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〜吸血蟲討伐戦・最高にハッピー〜

〜吸血蟲討伐戦・最高にハッピー〜

 

 暗黒色の球は無数に分裂した吸血蟲ヴァンペクトを吸い込み弾け飛んだ。

 その光景を呆然と見守る冒険者たち。

 

 「ふっふっふ! すごいだろぉ? これが僕の奥の手さ! 魔力は半分以上使うからもう残りはからっきしだけどねぇ。 久々に俺に全力を出させるなんてね! 吸血蟲は大したモンスターだよ!」

 

 したり顔で肩をすくめる凪燕。 しかしその時、シュプリムだけがあたふたしながら周囲を見渡していた。

 

 「ばっ! ゆっ! まっ! おっ!」

 

 突然ヒューマンビートボックスのように口をパクパクさせるシュプリム。

 凪燕はまたシュプリムが訳のわからないことを言おうとしているのかと思い、呆れたような視線を向けるが………

 

 「凪燕さん! まだ終わっていないみたいです!」

 「この慌てよう………おそらくシュプリムのやつは『バカ! 油断するな! まだ、終わってない』と言おうとしたのでしょう! 慌てすぎて喋ろうとするセリフに舌が間に合っていないだけです!」

 

 シュプリムの事をよく知るメルと虞離瀬凛グリセリンが慌てて補足説明をする。

 それを聞いて凪燕はすぐに油断なく周囲に視線を送り、驚愕の表情を作った。

 

 「は? なんだよ、これ! 雷探知に………無数のモンスターの反応? しかも俺たちのところに向かってる?」

 

 凪燕の反応を見た冒険者たちも、慌てて臨戦態勢をとる。

 

 「おい! 凪燕の旦那! まずいでやんすよ!」

 

 どこからともなく鬼羅姫螺星きらきらぼしの声が響く。

 凪燕たちはすでにモンスターに囲まれてしまっていた。

 それにいち早く気がついたシュプリムは、一番近くに寄ってきた鱗粉蛾プドゥルニューイを両断する。 しかし、鱗粉蛾から出た血液は空中をフヨフヨと浮きながら、一点に集まっていく。

 

 集まっていく場所を見て異変に気づく冒険者たち。

 空中を浮遊する血液はさっき両断された鱗粉蛾のものだけではなかったのだ。

 そこら中から集まる血液を見た凪燕は額から大粒の汗を流した。

 

 「今俺が倒したモンスターは、分裂していたフェイク! 本体はまだ生きている?」

 「しかも大幅に失ったはずの魔力は、血液を摂取すればするほど増えているでやんす!」

 

 音もなく凪燕の隣に現れる鬼羅姫螺星。

 苦虫を噛み潰したような顔で油断なく周囲に注意を払う凪燕。

 

 「いつ分裂してやがったんだ? まずいよ! 俺は今の奥の手でほぼ魔力を使い果たした! 大規模な魔法はもう使えない!」

 「全員虞離瀬凛さんのそばへ来てください! 鬼羅姫螺星さん! 神怒狼夢さんときんちょるそんさんはどちらに?」

 

 動揺した凪燕を見たメルが、代わりに全体に指示をしていく。

 姿が見えない二人を気にしたのだが、鬼羅姫螺星は困った顔であらぬ方向に視線を送った。

 

 「あの二人は、もう止められないでやんす………」

 

 虞離瀬凛の元に集まった冒険者たちが揃って鬼羅姫螺星の視線を追うと………

 

 「私は………最高にハッピー! ひゃっふぅぅぅ!」

 

 鎖鎌を舞うように振り回しながら飛びだして来たのは、兎科の獣人。

 

 「だ、だれだあいつ?」

 「神怒狼夢シンドロームさんです! あれは、彼の能力で絶好調になった時に発する口癖!」

 

 ガルシアの呟きにすかさず解説を始めるメル。

 

 「神怒狼夢さんは、殴るヒーラーと呼ばれていて相手に攻撃を加えることで魔力を吸うのです! 限界まで魔力を吸った後は、自分自身を治癒し続けます! そしてその治癒は自分の好不調も向上させるのです!」

