


 怒られる未来に怯えきったリリィを無視した銀が、固まるディランの手に飴をひとつ握らせた。


「おっさん。祝福があるといいな!」


 にかっと笑って、握った手をポンポンと叩いた。離したあとはリリィの手をとって歩きだす。


「そろそろダニエルの研究室へ行こうぜ、リリィ」


 立ち去るふたりに、我に返ったディランが思わず問いかけた。


「まってくれ。どういう意味だ、それは!」

「祝福の飴ちゃんだからな。食べれば祝福されているかどうかわかるんだよ! じゃーなー」


 少女を引きずり、反対の手で大きく手を振りながら、少年は去っていく。

 残されたディランはといえば、手渡されたみすぼらしい飴をじっと観察した。


「祝福の飴ちゃんとは、そういう意味なのか?」


 食べると祝福されているかどうかわかる、と少年はいっていた。

 この飴を食べつづけるアーサーは、口内で祝福を味わっているのだろうか。


「なるほど。興味深い代物だ」


 自信家であるディランは、当然のように祝福を味わえるだろうと思っていた。

 包み紙を解き転がりでてきた黄金の球体を、じっくりと眺めたあと、口の中へと放り込む。









 飴は、悶絶するほど不味かった。

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