ノアと祝福の飴ちゃん
こちらは、第1部終了時点のお話になります。
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「ねぇ。リリィ、一度ふつーに作ってみない?」
「え?」
最近、やけに祝福の飴ちゃんを量産する従妹のリリィに、ノアが提案をした。
「どうして?」
「――普通の飴も食べてみたいなーって思っただけだよ」
当たり障りのない理由を述べてはいるが、内心では美味しい飴を作るようになってくれたらいいな、という期待でいっぱいだった。
「普通の飴ならお店で買えるわ。メイド長に頼んできてあげる」
「まってまってまってまって。そうじゃない」
素早く行ってしまおうとするリリィの肩を、慌てて掴んで引き戻す。
(どうしてだ。なんで普通の飴は買えばいいってなるんだ? だったら飴は全部買えばいいって思うだろうに)
特別な飴を作りたいという目標でもあるのだろうか。なら特別美味しい飴にしてもらいたいものである。
(よりにもよって美味しくない飴を作るのが趣味なんて。あげく殿下が気に入ってしまうなんて――)
この事実をノアは気にしているのだ。
先だっては、言い掛かりのネタにもされた。せめて万人が認める美味しさであれば、リリィがアーサーへ差し入れしても問題にならなかったのに、と未だに悔やんでいるのである。
「銀と一緒に改良しているところなの」
「そうなんだね」
改良とは、一体どういった方向に変化するのだろうか。
できれば薬草を抜いた飴へと方針転換してほしい。
「ちなみに薬草は?」
「新しく仕入れたものを使うわ!」
きっとノアが望む方向とは違うほうへ味変しているのだとわかってしまった。
(どうしてだ。なんで銀君が参加しても普通にはならないんだ?)
誰かと一緒に考えたなら、あまいだけの飴になるとしか思えないのに。不思議である。
「リリィは、どうしても薬草を入れた飴が作りたいんだね」
「だって体に良い味だし。それが祝福の飴ちゃんなんだもん」
長年西の砦で愛されていた。
体に良い味。
不味くはない。
決定的なバツがなく良い評価が重なった結果、リリィは祝福の飴ちゃんの味の方向性には確固たる自信を持っているのだ。
(こう、リリィを傷つけずに納得してもらって、美味しい飴を作るようになる方法はないのだろうか……)
何度も説得を試みているのだが、毎度撃沈している。
もういっそ、正直に不味いから二度と作るなとド直球に伝える以外に方法はないような気さえしていた。
「ところで、ノア従兄さま」
「なんだい?」
「これ、アーサー殿下に渡してもらえますか」
恒例の王太子への献上物「祝福の飴ちゃん(大袋入り)」がノアの手に渡された。
(殿下が気に入ってしまわれたから、美味しくないとは伝えられないよ)
それがなかったとして、健気な少女の手作りお菓子を真っ向から否定できたのかは甚だ疑問である。
周囲の評価を人一倍気にすノアは、いつだって現状維持に立ち戻ってしまうのであった。
****
「殿下、リリィから預かってまいりました」
「ありがとう」
受け取ってすぐにアーサーは飴をひとつとりだして、口に放り込んでいる。
ガリガリと噛み砕いたあと、すぐにふたつ目に手を伸ばした。
「本当に、お好きなんですね」
「好き、というわけではない、と思う」
おや、とノアは、この話にくいついた。好きじゃないなら、アーサーへ祝福の飴ちゃんを献上しなくて済むのではないか。
(そうか! 僕は殿下にこの飴を献上するのが気掛かりだったんだ。渡さずに済むようになれば気が晴れるかもしれない)
身内が多少味に難ありの代物を作ったところで、気に病むほどではない。
問題は、それが身内外の手に渡るところにあったのだ。
「殿下。王家御用達の店から飴を取り寄せましょう」
「同じようなものがあるのか?」
「いいえ。あまいだけの飴になりますが――」
「なら、これでいい」
提案は、呆気なく棄却されてしまった。
(好きじゃないっていったのに! 結局気に入っているということなのか!?)
己の仕える王太子は、表情から真意が読み取りづらい。
無心に食べる姿をみれば、気に入っているのだと理解できただろうに、ノアは諸々が嫌すぎたせいか事実から目を背けていた。
好きじゃないといったそばから三つ目に手を伸ばす。
矛盾した様子に、つい苛立ってしまった。
「好きじゃない割には、よく口になさるのですね」
たぶんだが、はじめて含みのある言葉を投げかけた。
アーサーの視線が向けられて、己の迂闊な発言に肝を冷やす。
「ノアは、この飴を気にするな」
「いえ、ええっと、そういう訳では――」
「ノアは、この飴をどう思っているんだ?」
どう、と問われれば「美味しくない飴」と答えが浮かぶのだが、素直に答えられる訳がない。
なにか、もっと別の。角の立たない表現を――
「か、体に良い味、だと思います」
「ああ、そのせいか気軽に食べてしまう」
体に良い印象は、食べる者の心に善行じみた心象を与える。
なにもしなくとも、良いことをしている気になれるのは、気分が少しだけ上がるのだ。
「どんなものも食べ過ぎはよくないとは思う。それを気にしてくれたのか」
「いえ、あの。――食べ過ぎない程度に楽しんでいただければと、思います」
うまく切り抜けられた。
アーサーから飴を取り上げるのも、リリィに作らないよう仕向けるのも難題だ。なら周囲からの悪意を一掃したほうが、はるかに合理的なのかもしれない。
(この飴を否定するものを、駆逐しよう)
どちらか一方が飽きるまでは何事も起きないよう目を光らせておこう。
「祝福の飴ちゃん」反対派であったノアが、擁護派へと一変した瞬間であった。
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