53話 ネカルタス王国の特使が入城
「王陛下、私を利用してください」
周囲がざわめく。王陛下も僅かに眦を上げた。
先手必勝だ。
「私とバーツ様の婚姻を認めていただければ、積極的にドゥエツ・ソッケ両国間の友好関係を示します」
私はもう誰にも利用されない。
大事な人も失わない。
「銀細工師になり、三国間に渡り良好な人脈の確立もお約束しましょう」
そのための詭弁だ。
利用されるふりして利用してやるのよ。
私が望む結果へ辿り着いてみせる。
「なら私はドゥエツ王国からソッケ王国へ移住します」
「バーツ様?」
バーツ様が一歩踏み出し、私の隣に立った。
優しい微笑みが降り、すぐに真っ直ぐ王陛下を射貫く。真剣な瞳だ。そこに嘘はない。
「ドゥエツ王国民でありつつ、ソッケ王国でエーヴァ嬢と暮らします。そして両国間の架け橋になることをお約束いたします」
「……成程」
そうなれば友好関係がさらに分かりやすく見える。
ソッケ国内へのアピールには申し分ない。
「私のリッケリ領を管理する能力はこちらでも活かせるでしょう。フィーラ公爵家でエーヴァ嬢の支えとなって努めます」
「バーツ様、それは」
「あくまで、エーヴァ嬢がフィーラ公爵家の事業を継いだ場合ですが」
フィーラ公爵家へ入るということだ。
バーツ様は伯爵姓を賜っていて諸島リッケリの領主。これを失ってでもフィーラ公爵家へ入るということ。
そして継がないとは聞いていたものの、今の発言で元々ドゥエツ王国の名だたる公爵家の長男であるバーツ様が実家の公爵家も継がないと明確に示したことになる。
しかもフィーラ公爵家は私が継ぐを前提にしてまで話を進めてくれた。
よりソッケ王国に利がでる提案だ。
「王陛下。他国の私が差し出がましいことを申し上げますが、エーヴァ嬢との婚姻を認めていただきたいのです」
「ふむ」
王陛下が沈黙した時、陛下の側近が現れ、許可を得て陛下に耳打ちした。
陛下は頷き、同時大きな扉が開かれる。
そこにはフードを被る見知った人物がいた。
「パサウリス・スカシ・アピメイラ公爵」
「あー……遅れてすみません」
話は聞きました、とだるそうに話す特使のパサウリス様は嫌そうにいつも被っているフードを外す。
ざんばら髪のショートカット、日に焼けた肌を持つ細身で若い人。出会った頃から変わらないわね。
「エーヴァさん、バーツさんと結婚するんでしょ? それでいいじゃん」
「陛下の御前でなんという言葉遣いっ!」
「よい」
案内をし側に護衛として控える騎士がパサウリス様に注意するのを陛下は許した。
陛下が許すのを見てパサウリス様は話を続ける。
「ネカルタス王国との強固な関係を築きたいのは分かるけど逆効果だから。こっちが特使で出したならそれを受けいれなよ。そうでないとヴェルディスが動くし」
ようは余計なことをするなってことね。海を渡った南の大陸、ファンティヴェウメシィ王国とソレペナ王国はネカルタス王族との婚姻によって関係を築いた。私たち三国は特使だ。分け方はさておき、三国の中で抜け駆けはよくないし、ネカルタス王国とてバランスを見ているのだろう。
「あとこっちの城には入らない。銀がとれるあの場所にいるよ」
「しかしそれでは」
「じゃあ、あのあたりの領地をちょうだい。で、そこで銀と鉱石・魔石の管理するから」
ネカルタス王国の狙いは公正な取引ができるよう採取場の確保と管理。最重要は魔石だ。ディーナ様が率先してくださった会談である程度のルール決めは済んでいるけど、奪い合いになる可能性は少なからずある。盗みに入る人間も増えるはずだ。となると、魔法使い一人がその場を守るだけで安全性が上がる。
陛下は沈黙し、瞳を閉じて長考した後、ゆっくり目を開けて答えを出した。
「……アピメイラ公爵の言う通りに。早急に手配しよう」
王陛下が同意した。パサウリス様の機嫌を損ねてネカルタス王国に帰られても困る。無理に密な関係を進めるより、機嫌よくパサウリス様に対座し続けてもらう方がいい。
「エーヴァさんとバーツさんもこれで安心だね。末長くお幸せに」
「あ、ありがとうございます」
「まあどっちにしても自分女だからエーヴァさんと結婚無理だけどね!」
「え?!」
女性?!
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
エーヴァが頑張った論戦、意味なかった?と思いつつも、エーヴァの下地があったから、ネカルタス特使の要望も通ったってことで。最強の魔法使いヴェルディスが出てきたら国消えるかもしれないしね(笑)。




