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聖女になりたい訳ではありませんが【書籍化・コミカライズ】  作者: 咲倉 未来
第3部:成金大国の金策騒動 編

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11.ジルバ国滞在記 反省会

 ダニエルと銀を部屋へ送り届けたあと、エリオットは竜王と竜妃への報告に向かった。

 結果は散々で、なにひとつ計画通りにはいかなかったため、足取りは重い。


 竜王ブラウの執務室へ入ると、そこには竜妃のヴェルデしかいなかった。


「あの、父上は?」

「いつもの通り、お酒を飲んで寝てしまわれました。報告はわたくしが聞きます」


 ブラウは、空がまだ夕方の色を映している時間帯から酒を浴びるように飲む。

 今は夜空を映しているのでいつも通りではあった。


(今日くらい、待っていてくれてもいいのに)


 残念に思ったエリオットだったが、散々な結果を報告するなら父がいないほうが気が楽かもしれないと思いなおす。


「まったく。今日くらい待っていれば良いものを。仕方のないひと」


 ヴェルデはため息をつくと、エリオットに報告するよう促そうとした。――が、表情が曇っているので、その理由を先に問うことにする。


「どうでしたか。難しかったのですか?」

「はい。なにひとつ計画通りにいきませんでした」


 ひとつ、ふたつの失敗はあるだろうと思っていたヴェルデだが、まさか全て失敗するとは思っていなかった。

 頭の回転が良く呑み込みの早い息子は、少々自信家で我慢のきかないところがあったが、失敗して落ち込んでいる姿は珍しい。


「大変でしたね。案内した友人の反応はどうでしたか?」

「とても喜んでいました」


 なら、なぜ息子は落ち込んでいるのだろうか。

 客人が喜んでいるのなら、機転を効かせて成功したのだろうに。


「なにか、気になることでもあったのですか?」

「あの、その……」


 エリオットは、しばしの間口ごもったが、やがて母親に今日の出来事を話し始めた。


 自分の計画は、見通しが甘かったこと。

 友人たちの体質では、案内できない場所がたくさんあると知ったこと。

 実は魔石採掘場で、二人とも倒れてしまったこと。

 捨てるために除けてあった魔石を上等だといい、欲しがったので渡してしまったこと。


「二人とも心から喜んでいる様子です。ですが、ちゃんと歓迎できたかといわれると……」


 ヴェルデは話を聞き終えると、持っていた扇子を閉じて息子の顎に引っ掛けて、顔ごと上へと持ち上げた。


「お前が大切にするべきは、招待した友人たちを最後まで気持ちよくもてなすことであって、己の不手際に嘆いている場合ではないでしょう。ちゃんと出来ていても相手方が不快に感じれば失敗です。喜んでいるのなら上々ではありませんか?」


 口がへの字に曲がり眉根を寄せ、目の潤んだエリオットの顔に、ヴェルデの口元がうっかり緩む。



(わ、笑ってはいけないわ。でも、本当に良いお友達ができたみたいね)


 向けた扇子をしまい、今度は両手でエリオットの顔を包む。

 いつもなら子ども扱いしないでくださいと避けるのに、今日は素直にされるがままだ。

 小さい頃よくしていたように、おでこをコツンと合わせても抵抗がなくて、予想以上に萎れているのだと知った。


「……母上、恥ずかしいです」


 ややあって、ヴェルデの手を押しのけて触れた額を隠しながら一歩後ろに下がったエリオットは、とても可愛らしく見えた。


「残りの滞在予定の見直しをするのでしょう。母も手伝いましょうか?」


「はい、お願いします」


 素直に頭を下げる姿もまた珍しく、ヴェルデは思わず口元を手で覆い後ろを向いて悶えたのだった。





 ◇◆◇◆


 滞在予定を見直しながら、ヴェルデはエリオットから友人の話を聞いた。


 滞在一日目の予定を終えたあと、二人からはそれぞれ異なる希望が出ていた。

 ダニエルは蔵書室での調べ物に入りたいと言っており、銀はとにかく見て回りたいとのことだった。


「なら別々で案内するほうが良いでしょう。元々はダニエル殿が蔵書室を利用するのが目的なのですから、そちらを優先してさし上げなさい」


「でも、銀は蔵書室に興味がないので、そうなると半分ずつ予定を組まないと――」


「あなたひとりで全てをこなす必要はないでしょう。蔵書室を誰かに頼んで、エリオットは同年代のお友達に国を見せてあげなさい」


 ここ二十年ほど、国中で生まれた子供はエリオットと妹のシャルロットのみである。

 仕方のないこととはいえ、ヴェルデにとっては気に病む問題であった。

 国内で年の近い友人を作ることのできない息子には、ぜひとも外でできた友達との時間を優先させたい。


「調べものであれば、詳しいものに頼むのがいいでしょう。国外の言葉を操れる者となると限られますが。――そうだ! 妹に任せるとしましょう」


「り、リーラ様、にですか?」


「いつも蔵書室に入り浸って主のように振る舞っているのです。良い機会ですから、たまには国のために働いてもらいましょう。いいですよね? リーラ」


 ヴェルデは後ろを振り返り、声をかけた。


 密談用に仕切られたカーテンが揺れて、奥からリーラが姿をみせる。


「リーラ様?! いつから、そこに――」


「ブラウが早々に酒を飲んで寝てしまったので、お前を待っているあいだの話し相手を頼んでいたのです。事情は聞いていましたよね?」


「ええ」


 エリオットは慌てた。リーラは到着して直ぐにダニエルと銀を見て、悲鳴をあげて逃げたのだ。

 良い感情を持っているとは到底思えない。


「は、母上、ちょっと待ってくださ――」


 直ぐに止めに入ろうとしたが、リーラの顔が険しくなり思わず口を噤む。

 この叔母のことが、エリオットは少々苦手であった。


「わたくしに文句があるようですね。エリオット?」


「そういうわけではなくて。リーラ様のお手を煩わせるのは良くないと思いまして」


「蔵書室を利用する時点で無関係ではいられないのに? 今さら遠慮など無意味です」


 つん、とそっぽを向いたリーラは見るからに不機嫌だった。


 気分屋なリーラに慣れているヴェルデは、姉として諭しながら話を進めた。


「蔵書室はリーラの所有物ではないのですよ。そのように言うものではありません。それで、頼めますか?」


「ええ」


「では、頼みましたよ」


「ええ」


 どう見てもよろしくない雰囲気をまとうリーラに頼んだ母に、エリオットは内心穏やかではない。

 ただ、代替案もないため止める言葉が出てこない。


 エリオットがまごついているうちに、話が済んだリーラはさっさと部屋から退出してしまう。


(だ、大丈夫――だろうか?)


 ダニエルは大人だし優しいから、きっと大丈夫だ――という言葉を何度も唱えてみたものの、まるで安心できないのだった。



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