表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に根付くニホン文明  作者: 黄昏人
7/7

フソウ国でのジルコニア帝国視察団

読んで頂いてありがとうございます。

仕事が立て込んで投稿が遅れました。申し訳ございません。

 視察団は、到着した日にはホテルに案内されて各部屋で寛ぐように言われているが、これは視察団の疲労を考えてのことであろう。しかし、視察団のメンバーにしてみれば、元々乗っていた居住性の悪い軍艦に比べて、フソウ国の自衛艦での3日の極めて快適な船旅は、却って元気を回復するに十分であった。


 だから、彼らは自分たちの皇都に比べて、街の様子が全く異なる異国の都市のことを知りたかった。まず彼らは巨船がひしめく港に驚嘆したが、乗るように促されたホテルまでの足であるバスにも驚いた。しかもそれは自動運転なので運転手がいないのだ。


 さらには数㎞のバスの行程で道に溢れる車、車、車の列、沿道にガラスを贅沢に使っている商店などのたたずまいは、違う世界であることを実感させる。更には、せわしく道行く人々の身ぎれいでありながら、全く自分たちと異なるファッションの人々が、何やら手に持っているもの(スマホ)を見やっている様子も目を引いた。

 その上に、たまに上空遠く、轟音を立てて飛ぶ巨大な何かには驚嘆した。このように、視察団の人々にとってはあらかじめ学んではきたが、実際に見る物すべてが目新しく目を引いた。


 だから彼らはまだ日が高いこともあり、全員が街に繰り出すことを希望した。フソウ側もその申し出を受け入れて、3つのグループに分けてそれぞれに案内人をつけることになった。

 ミラーズ皇女は無論特別扱いで、モスルライ公爵と護衛の2人にフソウ側の護衛2名と外務省からの案内人のパーラ・ドナンが付けられた。


 皇女の護衛は、女性騎士であるマリヌ・クエンスと、プースラ・レクサであり共に20歳代の若手である。フソウ側の護衛も警察庁警備局の女性警備官であるマリコ・キースラ、エリーナ・ラクムンであった。2組の護衛の専門官は違う文化の同じ職業の相手に大いに興味を持ち、護衛をしながらも互いに情報を交換しあった。


 帝国側の護衛の主武器は刃渡り80㎝ほどの片刃の剣で、さらに小さな手裏剣をそれぞれ5本持っている。彼らは剣については、帝国で5段階に分かれている技能の上から2番目にランクされる腕であり、手裏剣も同様で10m程度の距離であれば顔の大きさの的に正確に当てられる。


 フソウ側の護衛の武器は8発を装填できる自動拳銃であり、その他に特殊警棒を持っている。彼らの腕は20mの距離であれば、同様に顔程度は正確に当てられるので、無論フソウ・帝国の両者が戦えばフソウ側が勝つが、相手を重い傷を負わせずに無力化するのは帝国の側が有利であろう。


 ミラーズ皇女は、初めての異国、それも自国をはるかにしのぐ文明の都市を出歩けることにはしゃいでいた。ホテルで一息入れて、宿泊先の新東京ホテルの玄関を出て、迎えのマイクロバスに乗り込むのも、辺りを見回しながら弾むような足取りである。


 すでに午後も3時を過ぎているので、短時間で行ける所ということで、3㎞ほど離れた新東京タワーに登る。人口50万のコンパクトな都市である新東京は、人口の割に広い市域を持っており、街並みは広々している。道路は原則片側2車線以上で、植樹のある広い中央分離帯を持ち、両側の歩道も植樹帯を含んで5m以上ある。


 交通のコントロールは信号によっているが、全ての信号は交通制御AIによって制御されて、時間帯と交通量によって最適に調整されている。さらに、合わせて要所毎に設けられている表示ボードで状態が表示されている。このため、この都市の中で交通渋滞はほとんど発生しない。


 このこともあって、莫大な建設費が必要な地下鉄や高架鉄道の建設は否定され、代わりに無人のバスが運行されているので、自分の車を持たない人でも都市内での移動に不自由はない。ちなみに、フソウを構成する3つの大きな島の周回及び縦断には鉄道が貼り巡らされ、100㎞を超えるような都市間の移動には鉄道が使われている。


 ミラーズ皇女一行の乗ったバスも無人であり、目的地までスムーズに走って行った。案内のパーラは適宜こうした交通システムを説明し、途中の主だった施設を説明していく。彼女は帝国語を学習しているので、翻訳機の必要はないが、一方でフソウ側護衛官の2人は翻訳機を持っているので、会話に不自由はない。


