第25話 好きですよ
「それは一般的な四属性対応の物。だから途中から力が横に抜けてしまった。特殊属性なら、それにあったものにせねばならん!」
これは職人魂に火をつけてしまったのでしょうか?
店主は身をかがめて、私の腕を取り、ガンレットを分析し始めました。
「ここを見てみい! 魔力で変色しておる。むっ! 一部が歪んでしまっておる。総量も多いとなると……」
あ、これ長いパターンですわ。
もう、これを買い取るので検証しなくてもいいですわ。
魔装を使うものは、専用の武器や防具が必要なのです。そうでないと、簡単に自分の魔力で壊れてしまいます。
そして、魔力量が多くても壊れてしまいます。
鍛冶師泣かせの由来は、こちらの方が大きいのでしょうね。
どちらにしろ私が普通に扱える武具は簡単には手に入りません。
「これのサイズ調整だけでいいです」
別にガンレットとして使えればいいのです。今回のような盗賊討伐に私が本気をだして対処することはないでしょうから。
それに私は従騎士ですからね。
私よりも本職の騎士の方々が頑張ってくれることでしょう。
「何を言っているんじゃい! そんな中途半端な仕事ができるか! いいか防具っていいうのはなぁ」
あ、火に油を注いてしまいました。
職人堅気なのはいいのですが、こだわりすぎるのです。
「はいはい。わかりました。明日必要なので、すぐに手に入るこれをください」
「わかっておらん! 若いクセに、そんな安っぽいタバコなど吸うから、馬鹿なことを言う。もっといいタバコにせんか!」
「あ? 人が気に入っているタバコにケチをつけるな。だいたい話が長いんだよ」
「大事なことを言っておるのに、長いとはなんだ! 長いとは!」
「親方〜……取り敢えずお得意様ですから、仮でお渡しすればいいのではないのですか?」
話がズレてきたので、騎獣番の人が妥協案を出してくれました。
私はこれでいいと言っているのですけどね。
「ならん! 中途半端な物を売って、死なれちゃ目覚めが悪いだろうが! わしの武具に命を預けてくれているなら、万全を尽くすのが職人だ!」
昔から変わらないですよね。
いい武器を手にしても使い手が駄目なら、それはただの鉄くずと同じだと思いますよ。
「で、お前さんの得意な属性はなんだ?」
「……風」
「これは基本の四属性対応だと言ったはずだ。風だけならこうはならん!」
「はぁ、氷も」
私が属性を言った瞬間、驚いたような表情をしたものの、そのあとニヤリと笑い『少し待っとれ』と言って店主は消えていきました。
「ここは、私が綺麗にしておきますので、店内にどうぞ」
そして騎獣番の人は再び店に入るように促してきます。
やはり、彼は部下に欲しい人でしたわね。
「マルトレディル。素晴らしい一撃でした」
店の方に向かっていると団長が褒めてくださいました。しかし、土壁を五つといいながら、無様に一つ残ってしまうという失態。
いい武具でも合っていなければ、十全の力は出せませんわね。
「ありがとうございます。団長」
一応褒められたので、礼は言っておきましょう。
そして店内に戻る前にちらりと後方を見ます。
今まであった土壁や残骸がなくなり、綺麗な真っ平らな地面になっていました。
後ろ髪を引かれながら、室内に入ります。
「くっ! やはり彼の能力は個人的に雇っても欲しかった」
「フェリラン中隊の訓練場は整備が大変でしたからね」
そう! 訓練場の整備。彼がいれば一瞬で整えられた地面になるのです。あのくっそ重い石のローラーを使って、地面をならさなくてもいいのです。
「私は戦っている隊長の後ろ姿が好きです。いつか並び立てる日がくるのが待ち遠しかった。もうすぐ夢が一つ叶えられそうですね」
にこやかに笑みを浮かべるレクスが、夢が叶えられそうだと言ってきましたが。
「団長。私は従騎士ですから通常は戦闘員ではありません」
あと、今の私と前世の私の体格は全然違いますからね。
父の血が強すぎるのです。
私が、今の自分の体格にうなだれていると、突然右手を掴まれました。
視線をあげると、私に視線を合わすように身をかがめたレクスがいます。
なんですか?
「はい。隊長は私の従騎士です。ですから、今度は私が隊長を守ります」
私を守るですか。言うようになりましたね。
その言葉に私は、タバコを吸って白い煙をレクスに吹きかけました。
「私は隊長ではありませんよ」
レクスの隊長呼びは直らないのでしょうか?
他の人が聞くと支離滅裂なことを言っているおかしな団長になってしまいますよ。
「おう! 待たせたな! って仲いいな」
何やら大きな木箱を肩に担いて現れた店主に、変な顔をされてしまいました。
はっ! 団長に手を……ガンレット越しに握られている従騎士の構図になっています。
「鍛冶師ドレクの武具でもこうも歪ませるとは、流石私の従騎士だと褒めていたところです」
褒められたのは本当のことなので、いろいろ言葉が付随しているのはスルーしておきます。
そしてレクスの手を振り払おうとしても、がっしり握られているので取れません。
「あー。取り敢えずこれをつけてみるがいい」
そう言って、木箱を縦に置いた店主は、蓋の部分を開けました。
そこには青みがかった銀灰色の鎧が存在しています。
え? 鎧一式はいりませんわよ。




