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【書籍化】推し騎士に握手会で魔力とハートを捧げるセカイ(連載版)  作者: 緑名紺
第6章 推しエール訓練発表会

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45 イベント前の動揺


ネロ視点です

 

 晴れて良かった、と俺は雲一つない空を眺めた。

 風が少し強いのが気になる……今日の訓練発表会、良い結果を残せるかな。


「頑張ってね、ネロ! めざせ一等賞!」

「ふん、貴様の実力ならば当然だ。優勝以外あり得ない」


 同期のリリンとクヌートも、イベント運営を手伝うために会場に来ていた。

 激励は嬉しいけど、プレッシャーで肩が重たくなった気がする。


「うん……頑張ってみる」


 心を落ち着かせようと深呼吸をするけど、あまり効果はなかった。

 いつも訓練をしている旧闘技場の観客席が人でいっぱいになることを考えると、気が遠くなる。今からこんなに緊張していては、普段の訓練の成果を万全の状態で発揮できるとは思えなかった。情けない。


 訓練発表会は、騎士の本分ともいえる戦う姿を国民に披露するイベントだ。

 兵種ごとに開催されていて、今回は射手と魔術系の遠距離攻撃部隊が主役。参加するのは俺も初めてだ。

 内容は毎回違っていて、今日は競技形式で行われるそうだ。


 今回のイベントの流れはこう。

 まず魔術系の騎士のみが握手会を行い、観客から魔力を集めてから、頑丈な巨大ゴーレムを攻撃魔術で破壊する競技をする。

 中心部に隠されているゴーレムの核を壊した騎士が優勝らしい。これはすごい見応えがありそうだ。


 その後、休憩を挟んで今度は射手の的当て競技会が行われる。

 いろいろな種類の的が現れ、最も命中率の高い騎士が優勝となる。多く射て多く当たればいいというのではなく、ちゃんと当たった確率を測定されるので注意が必要だ。


 どちらの競技でも上位入賞者は表彰され、王家のポケットマネーから賞金がもらえるらしい。他人と競ったり、目立つのは苦手だけど、賞金が出るなら積極的に優勝を狙っていきたいところだ。


