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結婚するとは言っていません【書籍化・コミカライズ化決定】  作者: 白雲八鈴


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第26話 イタい人になってしまう

「私にはその鎧は大きすぎるのですが?」


 どうみても私より、15cmは背が大きい人がまとう鎧です。それも線が細いので女性物。


「当たり前じゃい! ほれ、つけてみるがよい」


 店主が渡してきたのは、ガンレットの部分でした。そうですよね。

 私が着ると不格好になりますよね。


 つけていたガンレットを外して、渡されたものをつけてみます。手を握り込む。


 あら? 意外としっくりきます。

 女性用だからか、先ほどよりも余白がなくこれなら思いっきり拳が振れそうです。

 しませんけどね。


 ですが、これをつけてわかってしまいました。


「店主。これはオーダーメイドですよね? いただくわけにはいきません」


 これはただ一人のために作られた鎧です。魔力が多く鎧をまとう職業は、騎士だけではありません。


 傭兵や冒険者などの職業がありますからね。


「良い良い。渡す相手はおらん」

「え?」


 もしかしてオーダーメイドしたものの、このクソ親父のこだわりが強すぎて、高額な商品になってしまったと。


「そんなクソ高い物はいりません」

「何を勘違いしとるんじゃい!」


 そして店主は鎧を箱から出して、鎧を後ろ向きにしました。

 そこには、今はない中隊の紋章があります。


「……フェリラン中隊」


 ちょっと待ってください。

 私の中隊に女性騎士は確かにいましたが、これほどの強力な鎧を纏う者はいませんでした。

 私? いやいや、支払い困難な物は作りませんよ。


「若いのによく知っておるなぁ。戦勝記念に贈るために作ったんじゃが、無駄になってしまってなぁ……まぁ、あの時代は彼女の肩に、いろんなものを乗せてしまったなぁ」

「鍛冶師ドレク。いい値で買い取ります!」

「って、こういうフェリラン中隊長のファンが、欲しいっていいやがるだろう?」


 店主は、キラキラした目で銀灰色の鎧を見ている団長を指して言いました。


 レクス。この鎧は流石にレクスでは着れませんよ。


「まぁ、勝手に作ったもんだから、使ってくれるヤツがいるなら使ってくれ! 使っている金属なんだがな!」


 あ、説明が始まってしまいます。


「鍛冶師ドレク。マルトレディル用にしつらえ直して欲しい。紋章もこのままでいい」

「いやぁぁぁぁ! それイタい人になる!」


 店主の説明を止めるレクスが、イタいことを言ってきました。思わずレクスの腕を掴んで、首を横に振ります。


 何故に、今はない中隊の紋章を背負わないといけないのですか!


 それに従騎士が、オーダーメイドの鎧って馬鹿っぽい感じになってしまって、他の騎士から白い目で見られてしまいます!

 それは絶対に避けないといけません。


「何故ですか! これはマルトレディルのためにあるのです」

「鎧はいらないです。私が欲しいのはガンレット! このガンレットだけでいいです」

「何を言っているのです! これは絶対に……」

「黙れ」


 私は左手を握って、そのままレクスの右脇に向かって打ち込みます。


「っ……」


 よたつきながらも、持ちこたえるレクス。


 私は振り返り、店主に笑みを浮かべました。


「いい具合ですので、これをいただきます。あと、多少の調整をお願いしたいです」

「人に試し打ちするやつは初めて見たわい。それも騎士団団長閣下に……」


 何か引かれている感じがしますが、諦めないレクスが悪いのです。

 私はこのような目立つ鎧はいりませんからね。




 そして夕方に、もう一度取りにくると言ってお店をでました。表からです。

 まだ、必要な物がありますので、騎獣も預かってもらうことにしたのです。


 私たちが出た後、店に閉店の札が掲げられたのを背にして、下街通りを歩いていきました。


「いい物に出会えて良かったですね?」


 満面の笑みを浮かべるレクスを連れてです。私に一発殴られたにも関わらず、嬉しそうにしているのです。


 結局、あの鎧一式をレクスが購入しました。私は三か月しか騎士団にいませんから、着ることはないでしょうね。


「確かに、最悪使い捨てでいいと思っていましたから」


 魔装使いは、扱う武器の入手も困難ですが、防具も中々合う物に出会いません。

 結局、最終的にオーダーメイドになってしまうのです。


 昔の私の武具ですか? 備品管理部とやり合って経費で落としましたよ。

 オーダーメイドを買えるお金なんて、中隊長ごときでは賄えません。


「氷と剣の紋章は、ずっと心の中に持ち続けています」


 なんですか? 突然?


「それが今日、再び目にして凄く胸が熱くなりました。あの背中に追いつきたいと、並び立ちたいと思っていた自分がいたと……」


 レクスは立ち止まり、私を見下ろしてきました。


「次は置いて行かないでください」


 先程まで笑顔だったのに、今のレクスは痛いような苦しいような、泣きそうな表情を浮かべています。

 はぁ、馬鹿ですね。


「団長。私は従騎士なので、後ろからついていく立場ですよ。それから、ここで立ち止まっては邪魔ですよ」


 そんなレクスの腕を引っ張って、人が行き交う街の中を進んでいくのでした。



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― 新着の感想 ―
戦勝記念用でしたか。店主も太っ腹ですね。(フェリラン隊長のファンがここにも?) 二人のイチャイチャ(?)が結構好きです。 試し打ちされても笑っていられる団長、カッコいいです。(普通は吹っ飛びますよね)
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