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〜武闘大会決勝・覇者の生誕〜

 〜武闘大会決勝・覇者の生誕〜

 

「……あっけなかったねえ」

 

「あっけなかったですね」

 

 解説してもらうことも特になく、圧倒的な試合状況を見ていた私たち。

 

 あの後、ぬらぬらさんは鈴雷さんの攻撃を一太刀も受ける事なく、四本にした槍の内二本は外して場外まで飛ばしてしまったが、時間制限が来て鎧の破損率の差で勝利した。

 

 こうして、彼女は無傷無敗の記録を伸ばしてしまったのだ。

 

 対人戦ではもはや敵なしと言っても過言ではないのかもしれない。

 

 対する鈴雷さんはあっけなく負けてしまい、かなり悔しそうな顔をしていたが……

 

「ぬらぬらさん! 明日からは姉さんって呼んでもいいっすか?」

 

 などと言いながらぬらぬらさんにピッタリくっついて、自分のチームではなく私たちのチームの退場口に行ってしまった。

 

 ぬらぬらさんは困ったような顔をしていたが、どうやらかなりなつかれてしまったようだ。

 

 会場はぬらぬらさんの新たな伝説を目の当たりにして、涙を浮かべるものもいる始末。

 

 そんな観客達を見ながら、ぬらぬらさんの相棒であるぴりからさんは、呆れたように笑いながら私に声をかける。

 

「あの仔猫ちゃんは、来年からはまた鋼ランク参加に戻れるかな? むしろぬらぬらは金ランクからしか出場禁止なんて言われたらどうするつもりなんだい? お嬢さん」

 

 ぴりからさんは苦笑いしながらそんなことを言うが……

 

「ぺろぺろめろんさんたちは、金ランクに上がって欲しいと本部側から言われていたので仕方ないとは思いますが、ぬらぬらさんはちゃんと銀ランクですし、使っている魔法もれっきとした身体強化魔法です。 金ランクしか出てはダメな理由はないですからね。 ま、あなたたちが金ランクになるのは時間の問題かと思いますが?」

 

「ふふ? もしかして急かされているのかな? お嬢さんも罪な人だ。 待っていてくれ? ボクたちはすぐに金ランクに上がってみせるさ?」

 

 そんな頼もしいことを言ってくれるぴりからさん。 私は銀ランク代表戦があっけなく終わってしまったことに、少し物足りなさを感じるが……

 

 これでキャリーム先輩への勝利が決まった。

 

 つまりあのロリ美少女(二才年上)に、一つ言う事を聞かせることができる。 ふふふ、この時を待っていた。

 

 なにを願うかはすでに決めている。 私は溢れ出る歓喜に全身を震わせながら、力強くガッツポーズを天に掲げる。

 

「うっしゃあぁぁぁぁぁ!」

 

「せ、セリナさん……顔やばいよ」

 

 すいかくろみどさんが若干引いているがお構いなし。

 

 次の試合まで五分の休憩時間がある、私は緩んだ頬を無理矢理に直しながら、待ちきれずにカバンから洋服のカタログと、王都のグルメツアー雑誌を開く。

 

 するとよりどりどり〜みんさんが私の肩をつつく。 今忙しいのに……

 

「ぺろぺろめろんさん、休憩時間なの忘れてしまっているのでしょうか?」

 

 よりどりどり〜みんさんは闘技場の方を指差す。

 

 そこには闘技場のど真ん中で腕を組んで仁王立ちするぺろぺろめろんさんがいた。

 

「あ、セリナさん……あのぺろりんはやばい。 もう早く戦いたくてしょうがないって顔してる。 マジで気合い入りすぎてて、なにしでかすかわかんないよ……あれ?」

 

 勝利は決まっているわけなので、そんなにプレッシャーは感じてほしくないのだが……

 

「あのね、セリナさん。 ぺろりんここ最近ずっとうずうずしながら貂鳳さんのことばっかり話してたんだし……あと五分も待ちきれないんだと思うし」

 

 べりっちょべりーさんが言うには、どうやら戦うのをただ楽しみにしていただけのようだ。

 

 ならば勝敗も決まっているのでこの試合はのびのびと戦ってほしい。

 

 でも今回は相手が相手だから、戦いを楽しめるのだろうか?

 

 何せ相手は月光熊リュヌウルスを素手で圧倒していた、あの貂鳳さんなのだから………

 

 

 ☆

 選手の入場口、キャリーム側の代表入場口の入り口に、通せんぼうするように立つピンク髪の少女がいた。

 

 最後の試合に向けて入り口に来ていた貂鳳は、その姿を見て苦笑いする。

 

「ぺろりんちゃん久しぶりだね〜。 月光熊討伐戦以来かな? まさかあなたと戦える日が来るとは思わなかったよ?」

 

 そう言って、腕を組んで仁王立ちするぺろぺろめろんの前で足を止める貂鳳。

 

「ワクワクしちゃってさ、てんてんなかなか来ないから迎えに来ちゃった!」

 

 ぺろぺろめろんはぬらぬらたちが退場するのと入れ違いで全力ダッシュしながら入場してきていた。

 