 

 真面目な顔で力強い解説をするメルに、ガルシアはジト目を向け始める。

 

 「その治癒は自信の好調、不調の状態に作用し、攻撃を加え続ければ絶好調になります! 彼の口癖でその時のテンションがわかるんですが、今はまさに絶好調の時に発する口癖なのです!」

 「メルさん、真面目な顔で解説してるみたいですが、これって笑うところですか?」

 

 ガルシアに向けられたジト目に対し、キリッとした瞳を返すメル。

 

 「大マジです!」

 「そ、そう………ですか。 すごいっすね、神怒狼夢」

 

 ガルシアはジト目をそのまま神怒狼夢に向ける。

 

 「最高に、ハッピー! 最高に、ラッキー! さぁいこぉにぃぃぃ、デリシャァァァス!」

 

 アクロバットな身のこなしで空中で体を高速回転させながら、縦横無尽に鎖鎌を振り回す神怒狼夢。

 

 「あやつ、デリシャスの意味をわかっているのかの?」

 「たぶん、自分でも言ってる意味分かってません。 なんせ彼は今、ハイテンションの状態ですから………」

 

 冷静にツッコミを入れた朧三日月に、気まずそうな顔で答えるメル。

 神怒狼夢の治癒で向上するのは自分の好不調だけではない、身体能力も大幅に上がるのだ。

 絶好調時の身体能力は、金ランク冒険者にも引けを取らない。

 

 いわば神怒狼夢は攻撃を当てれば当てるほど強くなっていく、最強のスロースターターなのだ。

 ほぼ無敵とかした神怒狼夢は、鎖鎌を振り回しながらモンスターたちの首を次々と刈り取っていく。

 そして大暴れする神怒狼夢のやや後方でオレンジ色の紐のようなものがうねうねと動き回り出す。

 

 「駆除だ! 一匹残らず駆除だ! なすべきことはただ一つ! 駆除して駆除して駆除して駆除して………」

 

 ブツブツと呪いのような言葉を呟きながら腕を振り回すきんちょるそん。

 腕からはオレンジに光る線がムチのように伸びていて、集まってくるモンスターたちを次々と焼き切っていく。

 なにより彼が放つ殺気がかなり禍々しい。

 まるで何年間も虫系モンスターを恨み続けていたような、純粋で洗練された殺意が滲み出ている。

 

 「の、呪いでもかけてるのかな? せっかち君は?」

 「あれはきんちょるそんさんが炎魔法で作ったムチです! あの方は炎魔法を自在に操り、様々な形の武器を作ります! 戦う虫系モンスターや戦闘の状況に最も適した武器を即座に作り出し、それを器用に使いこなすのです!」

 

 再度解説を始めたメルに凪燕は困ったような視線を向けた。

 

 「そ、そう。 さすがメルちゃん、詳しいね?」

 「あの方は虫系モンスターを効率かつ確実に倒すために、相手に応じた最適の武器を研究し尽くしているのです! さらにはその魔法を巧みに操る器用さを使い………」

 「だぁぁぁ! 分かった! すごいすごい! もういいからこの後どうする?」

 

 解説がなかなか終わらないメルを半ば無理やり止めさせる凪燕。

 

 「このモンスターたちはなぜ集まってきてしまったのでしょうか? 凪燕さんがさっき放った魔法と関係ありますか?」

 

 ようやく解説タイムが終わったメルが、凪燕に視線を向ける。

 

 「関係ないだろうね! おそらくこのモンスターたちは何らかの能力で操られてる!」

 「ちょいといいでやすかい? 俺の仮説だと、こいつらは吸血蟲に血を吸われたモンスターで間違いないでやす! 死なない程度に血を吸われたこいつらに何らかの毒、あるいは魔法をかけたんでやしょう! その証拠に集まってるモンスター達は吸血蟲と同じ種類の魔力が微量に混ざっていやす!」

 

 メルたちの会話を聞いていた鬼羅姫螺星が、魔力目を使って見えた事を説明する。

 

 「殺し屋くんも頭がキレるのかな? 集まってくるモンスターを対処しつつ、手早く情報を交換しよう!」

 

