32話 社交界で銀細工を売り込む
「本当に招待状をとってくるなんて思わなかった」
「たまたまです」
「王城で行われる社交界の招待状は貴族でも中々とれないって聞いてたけど……」
「え、あ、いえ! 本当にたまたまです! ディーナ様と出会えた時のように運良く手に入ったんです」
ディーナ様が市井に出てくる特殊な方なのだけど、例に出すのは正解だったよう。バーツ様が頷いてくれる。
「衣装も先立って動いてくれて助かったよ」
「旦那様、お似合いです」
諸島リッケリから執事のペーテルに来てもらいバーツ様の社交界用の衣装宝飾品全て持ってきてもらった。
私は実家の専属侍女イングリッドにこっそり持ってきてもらって着替える。
家出をしてからしばらく、久しぶりに再会したイングリッドの喜びようったらなかったわね。
「うん。エーヴァ、とても綺麗だよ」
「ありがとうございます」
「エーヴァって侍女いたんだ?」
「えっ」
「親しそうにしてたから」
確かに久しぶりに会ったイングリッドは涙をためながら再会を喜んでくれた。はじめましてではない雰囲気だし、決してお嬢様とは呼ばなかったけど、ぱっと見たところ彼女の主人は私だと見えるだろう。
「小さい頃からの知り合いなのです」
嘘ではない。幼少期からイングリッドには世話になっている。一緒に育ったようなものだ。年も近かったから、親しみもあったし仕事もできるし私のことをよく理解してくれていた。
「そうなんだ」
なんとかバーツ様に納得してもらった。
一息つき改めてバーツ様の衣装を見る。
銀が映える濃紺の衣装を纏ったバーツ様は特別格好良い。
コーンフラワーサファイアとバーツ様オリジナルの銀細工を組み合わせて作った男性用の装飾品と合わせれば、美しい夜空と輝く星、絵画のような仕上がりになった。
「美しい……存在が芸術品だわ……好き」
「エーヴァもよく似合ってる」
私が自身の外見で好きな部分はシャーリー様の髪色と同じピンク色の瞳だ。
私の持つ薄い暗さの残るピンク色の瞳に合わせて、衣装はピンクとグレーを組み合わせた。
そこに銀細工で作ったアクセサリーを散りばめる。今回は敢えて宝石はネックレスのみしか使用しない。
バーツ様と対になるようなパパラチアサファイアにオリジナルの銀細工を組み合わせたもの一点、他の宝飾品は銀細工で統一した。
新しい銀で作る細工はレースと言っても過言ではない程、細かい模様を作ることができ、なにより軽く見えたのでドレスによく馴染んでいる。ゴテゴテした感じも華美すぎる印象もなく、むしろぱっと見たところ地味に見えた。けど、これでいい。シンプルなのに実はよく見ると多くの銀細工が施されているとかいいサプライズだ。中々の出来栄えだと思う。
「行こう」
「はい」
馬車で向かう道中、美しすぎるバーツ様を目の前に悦に浸るしかない。
* * *
「着いたようだ」
「はいっ!」
ドゥエツ王国王城には実は入ったことがない。
多少の緊張を胸に入城すると、中はドゥエツ王国・ソッケ王国・キルカス王国の三国の貴族の面々が多かった。知っている顔もちらほら見える。
「バーツ! エーヴァ!」
「ループト公爵令嬢」
「ディーナ様!」
ああ、ディーナ様も美しい。
「社交界に来るなんて珍しいね?」
「こちらにいらっしゃると伺って参りました」
「私?」
「ディーナ様に新しい銀から作った細工を売り込みに来たんです」
単刀直入に伝えるとディーナ様の眼の色が変わった。新しい銀のこと、私とバーツ様が身に纏う銀細工を見てもらう。
「成程……ヴォルム」
「はい」
パートナーの護衛騎士が紙と書くものを出した。
「銀素材の平等な確保のために取引の採取・取引制限の会談開催を早めるね」
「ありがとうございます」
「三国どころか六ヶ国会談にした方がよさそう」
予想通りだ。
採取制限をかけるにあたり、銀細工師筆頭のバーツ様と同盟を結んだ六ヶ国で話し合いの場を設けてくれると言う。
「後、銀細工売り込むなら、グレーデ夫人かな。新しいもの好きだしね」
紹介するねと笑う。
そんなディーナ様の胸元には私がかつてお礼にと差し上げた銀細工が光っていた。
「ディーナ様、そちらつけていただいて光栄です」
「うん。お気に入りだからね」
嬉しい言葉。職人冥利に尽きる。
「結婚式は新しい銀の細工頼もうかな」
「極細の銀細工なら刺繍代わりも可能ですし、重ねて布のように見立てたりもできます」
「レースにできるってこと?」
「はい、可能です」
「最高じゃない?」
盛り上がる私たちを見てバーツ様が微笑む。それを見て動揺してしまった。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
幼少期の思い出で既にバレてますが、言わないのがバーツの優しさ(ぐいぐいはくるけど)。そしてディーナときゃっきゃうふふしてても見守る優しいバーツ……優しい(落ち着け)。