 ……そう、俺たち射手が競うのは弓の技術だけで、今日は魔力を使わない。

 だから射手はイベント前に握手会を行わず、全部終わった後に魔術系の騎士と一緒に、ファンサービスとして魔力譲渡なしの握手会をすることになっている。


 射手の先輩たちは、握手会が一回しかないことに対して、「俺たちってやっぱり不遇兵種?」とちょっと寂しそうだった。


 仕方ない。

 魔術部隊は、剣士と並んで騎士団の花形だ。

 攻撃魔術だけじゃなく、結界や治癒も担当していて、日頃からすごくお世話になっている。たくさん働いていて目立つ機会が多いってことだ。

 魔術系の騎士のほとんどが華やかな上級貴族。しかも今回はジュリアン副団長とミューマさん、トップ騎士が二人も参加すると発表されている。

 きっと今日集まる観客のほとんどは、魔術系の騎士を目当てにしているんじゃないかな。


「…………」


 射手の競技会が全然盛り上がらなかったらどうしよう。過度に注目されるのは緊張するけど、全然興味を持ってもらえないのも辛い……。

 声援の差に俺たちのメンタルがおかしくなるかもしれない。


 合同の訓練発表会じゃなければ、こんな悲しい思いをせずに済んだかな。

 でも、もっと悲しいことに射手だけの訓練発表会じゃ、そもそも観客席が埋まり切らないだろう。

 それくらい、その……俺たちのポジションは地味なんだ。やっぱり不遇兵種かもしれない。


『今回の発表会では、改めて射手のすごさを国民に知ってもらいたい。だから遠距離部隊での合同開催にした』


 アステル団長のこの言葉を信じるなら、これは射手という兵種が日の目を見るための抱き合わせイベントだ。

 前向きに頑張ろう。

 俺は、この前に戦功を授与されたこともあって、射手の中では最も期待されていると思う。普段の握手会でも並んでくれる人が増えたし、実は少しだけリピーターもいる。

 メリィちゃんみたいに、姫君と呼べるほど推してくれる人はまだいないけど……俺のことを気にかけて応援してくれる人は確かにいるんだ。

 もっともっと頑張って、射手に興味を持ってくれる人を増やして、射手希望の入団者が出てくるところまでいけばいいな。

 そして何より、俺の活躍をメリィちゃんに見てほしい。


「……うわぁ、すごい人だねぇ」

「案内役が足りていないようだな。行くぞ」


 射手の競技会まで時間があり、控室にいても落ち着かないので、俺もリリンたちと一緒に魔術系騎士の握手会を手伝いに来た。

 旧闘技場前の広場では、イベントチケットを当てた選ばれし観客たちが行列を作り始めていた。すごい人だ。

 視力には自信があるけど、これじゃあさすがに来てくれていても見つけられないな。小柄な彼女は群衆の中では埋もれてしまうだろう……。


「あ、ネロったら、メリィちゃん探してるでしょー?」


 リリンに考えていたことを見透かされ、俺は露骨に動揺してしまった。クヌートが呆れたようにため息を吐く。


「ネロ、貴様という奴は……」

「ご、ごめん。こんな時にまで浮ついて――」

「そんなにも彼女に日頃の訓練の成果を見てもらいたいのだな。しかし、あの少女ならばネロのことを一途に応援してくれるだろう。信じて挑め」


 相変わらず優しいな、クヌートは。怒られるかもと身構えた分、心に効く。


 そうだ、メリィちゃんの視線を気にして調子を崩したら本末転倒だ。

 そもそもチケットが当たっているのかも分からない。相当倍率が高くなっているはずだし、もしかしたら落選していて今頃自宅で落ち込んでいるかも。


 ……離れていたとしても、きっとメリィちゃんは俺のことを考えていてくれるはず。

 俺も同じ気持ちだ。

 見守っていてくれると信じて、今日のイベントに集中しよう。

 制服の下に隠して付けているお守り石の感触を確かめてから、俺は列形成用のロープを手に取った。






 しばらく働いてから、


「そろそろネロは戻って準備しろ」

「ここは任せてー」


 クヌートとリリンにそう言ってもらえたので、俺はその場を離れ、騎士の控室に向かうことにした。

 少しは緊張がほぐれたと思ったが、本番が近づくとまた違ったプレッシャーを感じる。

 弓の最終調整をして、先輩たちに改めて挨拶をして、それから今日のイベントの流れをもう一度確認しないと――。


「?」


 ふと、視界の端で何かを感じ取った。

 己の勘に従い、振り返って目を凝らすとそこには……。


 メリィちゃん……!

 握手会の列の中に彼女の姿を見つけた。

 目敏い自分に思わず笑ってしまった。

 かなり距離があるし、人波が開けた一瞬で見つけ出してしまうなんて……。


 でも、仕方がないか。ものすごく可愛い子がいると思ったらメリィちゃんだったんだから。

 推し騎士を応援するために集まった姫君はみんな着飾って可愛らしいと思うけど、やっぱり俺の目にはメリィちゃんが一番輝いて映るらしい。

 彼女は俺に気づいていないし、今は状況的に声をかけられない。それがもどかしかった。


「…………」


 なんだろう、この、なんとも言えないモヤモヤした気持ちは……。


 イベントに来てくれたのはものすごく嬉しい。競技会へのやる気がまた一段階高まった。

 今日も彼女は紫を基調とした可愛らしい服を着ている。きっと俺目当てだろうという自惚れる心があった。

 一方で、初めて彼女が他の騎士の列に並ぶ姿を見てしまって、少し落ち込む。


 分かっている。

 射手の握手会があれば絶対に俺のところに来てくれただろう。

 今だって、こちらが首を傾げたくなるほど「すん」とした表情で順番を待っていた。普段俺に見せてくれる表情とは全然違うので、推し変ではないと断言できる。


 魔力譲渡をせずにイベントに参加する、というのは彼女の性格上できないんだろうな。

 一国民として、先日魔女の館から助け出された者として、イベントの当選者として、推し騎士だけではなく星灯騎士団全体を応援するのは当然のこと。

 メリィちゃんは悪くない。間が悪かったんだ、と俺は無理やり自分を納得させた。


 それにしても誰の列に並んでいるんだろう、と恐る恐る列の先を覗き見る。


「え、なんで……?」


 思わず声が出た。彼女が並んでいる列は、意外にもジュリアン副団長のものだったから。


 純粋に疑問だった。わざわざ列の長いトップ騎士を選ぶなんて、どういう理由だろう。

 魔女の館でお世話になったからだろうか。それならミューマさんだって同じはず。二分の一の確率で選んだのかな。


 そのまま取り留めのない思考を脳内で波のように漂わせていると、ガツンと衝撃を受けた。


「な……!?」


 ようやくメリィちゃんが一人きりではないことに気づいたのだ。

 前に並んでいた二十代前半の若い男と言葉を交わし、神妙な顔で頷いている。時折感心したように拍手をしたり、親愛のこもった瞳を向けているようにも見えた。


 エナちゃんやご両親以外の同行者、しかも若い男。

 迷惑がってはいないからナンパではなさそう。というよりも、どうやら顔見知りのようだ。

 気になる。ものすごく気になって仕方がない。


「…………」


 それから控室に戻って先輩に肩を強く揺らされるまでの記憶がなかった。


 誰!? その人は誰なんだメリィちゃん!


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