 新東京タワーは、本家のものと同様に通信タワーあるが、高さと形は本家のものに合わせている。だから、展望台の高さは250mであり、コンパクトな新東京市の全景を見渡せる。実は皇都ジルコースにも展望を狙ったタワーはあるが、展望台の高さは80m余であり未だエレベータのない帝国では登る者は少数である。


 その点、新東京タワーでは250mを2分で登る高速エレベーターが設置されているため、あっという間に展望台に登ることができる。こうした文明の利器には、皇女一行も含めて、視察団の人々は自衛艦に乗船以来、理解できな機材の数々を経験して、すでにほとんど驚かなくなっている。


 エレベーターのドアが開いて案内の係員から促され、展望台のガラスに囲まれた開けた空間に出た皇女は小走りに窓に走り寄る。エレベバーター内では一行のみであったが、展望台にはそれなりに先客がいるので、護衛の4人は歩調を合わせて着いていく。


 老齢の公爵と共に、普通の歩調で皇女を追ったパーラは下を見下ろして説明を始める。

「そこは今日お着きになった港です。ほら、あれは乗って来られた自衛艦のカシオペアですね」


「うむ、中にいる時は随分大きく感じたが、港にはもっと大きい船がいくらもいるな」


「ええ、カシオペアが総重量で1万トン、現状で作られた最も大きい船は5万トンを超える程度です。かのチキュウには50万トンの船があったと言いますから、まだまだ小さいものです。でも、今のフソウにはそれほど大きい船は必要ないのです」


「ふむなぜじゃ?船は大きい方が有利だと思うが?」今度は公爵が口を挟む。


「つまり、大きな船はそれだけ建造費もかさみます。しかし、一度に多量の荷物を運べますし、大きさの割に乗組員や燃料も少なくて済みます。だから、運んだ荷物に対しての経費は安く済みますが、これらは休みなく動いていないと建造費が回収できません。積む容量が大きいということは、それを一杯にするほどの荷が常時ないと困るのです。

 だから、その国あるいは都市の需要に適した船の大きさというものがあるのです。その意味では我がフソウ国の人口はわずか600万であり、3つの島は固まっていますので、それほど大きな船は必要ありません。でも、遠い帝国との貿易が盛んになるともっと大きな船が作られるでしょうね」


 パーラの答えに皇女が声を上げる。

「なるほど、船の大きさもその国に適した大きさというものがあるのですね。でも、帝国では作られる船の大きさは3千トンが限度と聞きました。先日我が帝国の軍船が嵐に耐えられないことがあったように、大洋を渡る場合にはもっと大きく頑丈な船が欲しいものです。どうすれば、そのようなことができるのでしょうか?」


「はい、皇女殿下。お国の船は木造船です。木造の場合に材料として使われる木材の限界から、言われるように作れる船の大きさが限られています。私は専門ではありませんが、全長で200mのものは作れないでしょう。その意味では鉄で作れば、そうした限界がなくなりはしませんが限界は大きく広がります。

 さっきも言ったように、かのチキュウでは鋼鉄船によるものですが長さ500mで50万トン以上のものが作られた実績があるようです。ですから、鉄で船を作れば良いのです。その技術は貴帝国にお伝えするようになっていますから、帝国でもまもなく数万トンの船を作るようになりますよ」


「あの、ドラン殿。あなたの国のフソウは、なぜがわ帝国に、その鋼鉄船のような技術を渡そうとするのですか?それに、いろいろな進んだものを作る技術も、それを使う知恵も渡してくれるようですね。確かに今は、貴国は軍事においてもうんと進んでいて、わが国は全く敵わないでしょう。

 でも、私はわが帝国人は勤勉な民です。だから、あなた方の知恵を借りてどんどん進歩していって、あなた方が作れる大抵のものは作れるようになって、それを使えるようになるでしょう。そして、貴国と我が帝国では人口において20倍近く、広さにおいては20倍を超える面積を持ちます。

 将来、力を付けた帝国がフソウ国を犯すとは考えないのですか?」


 それを聞いたパーラの顔に笑いが広がったが、皇女の目を見て真面目に答える。

「むろん、そのような検討はなされました。しかし、この世界に数多くの国々が存在するにも関わらず、我々がこのまま孤立していくことはできないという結論を私達は出していたのです。我々のみしかこの世界に居ないということであれば別ですが………。それはゆっくりした民族としての老衰、衰退であるということです。

 そこで、この世界のジルコニア帝国のみでなく、あなた方の知らない国も含めて、様々な調査を行いました。その結果としてジルコニア帝国をより深く調べて、最終的に我々のレベルまで急速に引き上げる存在として選んだのです。


 要はパートナーとして信用した訳であり、その選択の結果の責任は我々にあります。とは言え、今後帝国とあなた方は、いやがおうにも急速に変わっていきます。間違いなく、飢える者はないどころか、美食も普通に味わえ、普通の人々もこぎれいな服をきてきちんとした家に住めるようになります。

