第22話 隊長呼びした罰です
「わかりました。行程をお伺いしましょう」
私は大きくため息を吐いて、一旦落ち着いてから団長に詳しい話を伺います。
思わずタバコを出そうと手が動いてしまいましたが、我慢しました。今はアルバートとして、ここにいるのですから。
「そうですね。その前に、これからお時間はありますか?」
……この質問の意図がわかりませんわ。
そもそも私は騎士団団長の従騎士なので、私の業務は団長次第です。
団長が今日はもう上がっていいと言ってくだされば、さっさと退出して、その野盗討伐の準備をしますわ。
「無いです。そもそも今日見なければならない書類がまだ沢山残っています」
今まで本当に一人でやってきたのだろうかと思う量の書類が毎日やってくるのです。
団長が会議に行っていない間、コツコツと処理をしてきましたが、まだたくさん残っているのです。
今から昼休憩を取って、定時まで残り4時間しかないのです。残業は絶対にしませんので、4時間で終わらせます。
「あ……その……先程隊長が……」
「団長。その隊長というのを禁句にしていいですか? 私はただの従騎士です。これから他の人と行動を共にするのですよね?」
「ああ……マルトレディルの武具がないということで、量産品でよければ一緒に買いにいきませんか?」
え? 買うなら自分で買いに行きますよ。
試着とかしなければならないですから。
あと敬語は直らないのですね。
「上官としての未熟さを指摘され、汗顔の至りです。私にやり直しの機会をいただけませんか?」
これは私が先程どうにかして、行かないで良くなる方法を述べたことですか?
しかし実際に、今回の討伐に参加しなければならないとなると話が変わってきます。
あんな一人で着脱が困難な鎧を着て行くのはとてもとても困ります。
別に鎧のまま地べたで寝るのは構いません。前世にもよくあったことです。
ですが……その……あれですわ。どこぞの王弟殿下の二の舞いとか嫌ですもの。
なので、身軽な方がいいですわ。
「団長。よくよく考えれば一人だけ私物の鎧とか如何なものなのでしょう。それなら隊服の方が騎士団としての威厳が保てます」
「そうなのですが、防具は必要だと思います。た……マルトレディルに何かあれば……」
はぁ、私が言い出した手前、どこかで折り合いをつけなければなりませんか。
「取り敢えず私共々無能な部下を始末します」
ん? 今、おかしな言葉が聞こえませんでしたか?
聞き間違いかと視線を斜め上に向ければ、淀んだ目をしたレクスが立っていました。
「何かおかしなことをおっしゃいましたか?」
「私の至らないところもあり、私の部隊の者たちはフェリラン中隊の足元にも及ばない無能共なのです」
うーん? 平和な時代に、行き過ぎた力は必要ないと言えますから、その状況は必然的でしょう。
それにあのディレニール元中隊が、私のやり方に何度もやり過ぎだと文句を言ってきていたので、過剰な力だと見る者はいました。
「戻ってこない隊長を待つのは辛すぎます」
「隊長とまた言っていますよ」
はぁ、レクスの中ではあの時のことを未だに引きずっているのでしょうか。
私を慕ってくれるのはいいのですが、少々行き過ぎなところもあったと思うのですよ。
休みの日まで私の従騎士をする必要など絶対にありませんでした。
あと、待つ必要もないですわ。
「なので、隊長に何かあれば、全員ぶち殺す」
私は折れたペン先をレクスの額に向けて投げつけました。
「つっ!」
「隊長呼びした罰です。あと、これぐらい避けれなくてどうするのです」
「喜んで罰を受けます」
額に黒いインクをつけて、笑顔でいうことではないですわ。
「はぁ。気になっているガンレットがあるので、それだけでいいです。鎧は何れ支給されますから二つもいりませんからね」
「はい!」
どちらが上官かわからないようになっているところを、他人に見られるのはかなり危険ですわ。
団長がおかしいという噂に、歯止めがきかなくなってしまいそうですから。
「それで明日からの行程ですが」
「え? 明日出発なのですか?」
騎士団に来て一週間ほどしか経っていませんので、色々必要なものなど準備しておりません。
終業時間まで待つと開いていない店とかでてきそうですわ。
それで、この後の時間が空いているのかという話になるのですね。
これ、絶対にもっと前から決まっていたことですわよね。
昨日暴れた罰という理由を言われましたが、こういう日数がかかる仕事は、一ヶ月前ぐらいには決められているはずです。
「この話は事前にあった話ですわよね」
「はい。サイドバデル中隊長が請け負うはずでしたが、全身打撲の治療を進めているものの、精神的に不安定だということで、別の部隊にという話になり、今日私が率いる部隊にと決まりました」
あ、私はてっきり昨日暴れたことへの罰としてだと思っていました。しかしこれは入団早々に中隊長や小隊長をボコった罰としてが反映されているようです。
サイドバデルという名は私に無粋なことを言った、巨漢の騎士の名ですわ。
「それで行程は……」
しかし彼らが、今の中隊長や小隊長であれば、レクスの嘆きもわからないでもないです。
レクスから訓練は参加しなくていいと言われていますが、一度訓練に参加したほうがいいのでしょうか?