 試合の間に五分休憩があるにも関わらず、五分前から闘技場で腕を組み、じっとキャリームの代表が使う入場口を睨んでいた。

 

 しかし三十秒くらいしたらキャリームの代表入場口の方に走って行ってしまったのだ。

 

 そんなぺろぺろめろんの奇行を見ていた観客たちも興奮を抑えられないのだろう、大歓声が休憩時間も止むことはなかった。

 

 もはや審判は死んだ目で喉をさすりながら二人が来るのを待っている。

 

「あたしだって楽しみにしてたよ? こんなの、初めてだよ。 上級モンスターと戦うよりも心が躍るなんて……あなたが月光熊と戦っているところを思い出すとね、鳥肌が——止まらないの」

 

 邪悪な笑みをうかべ、全身から抑えきれない程の闘気を発する貂鳳。 貂鳳の禍々しい闘気に当てられ、ぺろぺろめろんも歪な笑みを浮かべる。

 

 入場口で二人が睨み合う、一触即発のようなその状況。 二人が振りまく闘気に、素人である一般人までもが気づき、自然と歓声が止んでいく。

 

 一般人ですら禍々しい闘気を肌で感じ取り、全身から恐怖による汗を吹き出しながらキャリーム側の入場口に視線を集めていた。

 

「いこっか? てんてん」

 

「そうね、早くあなたと戦いたいわ」

 

 二人は並んで歩き出す、並んで歩いてくる二人を見て会場中の人々が息を呑む。 二人の足音以外、なにも聞こえないほどの静けさ。

 

 闘技場の真ん中で二人は睨み合う、そして同時に審判に視線を向ける。

 

 審判はさっきまでの死んだ目からは一点変わり、腰を抜かして尻餅をついてしまっていた。

 

 邪悪な笑みを浮かべる二人に視線を集められた事で震えながらも、早くその場を逃げ出したい一心で慌てて鐘を鳴らし、脱兎の如く退場した。

 

「審判逃げちゃったら、時間制限とかどうすんの?」

 

 セリナの隣では逃げ出す審判を目で追いながら、思わずつぶやくすいかくろみど。

 

 その呟きを合図にでもしたかのように、二人は武器を振った。

 

 貂鳳の武器は刀。

 

 日本刀のような形状で、刀を扱わせれば右に出るものはいないとまで言われている。

 

 相手の動きを利用し、その力を利用してそのまま返すカウンタースタイル。 相手は勝てそうで勝てない、攻撃が当たりそうで当たらない。

 

 否、当たっているにもかかわらず、気がつくとなぜか自分が大ダメージを負っている。 そう言った状況に陥らせる、流れるような剣裁き。

 

 対してぺろぺろめろんは圧倒的なパワーと身体能力で相手を圧倒する。

 

 メルの代表である朧三日月との戦いでは、両拳を勢いよく振り下ろすだけで霧を吹き飛ばすほどの突風を起こしていた。

 

 彼女の攻撃はまともに受ければその場に立っていられるわけがない、実際に金ランクである朧三日月ですら素手で殴り飛ばされ、壁にめり込ませるほどのパワーがあるのだ。

 

 そんなぺろぺろめろんの初撃、彼女は毎回相手の胴体を狙って巨斧を振る。 彼女はこれをさよならスラッシュと呼んでいる。

 

 この一撃でモンスターはほぼ胴体が両断され、上半身と下半身がさようならをしてしまうからだ。

 

 今回、貂鳳との試合でも初撃にさよならスラッシュを選択したのだが。 その一撃を貂鳳は普通に刀で受け止めた。

 

 涼しい顔をしながら刀を受け止めてしまった貂鳳を見た瞬間、会場中の観客が飛び出んばかりに目を見開いた。

 

 直後、斧を受け止めたまま刀を滑らせ一気に懐へ肉薄。 流れるような動作で回転しながら斧を弾き飛ばし、一瞬でぺろぺろめろんの胴体を捉える。

 

 次の瞬間、ぺろぺろめろんは銅鎧を粉砕させながら宙に舞う。

 

 ここまでの動作はおそらく目にも止まらぬスピードでやっていたのだろう。

 

 だが、優雅なその動作は、何が起こってるかわからないはずの一般客ですら、目を釘付けにしてしまうほど美しかった。

 

 貂鳳の立ち回りの優雅さは、みているものに時間が遅く流れているかのような錯覚すら起こさせる。

 

「ぺろりんちゃん、力任せじゃ私には勝てないよ? 小手調べはこれで十分でしょ? 本気できなよ? 私をここまで昂らせたんだから、あっさり負けるなんて許さないからね?」

 

 背筋が凍るようなトーンで、吹き飛ばされて倒れていたぺろぺろめろんに立つよう促す。

 

 それを聞いたぺろぺろめろんは、勢いをつけて飛び上がり、瞳孔を広げて狂ったように口を歪ませる。

 

「やっばい、やばいやばいやばい! たっのしぃ〜! 楽しすぎるよてんてん!」

 

 凶悪な戦闘狂が二人、瞳を爛々と輝かせて睨み合う。

 

 こうして金ランク代表戦は幕を開く。

 

 見守る観客たちは背筋を凍らせ、全身に鳥肌を立たせながら二人の挙動を見守っていた。

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