第23話 団長が従騎士の買い物についてくるのですか?
私は一人で買い物に行くと言ったものの、何故かレクスがついて来ています。
支度金だけくれれば、よかったのですけど?
それにお仕事を副団長に押し付けると言っていましたが、それはレクスのお仕事ですよね?
と言いつつ、私も従騎士の仕事を放置しているのですが、これは仕方がないことです。
「それでどちらに行くのですか?」
相変わらず、部下への敬語が直らない団長と共に下、街まで来ました。
目的地はもちろん、以前入ろうとして背後霊がいたために諦めたお店です。
「団長自ら、従騎士の装備を買うのに付き合わなくてもいいと思います」
ここに来るまで何度も言いました。
絶対におかしいと思います。
「何度も言っていますが、これは私の未熟を指摘され、それを払拭するためです」
このやり取りも何度目でしょうか。
だから支度金だけくれればいいのです。それか、後日申請でもいいと思います。
通らない可能性の方が高いですが。
しかし、ここまで来てしまったのであれば、どうしようもありません。
確かこの店の裏に騎獣を預かってくれる場所がありましたわよね?
騎獣の武具も売っていましたから。
「そう言えば、昔は騎獣用の防具も一から作ってもらったが……」
いい騎獣は、金貨を山積みにしても買えないと言われており、その騎獣のための武具もかなりの金額をしていました。
あの戦乱の中で、私の騎獣も倒れてしまいましたが、いい武具だったからこそ、最後まで私を支えてくれたのだと思います。
「あの職人が健在だと嬉しいな」
かなりわがままを言った記憶がありますが、文句を言いながらも希望通りに仕上げてくださいました。
「今も作っていらっしゃいますよ」
……何故に、レクスがそのようなことを知っているのかな?
それから私の独り言に答えなくてもいいですよ。
ちょっと、下街に来すぎなのではないのですか?
前世の私は両親が亡くなっており、今のようにお小遣いをもらうことはありませんでした。
だから、給金だけでやりくりしなければならなかったのです。そのため、なるべく良いものを安く手に入れる必要があったから、下街まで来ていたのですよ。
ファングラン公爵家の者が来る必要など全くないですよね?
「これは! これは! ファングラン騎士団団長様!」
そして、何かと店で顔が知られているレクス。
騎獣を預けようと、騎獣番に声をかける前に、向こうから人がやってくるのです。
「いつもご贔屓にしていただき、ありがとうございます」
どれだけこの店に来ているのですか!
騎獣番に手綱を預けているレクスが私のほうを見ました。
なんですか?
「私の従騎士がここの武具が気に入ったと言っているのだが、見せてもらえるか?」
「どうぞ。どうぞ」
騎獣を繋いだ騎獣番が、裏口を開けてくれています。
普通は表から回るように言われるはずが、裏口を進められるとは、どれだけお金をおとしたのでしょうか?
私は無言のままレクスの後についていきます。
前世の私でも裏口から入れてもらえたのは、やっと中隊長になったぐらいです。
なんだか解せないと思いつつ、広い敷地を抜けて、店の裏側にやってきました。
「そんなんじゃ、売れねーって言っているだろうが!」
あ、懐かしい怒声が聞こえてきました。
本当に商売をする気があるのかという声がする方を見ようとしたのですが、レクスが邪魔で見えません。
デカくて邪魔ですわ。
「しかし、我が主が所望しておられるのです」
「だから、その主という者を連れてこんかい! 話はそれからだ!」
そう言えば、店の横の路地に入ったところに馬車が止められていましたが、どうやら貴族のお使いの者が購入を求めているようですわね。
しかし頑固で有名な店主は、身分など関係なしに断ってきます。
絶対にそのうち、頭と胴が別れているだろうと思っていましたが、どうやらその首はまだ繋がっています。
「我が主がファングラン公爵家の者と知っても、同じことをおっしゃるつもりですか?」
ん?ファングラン公爵家?
確認のためにレクスを見上げるも、背中しか見えないので、その表情はわかりません。
しかし何故にファングラン公爵家の使いの者が、この下街の武器屋に用があるのです。
公爵家となれば、贔屓にしている商会があるでしょうに。
「だったら、それをそこの団長閣下に言ってみるがよい!」
あら? 店主はレクスの存在に気づいていたようです。
「あ……失礼いたしました」
という声と共に扉が開いて閉じる音が聞こえてきました。
逃げましたわね。
「それで団長閣下は今日は何の用だ?」
「用があるのは私ではなく、私の従騎士です」
レクスがそう言って、やっと横に移動してくれました。
すると私の目の前には白髪のどこの武人かという筋肉ムキムキの男性がいました。あれから二十年も経っているので、七十近いのではないのでしょうか?
「なんじゃい。このちっこいのは?」
「誰が小さいだって!」