 半面、物事のテンポが速くなって、のんびりしたことは中々できず、精神的にはより厳しい試練に耐えていく必要があります。つまり各々が、より高度な仕事をこなしていく必要があるこということです。そういう中では、戦争などをすることが無駄というように考えるようになります。


 ただ、帝国周辺諸国からすればずっと豊かになるわけですから、周りから狙われるようになるために、自衛のための軍は養っていく必要があります。そこで、当分は我がフソウ国も帝国に軍事的な情報は我々と同等になるほどのものは提供しませんが、周辺から守れる程度は早いうちから供与していきます。

 そして、その中で帝国の産業や制度がどんどん高まっていくと、わが国との関係はより深まってきます。なにしろ同じ次元で付き合えるのはお互いしかないので、そのようにならざるを得ません。その中で、経済的な争いは間違いなくあると思いますが、血を流す戦争は起こるような環境ではなくなっていくはずです」


 公爵と共に真剣に聞いていた皇女は考えながら応じる。

「なるほど、言われるようになればいいと思います。でも、フソウの国に勤めている方からそのように聞いて気が軽くなりました。私も実のところ、帝国ではまだまだ平民が貧しいのが気になっています。それが、言われるように皆が豊かになれるということであれば、是非そうなって欲しいと思っています」


 話は一旦終わり、一行は展望台を回って新東京市の別の場所を見渡していく。街全体の密集度は、人口が100万人を超えるジルコースが勝り、より文明が進んでいる新東京は低層建物が主体で緑が多くのどかに見える。両者の市域の大きさに大差はないが、このような高空から見下ろした経験のない帝国人にはその比較はできない。


「道路が広くて緑に縁どられていますね。暮らし易そうな街ですねえ」

 皇女の言葉にパーラが苦笑いをして応じる。


「ええ、広くて緑に包まれて暮らし易くはあるので、熱心に褒めてくれる人もいるのですが、反面とりわけ道路が広すぎて、用があってどこかに行く時は不便だと言う人もいます。散歩するにはいいのですがねえ」


「なるほど、それはあるかもしれんな。しかし、皇都ジルコースは、ここのように自動車というものが多数行き交うようになったら、今の道路ではすぐに一杯になって不便だろう。今程度の馬車であれば不自由もないがのう。ただ、馬車も糞が困ったものだが………」


 公爵が応じて言うのを遮って、皇女が指さして言う。

「あ、あれが飛行場なの?」


「ええ、新東京飛行場です。フソウの国のこの北島と南島、中島を結ぶ飛行機を運用しています。だから、便数も1日20便足らずですが、各島の行き来には圧倒的に早くて便利ですからね」


「飛行機あれは大きいな。どのくらいの大きさですか?」

 皇女がちょうど着陸に入っているジェット飛行機を指さして聞く。


「ええと、あれはフソウ3型ですから、150人乗りで長さが35m位ですね。今、帝国との空路を準備していますが、あれでは航続距離が足りませんね」


「ふむ、フソウと空路で結ぶというので、ジルコース周辺で土地を物色しているのは聞いた。なんでも、半日でフソウとジルコースが結ばれるとか聞いているが、事実かな?」


「ええ、距離が1万㎞だから。12時間あれば着きますよ。ただ時間が6時間程ずれますね」


「ええ!時間がずれるとは?」


「それは、時差というものです。そのうち、帝国とフソウの間で普通に通信が出来るようになるので、いやでも意識するようになりますよ」

 パーラは手帳を出して図を描いて説明する。


「このようにこの世界は球体です。それは月を見れば分かると思いますが。そして、このように太陽が常時照らすのに対して世界が24時間で回っていますから、こことここでは日が昇ってからの時間が違います。

 この世界の周囲は大体4万㎞ですので、1万㎞はその1/4ですので、6時間ずれるということです。

 だから、フソウを出発したのが朝の8時として、12時間で飛んで帝国に着いた時に12時間は経過していますが、ジルコースの時刻は午後8時でなく午後の2時になります」


 その説明を、手帳の図を覗きながら、皇女と公爵のみならず護衛の2人も熱心に聞いている。時差と言う概念は、世界の自転に対してさほど劣らない速度で移動することで実際に実感することになる。


 その晩は、視察団に外務省からつけられたパーラなどの案内人が加わって、ホテルで食事をとった。そして、翌日は同じ案内人に引率されてはフソウ国の国家機関へのあいさつ回りを行った。さらに夕刻からは記者会見があり、その後外務大臣主宰の晩餐会があって、皇女に対応する皇族も出席しての晩餐会が開かれた。


 そもそもの目的である各専門分野に分かれての視察は、3日目の朝から始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