第24話 鍛冶師泣かせ
「あ? もしかして嬢ちゃ……」
私は思わずレクスの脇を抜けて、店主の前に立ちます。
「店頭に置いてあるガンレットを見せてください」
「いや、嬢ちゃ……」
「ガンレットを見せてください」
「あれは男物だから嬢ちゃ……」
「人を見た目で、判断しないでいただきたいものですね。店主」
わかっていますわよ。ラドベルトが言っていたように、見るものが見れば、私が女性だとバレてしまうことに。
彼は職人なので、客に合った武具を作ることにプライドを持っているのです。
だから、体つきを見ればバレてしまうので一人で来たかったのです。
なのに、レクスがついてくると言い張ったのです。
「鍛冶師ドレク。アルバートは小柄だが、素質は十分にある」
「……」
なんですか? そのおかしい者を見る目は?
そして店主は私から視線を外して、背後に立っているレクスに視線を移しました。
「わけありか?」
「急遽明日から街道の掃除をすることになったので、まだ入ったばかりの従騎士の防具を用意できなくて、うかがわせてもらったのですよ」
「いや、そういうことでなくてな……まぁ、客っていうなら、こっちは良いものを売るだけじゃい!」
そして、店主は私に鈍色のガンレットを差し出してくれました。
これが油をささなくてもいいというガンレット。
気になっていたのは、手の甲の部分にある蛇腹です。
右手に装着しますと、やはり私の手には大きくブカブカです。
そんなことを気にすることなく、右手を握り込みました。
握り込むと同時に手の甲の蛇腹が指の方まで伸びてきます。
やはり思っていたとおりの動きですわ。
これで油をさす必要がないなど、画期的です。
同じように左手も装着し、両手の拳を突き合わせます。
ガンという音が響くものの、腕への衝撃があまりありません。
いいですわ。
「試し打ちがしたいです」
「しかし、嬢ちゃ……」
「試し打ちできますよね!」
先程からいらないことを言おうとしている店主に圧をかけます。
それから、このガンレットの性能を見るのに、試し打ちすることはできるはずです。
「はぁ、好きにせい」
店主はため息を吐きながら、私たちが入ってきた扉から外に出ていきました。
「ラド!」
「なんですか。親方」
店主が店の裏側にいる騎獣番を呼び出しました。
「客が試し打ちしたいんだと。で、木でも用意してやってくれ」
「いいえ、土壁を五層でお願いします」
「おい」
店の裏側の空き地が異様に広いのは武器の試し切りができるようになっているからです。
そして、店主が騎獣番を呼び出した理由。
彼がただの雑用係ではなく、土属性の特化型だからです。
その昔、騎士団に入らないかと誘ってみたのですが、自分には騎獣番が似合っていると断られてしまったのですよね。
「はぁ、用意してやってくれ」
店主。ため息が多いですわよ。
「了解です。『土壁』五つと」
騎獣番は地面にしゃがみこんだかと思えば、適当な感じで呪を唱えました。すると私の前方に背の二倍は高さがある土の壁が立ちはだかります。
その後方には間隔を開けて四つ立っています。
いいですわね。
私は右肩をぐるぐる回しながら、土の壁に近づいて行きます。
そして一歩手前で立ち止まり、右手を握り込みました。
一つ息を吐き出し、魔力を整え右手に集中。
左足を一歩踏み出し、勢いをつけて右手を前方に向けて振るいます。
そして土壁に当たる手前で寸止めしました。
響き渡る爆音。舞い上がる土煙。だけど私の目の前には、高い土壁がそびえ立っているので、土を被ることはありません。
タバコを取り出して火をつけて、一息吸います。
四つの壁は倒れましたか?
土壁を回り込んで見た先は、土煙に覆われているものの、最後の一つがそびえ立っていました。
「あー。やはり力が拡散してしまったか」
ブカブカのガンレットでは、力が逃げてしまったようです。普通なら四枚は確実に倒せましたのに。
「うわぁ〜親方! 久しぶりの魔装術ですよ! 鍛冶師泣かせですよ」
騎獣番が言っている魔装術は簡単に言えば、魔装をまとったまま使う武術のことですね。
なぜ鍛冶師泣かせなのか、これを使われると鎧が意味をなくしてしまうからです。
そう、私が攻撃を寸止めした土壁は無事で、その後方が破壊されたということは、鎧の中身に衝撃を与えたことになるのですから。
「お前さんの得意な属性はなんだ?」
え? 言わないといけないのですか?




