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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
第3部:成金大国の金策騒動 編

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幕間.お礼の品はなにがいい?

 

 アクセサリー、花、菓子、ドレス、靴。

 思いつく限りの贈り物を並べてみたものの、どれもお礼の水準をクリアできそうにない。


 ジルバ国は古の都というだけあり、装飾品も服飾も目を見張るものがあった。

 菓子や花では体裁を整えた感じが前面に出てしまい、気がすすまない。


 そのせいで、ダニエルはリーラへのお礼を選ぶことに多大な時間を消費していた。


「はぁ。一体なにを贈れば穏便にすむんだろう」


 ダニエルは、始終不機嫌だったリーラが喜ぶものではなく、これ以上怒らせずに済むものを選びたかった。


「ねぇ、アーサー。女性への贈り物って何がいいと思う? 他国の方に贈るから、できれば聖アウルム王国らしいもので」


「我が国は特産物が無いことで有名です」


 そっけない返答をしてくる甥っ子に、ダニエルは口を尖らせた。


「そうだけどさぁ。見てよこれ。魔石としても質がいいし、装飾品の宝石にも使える高ランク。これをクズ石というジルバ国とこれからも仲良くしたいなら、もっと協力してよ」


 アーサーは魔石を手に取ると、握ったり眺めたりして、その質を確かめた。


「我が国の宝石類をお礼に贈ったら、嫌がらせに取られそうですね」


「そーなんだよ! 百歩譲って加工技術は文化の違いで目新しく映るだろうけど、石がねぇ。貰ったものを加工して返すのもどうかと思うしね」


 リーラの不機嫌な顔が、さらに険しくなるのが容易に想像できてしまい、ダニエルは嘆いた。


「リリィは、今までどんな贈り物をもらったことがある?」


 執務室にいる唯一の女性に質問したのだが、その人選はどうだろうかとアーサーなどは心の中で突っ込みを入れていた。


 かたや問われたリリィは真面目に受け取り真剣に考えた。

 一応全ての会話は聞いていたので、聖アウルム王国らしく女性に贈るものを探してみる。


「初代聖王の贈り物の話を添えて、髪飾りを贈るとか、どうでしょうか? 国内では詩にあやかって気軽に贈るものですし」


「ああ、貴族は一式を婚約や結婚で贈るけど、市民は詩通り祭りごとに贈るのだっけ」


「はい、私もノア従兄様(にいさま)とアーサー様に髪飾りとネックレスを頂きました。嫌なら付けないでお祭りに行けば断れるという所作までを、紹介して贈ってみるのはどうですか?」


 聖アウルム王国の文化の紹介にからめて装飾品を贈るのなら、文芸品になるので良いかもしれない。


「叔父上、その方を祭りに誘うことになりますが、大丈夫ですか?」


「私は嫌われているから、贈ったところで来ないよ。文化的資産として見聞するだけだと思うから大丈夫さ」


「嫌われたのですか? 一体なにをして」


「わかんない。出会い頭に嫌がられたから、もう私の存在がダメとしか思えない」


 笑いながら装飾品の目録書(カタログ)を手に取り眺めだしたダニエルは、さして気にしている様子はない。

 揉めたわけではないのなら別にいいかと、アーサーも追及するのをやめることにした。




 目録書に描かれた装飾品は、聖アウルム王国が好む黄金細工が多い。

 どれも決め手に欠けるため、ダニエルはつぎつぎにページをめくり続けた。


(文芸品だけど、一応彼女に似合いそうなものを選びたいかな)


 記憶の中のリーラが、憎々しさを浮かべた目で睨みつけくる。――その瞳は、ひどくきれいな紫の色をしていた。


紫水晶(アメジスト)の石に、黄金よりも銀細工の飾りが似合いそうだ)


 ダニエルは髪飾りを選ぶと、今度はレターセットを取り出して、習得したばかりのジルバ語を使い手紙を書いた。



『リーラ様へ


 先日は、お忙しいところ蔵書室の付き添いに調べ物まで手伝っていただき、ありがとうございました。

 ささやかではありますがお礼の品として、聖アウルム王国の立国より伝わる詩の紹介と、それにちなんだ贈り物を添えさせて頂きます。


 こちらは初代聖王が聖女を妃にと望んで贈り物をした詩になります。


 髪飾りを贈り花祭へ誘って、美しく髪を結った彼女と会いましょう

 首飾りを贈り夏至祭へ誘えば、彼女は微笑んでくれるでしょう

 腕輪を贈り豊穣祭へ誘えば、彼女と心が通じ合うでしょう

 アンクレットを贈り鎮魂祭へ誘えば、彼女を繋ぎ止めるでしょう

 指輪を贈り雪祭へ誘えば、彼女は永遠を誓うでしょう


 この歌にあやかり貴族王族は婚約や結婚で揃えの品を男性側から贈り、女性が全て身に着けて嫁ぐ風習があります。

 市民のあいだでは祭りに誘うときに贈る文化もあるそうです。


 ちなみに、この贈り物は約束の日に着けずに相手に会うことで、口で伝えずとも断ることのできる便利な側面もあり、なんとも勝手が良いことから根付いている文化でもあります。