 凪燕の提案にこくりとうなずくメルと鬼羅姫螺星。

 

 「安心しろ! お前たちが策を講じている間、俺たちが時間を稼ぐ! シュプリム! お前もこい! 朧三日月は霧と中距離からの斬撃中心でサポートしてくれ!」

 

 ガルシアの指示で、困惑していた冒険者たちも連携をとり始める。

 それを見たメルたちは、手早く現在の状況をまとめ始めた。

 

 

 

 三人は現在の状況をこう仮定した。

 おそらく吸血蟲は、はじめに凪燕たちを見て討伐される可能性を悟った。

 そこで朧三日月の最初の斬撃で体を分裂させ、本体を擬態避役シャンジェオンの能力で隠したのだ。

 偽物の方をわざと異形の姿として見せることでそちらが本物だと錯覚させ、危険な冒険者たちの魔力を減らす作戦に出た。

 

 作戦は大成功し、現在凪燕は魔力が枯渇寸前な上に朧三日月も左腕を負傷している。

 神怒狼夢の到着により、しっかりと治癒を受けることはできたが、治癒魔法は万能ではない。

 深く切り裂かれた腕は止血は済んだが動かすまでには相当の時間がかかる。

 

 凪燕の魔法によって大幅に魔力を失った吸血蟲は、手早く失った魔力を回復するため森林エリアに散らばらせていたモンスターたちを集め始めたのだ。

 微量の血を吸った事で自らの眷属と化した中級以下のモンスターたちを近くに集め、血を吸い取って魔力を回復する。

 そうして再度魔力を回復させて、弱った冒険者たちを一網打尽にしようとしている。

 

 「つまり、俺はまんまと出し抜かれたって事か。 それにあっちが本体だってんなら月光熊リュヌウルス鎌風鼬ヴァンフォレッドの能力もまだ使えるかもしれない! さっき月光熊や鎌風鼬の能力を使わなかったのは、本体の方に力を移動してたからか………」

 

 悔しそうに下唇を噛む凪燕、しかし状況を把握したメルは勢いよく立ち上がった。

 

 「全員聞いてください! おそらく吸血蟲の本体は擬態避役の能力を使い、近くに潜んでいます! これを見つけ出せるのはおそらくシュプリムさんと鬼羅姫螺星さんのみ!」

 

 戦闘中のシュプリムは、チラリとメルに視線を送りながら大きくうなづく。

 

 「二人を援護しながら本体を探します! けど本体はここに集まったモンスターの血を吸って魔力回復を狙っています! これ以上モンスターを狩れば相手の術中………」

 

 悔しそうな顔で言葉を途切らせてしまうメル。

 それもそのはずだ、この指示は矛盾している。

 

 『吸血蟲の本体を探すから全員援護に回れ、しかし周囲のモンスターは傷つけつけるな』

 

 こう指示しているのと同じなのだ。

 メル自身がこの矛盾を一番わかっているため、ここからの指示をどう出せばいいのか思いつかず、ずっと悩んでしまっている。

 

 「………なにか、打開策は———」

 

 苦しそうな声で、喉の奥から声を絞り出すが、どうしても改善策が見つからない。

 彼女の心の中では、一人の受付嬢の顔が浮かび出す。

 

 ———あの子ならきっと、すぐに打開策が思いつくのに! 私はあの子みたいな機転が効かない!

 

 悔しさのあまり拳をキュッと握り締めるメル。

 気まずそうな顔で凪燕と鬼羅姫螺星も視線を泳がせた。

 打つ手なし、そう全員が思いかけたその時だった!

