第12話 隊長に嫌われたらどうすればいいのか…
翌朝。少し早い時間に騎士団本部に到着しました。
休んだ日の次の日はやることがたくさん積まれているのです。
特に隊長職ですと、書類の不備の差し戻しだとか、部下からの要望や、備品の補充申請などなど。
それから他の部隊の隊長からのクレームなど。ちっ、思い出すと今でも腹立たしいです。
それが団長となると、翌日どうなっているのか恐ろしいところです。
他の隊員の姿が見えない建物内を歩き、団長室の前に立ちます。そして、誰もいないと思いそのまま扉を開けました。
……そっと、何も見なかったこととして扉を閉めます。
何故にこの時間に団長がいるのですか!
団長はいつも家から通っているので、私より遅いではないですか。
ええ、普段は敷地内に宿舎がある私は朝食後、軽く運動をしてから、本部の建物に向かっています。
団長室に入って部屋の空気を入れ替えて、掃除をしてシレッと置かれている書類の仕訳という従騎士としての仕事をしていました。それが終えるぐらいに団長が出勤してくるという一週間を過ごしていたのです。
団長の出勤が遅いのかといえばそうでもなく、普通の騎士より早いので、その分私も早く来る必要があるのです。だから、私の日課の訓練をする時間もままならないのですが。
私がこれはどういう状況なのかと考えていると、中から扉が開きました。
私がここにいることは気づかれているでしょうね。
そして、中からキノコが生えそうなほど、どんよりとした物体が顔を覗かせました。
目の下のクマが酷いですわ。
もしかしてあれから、ここに詰めていたとかいわないですよね。
「隊長。おはようございます」
……私は隊長ではないですよ。騎士団本部の中で私をそのように呼ばないでくださいね。
「おはようございます。団長。今日はお早いですね」
私は挨拶をして、団長の脇を抜けるように室内に入ります。
中に入ると、見終わったのであろう書類が積み重なっていました。
「隊長を試すなどということは決してなく、敬愛する隊長に成長した自分の姿を見てもらいたく……」
私の背に向かって、なにやら団長が言い訳をしていますが、それなら最初の手合わせで十分だったでしょう。
「団長。何の話をしているのか私はよくわからないです。出来上がった書類を各部門に持っていきますね」
昨日の従騎士マルトレディルは、家でゆっくり休日を過ごしていた。団長には会っていません。
そのように、していただきたいものですね。
私は積み上がった書類を持ち上げて、振り返ります。すると、床にうずくまる団長の姿が……。
何をしているのですか?
「隊長にここまで嫌われるなんて……だから、そこまでする必要があるのかと言ったではないか」
ああ、主の奇行を心配して、死人など蘇らないという侍従の言い分ですね。
まぁ、それはわかりますよ。死人の名を連呼する主は幻覚を見だしたのかと疑いを持ちますよね。
「あの、団長。邪魔なのでどいて欲しいです」
「邪魔……邪魔……」
それから扉が開けっ放しなので、誰かが来るとこの状況が丸見えです。なので、扉を閉めてほしいものです。
「隊長。私を見捨てないで欲しいです」
「だから、書類を持って通るのに邪魔だと言っているのです」
「隊長に嫌われたらどうしたらいいのか……」
「ファングラン団長。この書類のことで確認を……」
「だ・か・ら! 書類を持って出るからそこをどいて欲しいと言っているのです! あ……」
開けっ放しの扉から誰かが入って来ようとして、入口で固まってしまっています。
こ……これはなんと言い訳をすればいいのでしょう。
第三者の目から見ると、床にうなだれている団長に向かって従騎士が偉そうに言っている場面になっているではないですか。
いいえ、状況的にそうなのですけど、普通ではありえないです。
入ってこようとしている者は私と団長を交互に見て、床に座り込んでいる団長の横に膝をついて書類を見せ始めました。
この状況に動じないのはありがたいのですが、せめて私を通していただけないでしょうか。
「これ、今更申請を出されても困るのだよ」
ん? もしかして備品管理部の者ですか? しかし、この者は……
「そもそも従騎士の正装は存在しないから、一から作る必要がある。二ヶ月では無理だ」
「は?」
もしかして、私の式典用の隊服を申請したのですか?
従騎士は騎士の位置づけではないので、そのような式典の出席は不可能なのです。
「団長。従騎士は騎士ではありません」
「ファングラン団長。従騎士のほうがよくわかっているではないか」
もしかして、宿舎の管理人のディロべメラ夫人はこのことを聞いていたので、何かあれば話を聞くと言ってくれたのでしょうか。
流石に従騎士に正装の隊服を与えるのはないです。
「将校ディレニール。た……マルトレディルには参加をして欲しいからだ」
隊長といいそうになった団長に向けて殺気を放ちました。ここで怪しい言葉を言わないでいただきたいものです。




