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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
番外編:祝福の飴ちゃん

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ダニエルと祝福の飴ちゃん

こちらは、第1部終了時点のお話になります。

書籍発売中です。どうぞよろしくお願いします。

「はっ!」


 その日、ダニエルは机に置いてあった祝福の飴ちゃんをみて閃いた。


「そうだ、この飴で腹痛の薬を作ろう!!」


 先ほど、彼のお腹に激痛が走っていた。

 それというのも、面倒がって入手時期不明のパンを確認せずに食べたからである。


「飴があれば、舐めているうちに治るじゃないか!」


 うんうん唸りながら立ち上がったあと、尋常じゃない速さで部屋からでていったのだった。



 ****



 数日後。ダニエルは己に降りかかった不幸(自業自得)を回避すべく、腹痛に効く飴を作ってもらおうとリリィに相談を持ち掛けていた。


「ねぇリリィ。効能がちゃんとわかる飴を作りたいんだけど、どうかな?」

「効能、ですか?」

「そうそう。私が欲しいのは腹痛、胃痛、頭痛に効く飴なんだけどね!」


 ウキウキしながら計画書を広げたダニエルの元へ、銀が駆け寄ってくる。


「ダニエル、そういうのは飴じゃなくて、ちゃんと薬で治すんだよ」


 ん、と銀が薬用のマイ巾着をとりだして渡す。

 彼は薬草を育て売る傍らで、薬の量り売りも手伝っていた。調合なども手伝ったことがあり、簡単なものなら作ることもできるのである。


「――確かに、普通に薬に頼るべきだね」

「飴だと希釈しちまうから、どうしたって効きが悪くなる」

「――おっしゃる通りです」


 秒で夢が打ち砕かれたダニエルは、がっくりと肩を落とした。

 そして銀が差しだしてくれた薬袋をちゃっかり白衣のポケットにいれて、トボトボといってしまった。


「銀、もう少し言い方に気を付けないと」

「はぁ!? 今の流れで俺に落ち度があったか?」


 銀にしてはめずらしく、手持ちの薬をタダであげたのに。

 事実を伝えて、正しい対処を教えたというのに。


「だって、すごくガッカリしてたわ」

「自分の発想のお粗末さにショック受けただけじゃねーの?」

「銀!!」


 主を怒らせてしまった銀は、なぜかダニエルに謝らなければならなくなった。

 どうして、なんでと思わなくもなかったが、こういう場合は素直に聞いておくと事がスムーズに進むことは、村での生活で身に染みている。

 さっさと済ませてしまおうと、ダニエルの気配がする部屋へ入ろうとした。

 足を踏み入れてすぐ異臭に気付く。獣人である銀は嗅覚が鋭い。


「なんだ、この臭いは……!」


 警戒態勢をとった銀は、耳をだして周囲の音を拾おうとしている。

 鼻をふんふんと鳴らして臭いのする場所へと近づいていき、途中で耐えられなくなると今度は袖で鼻を覆った。


「っ! んだよ、これ!!」


 悪臭に耳がへにゃりと折れる。


「どーして、カビて腐るまでほっとけるんだよ!」


 元はなにかの食べ物だったものが、皿の上に乗っていたのだった。



 ****



「これって由々しき問題だわ。衛生って一番大事なのよ」


 西の砦の救護班で手伝いをしていたリリィは、ダニエルの部屋の衛生面の悪さを大問題だととらえたようだ。


「食い物を粗末にするなんて、ありえん!」


 食事におやつはバトルになるのが常だった銀は、腐る前の食べ物に思いを馳せて悔しがっていた。


「食べないなら、俺が食べてやったのに!」

「食べるつもりで置いてあったのよ。それが腐ったままになることが問題なの!」


 共にご立腹の様子だが、論点はズレている。


「ダニエルの部屋に運ばれる食いモンは、腐る前に俺が食べる!」


 これで解決だという銀に、リリィが首を横にふる。


「ダメよ。ダニエル様は食事の時間が不規則だから、時間が過ぎたら下げていいわけじゃないのよ。きっと!」


 事実は、リリィの言い分が正しかった。

 研究や読書に没頭するダニエルは、ふとした瞬間に常世に意識が戻ってくる。

 そのときはじめて空腹に気が付くのである。すぐに食べられるよう部屋の隅におきっぱなしにしてあるのだ。


「だとしたら、腐るしかないじゃないか!」

「それをなんとかするって話でしょ!」


 ふたりでウンウン唸りながら悩んでいるところに、エリオットがやってきた。


「どうしたのですか?」


 新しい遊びでもはじめるのだろうかと、ウキウキしながら声を掛けたのだが、聞かされたのは、なんとも汚い話であった。


「うわぁ……」


 竜人族の皇子であるエリオットは、望めば即座に用意が整う環境で育ってきた。

 料理も食べきれないほどの皿が並ぶのが常。すべてが美味。

 お腹が空いたとき用に、前もって準備をしておくというのは発想すらない。


「定期的に入れ替えすらしようとしない女官など、私の国なら即クビです。よくて下人落ちですね」


 皇族に仕える高位な女官だからこそ、少しの落ち度でも厳しい罰が与えられる。

 即クビは、本当に首が飛ぶ話であった。


 リリィと銀は「即クビ=解雇」とだけ理解した。

 よくて下人落ちの意味が通らないのだが、わからないままにスルーしたようである。


「定期的に入れ替えできれば、いいのでは!?」


 嬉しそうに手を叩いたリリィは、この名案を実行すべく、とある人に相談することにした。



 ****



 ノアを通さず直接会いにきたリリィに、アーサーは少しだけ目を丸くする。

 うしろには銀とエリオットもいるので、面白い遊びでも思いついたのだろうかと、軽い気持ちで話を聞くことにした。



 すべてを聞き終えたアーサーは、膝から崩れ落ちそうなほどの衝撃をくらった。


 自分の叔父が、食事管理を疎かにし腐った食べ物を摂って体調を崩していると聞かされた時点で、胃が痛くなった。

 それをなんとかせねばと、リリィ、銀、エリオットが考えてくれたことが居た堪れない。

 食事の入れ替えを定期的にしてもらえるよう、人を配置してほしいとお願いされて、顔から火がでそうなほど恥ずかしい思いをした。


(叔父上……。さすがに許可をだすのも恥ずかしいです)


 敬愛する叔父だが、少々だらしのない、もとい、いい加減なとこがあるのは知っていたつもりだ。

 ひとりで好き勝手している分には、気にしなくていいだろうとも思っていた。


 だがしかし、である。

 幼気な子供たちの真剣な心根で訴えられたら、ちゃんとしなければいけなかったのだと反省する気持ちにもなるというものである。


「ちゃんと手配しておく。心配を掛けたな」


 許可した瞬間、目の前の三人が飛び跳ねて喜んだため、アーサーのメンタルゲージが豪快に抉れた。


(ちゃんと、しよう)


 当たり前の一言が、心に重くのしかかる。


(叔父上にも、表面上だけでも、ちゃんとしてもらおう)


 強く強く、心に誓ったのであった。

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