 

 「ならば、焼き殺せばいい」

 

 炎の塊を器用に操作しながらつぶやく一人の冒険者が全員に視線を送った。

 

 「おい、ガ………ガ………ガルルガ! 俺が火矢を作ってお前に渡す、打つ時は持ち手を障壁魔法で覆え。 シンドレイク、お前の鎖鎌も俺の炎で作ってやる、使いこなせ」

 「おれはガルシアだ、バカたれが!」

 

 絶望的な顔をしていた冒険者たちの顔が、少しずつ明るくなっていく。

 

 「おい! メ………メイ! おまえはいい受付嬢だと俺は思っている、だからお前のやりたいように指示を出せ。 おれは虫どもを駆除するためなら、よろこんでメイに力を貸すぞ?」

 

 ニヤリと笑いながら、きんちょるそんは炎の塊を龍の形に変え、腕をくいくいと動かしながら器用に操作する。

 炎の龍は、周囲の木々や草を燃やさぬように動きながらも、集まってくるモンスターたちを次々と灰にしていく。

 空いた腕で炎の塊を作り出し、鎖鎌のような形に変えるきんちょるそん。

 

 「これもガル………ガルーアにした指示と一緒だシンドレイク。 持ち手を障壁魔法で覆え、お前なら使えるだろ?」

 「私は最高にハッピーだ! そして、マイネームイズ神怒狼夢! ちゃんと覚えてからリピートしてくれ!」

 

 普段とは比べ物にならないほどのウザさで炎の鎖鎌を受け取る神怒狼夢。

 きんちょるそんの機転により、打開策が見つかった。

 冒険者たちは息を吹き返し、目を爛々と輝かせ始めている。 しかしそんな中、メルは頬を膨らませながらきんちょるそんに視線を向けていた。

 

 「きんちょるそんさん! あなた、担当受付嬢の名前くらい覚えてください! メルですよ! メ・ル! たった二文字なのに間違える人いますか! あなたの脳みそはおがくずなんですか!」

 

 たった二文字の名前すら間違えられたメルはそれはもうカンカンに怒っている。

 きんちょるそんはそんなメルに、うすら笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 「俺の脳みそはおがくずじゃない。 本当におがくずだったら健康状態に異常が出るぞ? エル」

 「なんで器用に一文字だけ間違えるんですかぁぁぁ!」

 

 

 

 きんちょるそんの起点により、モンスターたちの討伐はスイスイと進んでいった。

 途中からガルシアの火矢を作るのは凪燕が交代したことで、きんちょるそんはモンスターの対応に集中できている。

 神怒狼夢、きんちょるそん中心に集まったモンスターたちを狩っていき、それを朧三日月の霧でサポートする。

 ガルシアのパーティー四人は器用に連携をとり、吸血蟲本体を探す鬼羅姫螺星とシュプリムの援護をしつつ、きんちょるそんと神怒狼夢が対応しきれないモンスターを狩っていく。

 

 虞離瀬凛は全員の中央の位置に陣取り、自分の周囲を高温状態にしてモンスターを近づけさせないようにしている。

 虞離瀬凛が作る安全地底でガルシアたちは凪燕から火矢を受け取り、全体のサポートに回る。

 安全地帯とはいえ、全くモンスターが近づかないわけではない。

 そのため虞離瀬凛本人もら超高温にした大楯で近づいてきたモンスターたちを直接叩き、大火傷させていた。

 周囲は超高温のサウナ状態になっているため、サポートに回っている朧三日月と凪燕は汗だくの状態でひたすら前線の冒険者たちを支えている。

 

 「じゅうじゅうと焼けるような音がたまりませんなぁ! 油を張ったフライパンに水を入れた時のような音です! これはクセになる!」

 

 楽しそうに大楯を振り回し、モンスターを高温の大楯でじゅうじゅうと焼いている虞離瀬凛に呆れた目を向ける凪燕。

 

 「君、盾役でしょ? その大楯って殴るようになってないよね?」

 「はっはっは! なにを言うか凪燕さん! 私は高温の大楯で相手を殴る事も多いぞ! 相棒のバカはおれが引きつけたモンスターをほっぽり別のモンスターと戦い始める大バカですからな!」

 

 遠くの方から「誰がばかだごらぁでごわす!」と聞こえてくるが、全員意図的にシカトをする。

 

 「それにしても熱々じゃのう、汗が止まらんわい! まるでサウナじゃな」

 

 朧三日月は額の汗を拭いながらぼやく。

 

