56話 最高の日々
「エーヴァ、今年の穀物価格の報告が来たよ」
「はい。ありがとうございます」
結婚が認められた後の話だ。
私とバーツ様はソッケ王国フィーラ公爵家に残り、領主として尽力している。
今ではフィーラ公爵家の扱う全てを把握していて、領民とのコミュニケーションもこまめに行い、現場にも足を運び声を聴き順次改善を進めているのもあって、領民たちの信頼も得た。さすがバーツ様だ。
「お姉様、ただいま戻りました」
「シャーラ、お帰りなさい。もうそんな時間?」
「はい! お姉様もこの後社交界ですよ? 準備しないと!」
「そうね。これが終わったらにするわ」
妹のシャーラは政務につき、王城に勤務している。家のためではなく自分のために選んだ。公爵家を継ぐ気持ちも当然あって、私がメインで家業を教え両立している。我が妹ながら、本当に一年で家業を継げそうなぐらい励んでくれているから今後は安泰だ。
「エーヴァ、もう一つ」
「はい」
「グング伯爵家から三回目の入金があった」
「期日通りですね。よかった」
元婚約者ヒャールタ・グング伯爵令息。
度重なるフィーラ公爵家への無礼に加えて勝手な婚約破棄と再婚約の申し出に御父様も堪忍袋の緒が切れた。徹底的に争う姿勢を見せたら、伯爵家は涙ながらに謝罪し、こちらの明記する違約金の支払いを飲んだ。
グング伯爵家としては息子であるヒャールタが一人暴走したと言っていたらしい。どちらにしろ許されないのだけど。
「エーヴァも社交界の準備してきたら? あとは僕に任せて」
「いいんですか?」
「残務処理だけだから平気。気にしないで」
バーツ様にお礼をし、部屋に戻るところで御父様と会った。
「御父様」
「ああ、エーヴァ。社交界の準備だね?」
「はい」
「私も二人を紹介できるのが嬉しい」
バーツ様は諸島リッケリの領主としての手腕をいかんなく発揮して、フィーラ公爵家でもその能力を存分に見せた。
臨時的な後継者だけど、堂々と紹介できる。
加えてフィーラ公爵家が流通も担っていたから銀細工をこれでもかと推し進めた。社交界で毎回宣伝をすれば各国の銀細工師が総動員しないと需要に追い付かないほど注文が上がっている。今では銀細工師の集まりも定期的に行い、新しい銀で作る作品が増えてきた。
「ではまた後で」
「はい、御父様」
領主としても銀細工師としても堂々と立てる。私の銀細工を作り続けたい望みも叶った。最高の日々だ。
「イングリッド、お願い」
「はい。エーヴァお嬢様」
自室に戻り丁寧に準備を始める。
今では銀細工をいかに魅せるか考えて社交界の装いを決めるようになった。
今日は最高級のサファイアと同じ濃い青色、コーンフラワーブルーをメインとし、灰色がかった緑褐色の鶯色を取り入れたシックな装いだ。これに銀細工がとても映える。銀のレースも散りばめた。
バーツ様の瞳の色と髪の色に合せた衣装、そして銀細工。最高のアピールになる。
「いかがでしょうか?」
「ええ。とてもいいわ」
髪を結って銀細工も交えた。このぐらい銀細工で着飾らないと宣伝にならない。
と、扉が叩かれバーツ様が入って来た。
すでに準備はできている。
「バーツ! 素敵です!」
「ありがとう」
バーツ様は同じく濃紺コーンフラワーブルーをメインとし、ここにペールホワイトリリーを取り入れた衣装だ。私と同じようで対になり、そこにやはり銀細工を取り入れている。以前も濃紺の衣装を着たことがあったけど、今回の方がより銀色が映えるようにした。
「エーヴァもとても綺麗だよ」
「ありがとうございます」
正直、銀細工は十分なぐらい広まり、多くの人に認知された。
「バーツ、ディーナ様に頼まれていた件ですが」
「ああ。とっくに二人で決めていたのに伝えてなかったね」
「そうです。遅ればせながらお返事した方がよいのかと思って」
「そうだね」
今のままでも十分だけど、この銀に出会えて銀細工を作れたことは形に残したいと思えた。
「行こうか」
「はい」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
後日譚系列はまだまだ続きます!正確には58話までが本編、後日譚は59話って感じです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです!