 是非、我が国の文化を知っていただければと思い、お礼の品として選びました。

 他意はございませんので、楽しんでいただければ幸いです。


 ダニエル』



 あくまでも文化の紹介とお礼の品で、それ以上の意味はございませんと念押しして、ダニエルは手紙の最後を締めくくった。


 後日、蝋封した手紙と準備した髪飾りを収めた小箱のふたつを、エリオットに託したのだった。



 ◇◆◇◆


 さて、エリオットからダニエルのお礼を受け取ったリーラは、贈り物を近くの机に置いて見向きもしなかった。


「あとで見ます」


 とだけ言って、興味ないとばかりに他ごとを始めてしまった。

 仕方なしに、エリオットはその場を離れた。






 ように見せかけて物陰に隠れると、こっそりと顔を覗かせる。


 戻ればダニエルから、受け取った時のリーラの様子を聞かれるのだ。

 見向きもしなかったなどと言いたくないし、かといって喜んでいたと嘘をつくのも気が滅入る。

 エリオットは、結局リーラがどうするのかを見届けてやると意気込んだ。




 案の定、エリオットが居なくなった途端に、リーラは包みを開き手紙を開けて読み始め、なんだか楽しそうに行ったり来たりし始めた。


(……嬉しいなら、そう言ってくれればいいのに)


 リーラが喜んでいたことを確認したエリオットは、バレないように静かに歩き出すと、そのまま聖アウルム王国へと帰っていった。










 ダニエルの手紙を読み、贈られた髪飾りを手にしたリーラは、浮足立った。


 出会ってからリーラのことをやんわりと拒絶し続けて、番であることも気づかず、そのまま立ち去った愚かな相手から贈り物を貰えるなんて、と。



 ちなみにダニエルが帰ってからというもの、リーラは毎日彼を呪っていた。


 人には番の機能が備わっていないとはいえ、ちょっとくらい気づいたり、おかしいと思ったりしても良いではないか。


 最後まで気づかなかったので、生まれて初めて地上にまで行ったというのに。

 ダニエルは笑って手を振り、去っていった。



 はっきり言って、腹が立った。



 時間が経つにつれて、帰ってしまったダニエルに納得できなくて、毎日部屋にこもって欝々(うつうつ)と過ごすようになってしまった。


 そこに届いたのが、この手紙である。


 お礼の品は、聖アウルム王国建国時から伝わる文化にちなんだものを選んだと書いてある。



 ただ、それが聖アウルム王国の男女間で贈り物をし、逢瀬の約束を取り付けるものであることが気になった。


 ――なぜ、あえてこれを選んだのか


 断り方までしっかりと書いてあり、民間では比較的軽い約束を取り付けるものだとも書いてある。


 ――未だ気持ちを確かめ合っていないので、自信がないゆえに断り方を書いてくれたようにも読み取れた



 人であれば、どこに重きを置いたのか推考(すいこう)したのだろうが、竜人でかつ番同士のやり取りとなれば、受け取り方はただひとつ。



 求愛一択。



「す、少しくらいは、気になっていた、ということ……かしら?」


 一応は、花祭とやらに誘ってくれているので、リーラの判断ひとつで行くことも断ることもできるようになっている。


「ど、どうしましょう。――一体、どうしろというのです?」


 まさか、リーラに来いと言っているのか、ダニエルは。


「は? わたくしに聖アウルム王国に来いと言っているのですか? この男は!」


 リーラは手紙に怒ったり蕩けたりと忙しい。

 真意を測りかねて、かつ混乱した彼女は、はたと自らの服を見下ろした。



 幾重にも重なった衣装は、実は寝巻の上に羽織ってごまかすドレスである。

 その格好でうろつくなと姉ヴェルデに怒られ続けていたが、見せる相手もいないのだからと気にしなかった。


 番が見つかったら本気出すと言い続けた結果、いざ着飾ろうとしても、どうしていいのか分からない。


(もし、行くとしたら。いえ行かないのだけど。でも、もし行くことになったとして、何を着ればいいの? ジルバ国の服だと目立つわよね。嫌だわ。なら、聖アウルム王国の服を着るの? どうしてわたくしが! ああん。一体どうしたらいいの! ―そうだ!)


「姉様! 全部、姉様に相談しましょう!」


 パン! と手を叩き、いそいそと手紙と髪飾りをもって、リーラは竜妃の部屋へと向かう。



 リーラの気持ちは未だダニエルを番として認めてはいない。

 ただ、番に求められたのなら答えたいという原始的欲求に突き動かされて右往左往しているだけだ。



 この後も、リーラはどっち着かずでグズグズと言い訳し、なにも決められずに、でもでもだってと言い続ける。


 そして、決断力のあるヴェルデに怒られるのであった。



 こういう、ちょっとした小さなズレが、やがて大きな見解の相違に発展するのである。


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