 「仕方がないじゃないですか! 虞離瀬凛さんの高温エリアがあるからこそ今の状況が保たれています! この方が私たちの作戦を支える心臓のようなものなんです!」

 

 メルはぼやいた朧三日月を叱咤すると、虞離瀬凛はものすごく嬉しそうな顔でメルに視線を送った。

 

 「だから朧三日月さん! すっごく汗臭いのは我慢しなきゃダメです! 誰の汗が臭いのかはわかりませんが、わたしサウナ行ってもこんな匂いしないから、私じゃないと思いますが………ってあれ? 何でみなさんそんなに離れちゃうんです?」

 

 虞離瀬凛筆頭に、メルから距離をとって自分の匂いを確認し始める男性冒険者たち。

 

 「そう言えばさ、今回のパーティーって女子いないよね?」

 「道家小僧、なにがいいたいんじゃ?」

 

 気まずそうな顔で視線を交わらせる凪燕と朧三日月。

 

 「メルちゃんの担当冒険者って、もしかして女子いない感じ?」

 「そんな事は………ないかも、ないと思———帰ったら確認してみます」

 

 死んだ魚のような目をするメル。 するとメルの背後に女王蜂アベイユレーヌが肉薄する。

 虞離瀬凛が距離をとってしまったため、女王蜂のターゲットにされてしまったのだ。

 顔を青ざめさせた朧三日月が剣を抜こうとするが、女王蜂は火矢で頭を貫かれて分裂する。

 接近した女王蜂はつまむ程度の大きさしかなかったにもかかわらず、ピンポイントで頭を撃ち抜かれた。 針に糸を通すような精密射撃。

 

 すかさず分裂した女王蜂に虞離瀬凛が突進し、大楯で分裂した女王蜂を薙ぎ払った。

 間一髪、危機を免れたメルはホッと息を吐くが………

 

 「何してるんだ虞離瀬凛! ちゃんとメルさんを守れ!」

 

 ガルシアが遠くから大声を出し、離れてしまっていた虞離瀬凛を叱責する。 先ほどの精密射撃はガルシアのものだった。

 凪燕は感心したように口笛を鳴らしている。

 

 「す、すまん。 私は汗臭いだろうか? 帰ったら緑黄色野菜を大量に摂取して………」

 「女々しい事言ってる場合じゃないだろこの筋肉バカが! お前もシュプリムも、ちゃんと真面目にやれ!」

 

 ガルシアの怒鳴り声が響き、反対側から「おれは真面目にやってたでごわす! まきこむなでごわす!」と抗議の声があがったが、もれなくこの抗議の声もシカトされてしまっていた。

 

 「見つけたでやんすよ!」

 

 そんなタイミングで鬼羅姫螺星の声が響き、全員が声がした方向に視線を集める。

 

 「朧三日月さん! シュプリムさんと鬼羅姫螺星さんの姿を霧の幻影で消せますか?」

 「無論じゃ! 全力であやつらをサポートしよう!」

 

 急いで全身の汗を拭った朧三日月が、慌てて鬼羅姫螺星に駆け寄っていく。

 それを見た凪燕はきんちょるそんと神怒狼夢に目配せをした。

 

 「次こそ仕留めるよ! 二人とも準備はいいかい!」

 

 宙返りをしながら鎌を振り回し、大量のモンスターを一気に薙ぎ払った神怒狼夢はウインクをした。

 

 「私は最高にベリベリハッピー! いつでもセッティングオッケーですよ!」

 「いいから早く来い。 泣燕なきつばめ!」

 

 二人の自信満々な返事に苦笑いを浮かべながら立ち上がる凪燕。

 

 「せっかちくん。 もしかして………わざとでしょ?」

 「なんのことだ?」

 

 真顔で返事をするきんちょるそんに、ニヤリとした笑みを向ける凪燕。

 

 「まあいいや、いくよ! きんちくしょう!」

 「おい、人の名前を間違えるな。 宝石ランクのくせに物忘れが激しいのか?」

 

 「お前が言うな!」と言う叫びがそこら中から上がり、鬼羅姫螺星は呆れたようにため息をつきながら吸血蟲本体に足を向けた。

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