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20話 嫌な予感ともやもや

「……だそうです。よかったですね、旦那様」

「あらバーツ様! お帰りでしたか」

「んんっ」


 少し目元が赤い。執事のペーテルはやたらにこにこして嬉しそう。


「バーツ様?」

「……いや、なんでも、ない」


 少しそわそわしてる? 落ち着きがいつもよりないような?

 今も体調不良者が増え続け、海賊の出現と本来前線に出るはずのないループト公爵令嬢の出航はバーツ様の心を乱しているに違いない。

 心配事ばかりで、すべて解決していないのだから落ち着いていられないのだろう。


「お仕事大変だったでしょう。どうぞお掛けになってお茶を」

「……ああ、ありがとう」


 ふふと笑いながらペーテルがバーツ様にお茶を出す。


「この後すぐに出るので、銀細工への時間がとれなさそうで……」


 エン島から戻るループト公爵令嬢を迎えるためだと言う。


「今は非常事態です。お気にならず、海賊と体調不良者の件に集中してください」

「ありがとう。使者ルーレ様はお帰りになったと聞いた」

「はい。本土持ち帰りで対応について後程回答するとのことです」


 回答なんてなさそうだけど。

 ループト公爵令嬢あたりに正体暴いて一発殴ってほしい。


「新しい銀を取りにソッケ王国に訪問したいことをループト公爵令嬢に相談しようと思ってる」

「はい」


 領主として長期間領地から離れるのであれば、当然領地を統括している政務担当に話を通さないといけない。

 ドゥエツ王国はどの領地も安泰のようだし、代わりの領主も見つかるだろう。なにせ担当がループト公爵令嬢なのだから間違いない。


「そろそろかな」

「お気を付けて」

「エーヴァ嬢はループト公爵令嬢に会わなくても大丈夫?」

「お礼を申し上げたいのですが、事態が事態です。終息してから改めてお伝えしようかと思ってます」

「分かった」


 私がバーツ様の弟子になれたのはループト公爵令嬢のおかげだ。けど、今そんな話を悠長にしている場合じゃない。

 あの使者ルーレの存在を鑑みるに、あまりいい方向に動いていないし、最悪自国を含めた三国を巻き込んだ大事になる気がする。

 嫌な予感がした。



* * *



「……まったくあの方は」


 戻ってきたバーツ様は少しお疲れのように見えた。けど、どこか高揚している。


「いかがされたのですか?」

「ループト公爵令嬢が体調不良者の治療をしたんだ」


 しかも治療を行った騎士たちは皆治ったと言う。

 ありえない。対応策なんてなかったのに。


「奇跡を起こしたのですか」

「その通りだ。信じられない」


 今は屋敷のいつも使われる部屋で護衛騎士と共に休んでいるらしい。


「あの方はいつだって想像を超える。予想外なことばかりだ」

「でもよかったです。騎士の方々が戻れば心強いですね」

「ああ」


 驚いているのに嬉しそうなバーツ様が可愛い。

 ディーナ様という存在は本当特殊だ。なんでもできる人ってこの世にいるのね。

 普段クールなバーツ様がこんなにも表情を変えるなんて影響力が絶大な人。

 長年の関係、信頼も絶大、なによりここまで感情を揺さぶられているバーツ様を見るに、もしかしてバーツ様はディーナ様のことが好きなのかしら? なんてね。


「ん?」


 まただ。

 胸の奥に独特の気持ち悪さが広がる。


「エーヴァ嬢? どうかした?」

「いいえ。なんでもありません」


 笑顔で返す。気のせいね。


「ループト公爵令嬢はこの後、魔法大国ネカルタスへ向かうそうだ」

「それはまた驚きですね」


 魔法大国ネカルタスは諸島リッケリを経由した南の大陸にある魔法使いしかいない国だ。魔法使いの保護を名目に鎖国を続けている。

 当然、入国は難しい。それをディーナ様は簡単にやってのけるのね。


「ああ本当に。けど体調不良者の件も大方解決した。本土の返事を待ちつつ、海賊対策は従前通り行うから、銀細工への時間が取れると思う」

「嬉しいです。でも、無理はなさらないで下さい」

「はは。僕が銀に触りたいだけだよ」

「まあバーツ様! こんな非常事態にも私に気を遣って下さるなんて! 好きです!」


 君は変わらないなと笑うバーツ様の目元がまた赤くなっていた。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。

エーヴァは自分の好きな人以外は結構辛辣です(ごめんねルーレ)。けどいい具合にバーツの塩対応が変化してきているのでよしとしてやってください(どういうバランスなの)。

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