表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/229

行方不明のカミラ


 イヴリースが撤退して約三時間。

 吸い込まれるように意識を飛ばしたジュードはシヴァの手で仲間の元まで運ばれ、現在は王城の一室で眠っている。擦り傷や打撲こそあるものの、裂傷などの目立った怪我もなく、熱もない。単純に疲れ果ててぐっすりと眠っている状態だ。


 あの後、ウィルたちは商店街の方へと向かい、そこで魔族の群れと楽しそうに笑いながら交戦する奇妙な人物を見つけた。四方八方から襲撃してくるグレムリンたちの攻撃を軽やかな足取りでひょいひょいと避け、すかさず重いカウンターと叩き込んで撃退していく様は異様でありながら爽快で、何者かと思ったものだ。



『あら、ジュードちゃんのお友達。アタシはイスキアよ、よろしくね♡』



 最初は警戒したが、こちらを見つけるなりそんなことを言ってくるものだから、自ずと味方であることは理解できた。程なく、イスキアと合流して共に魔族退治と住民の避難に奮戦することになった。


 街に被害こそ出たが、魔族に襲われて国が壊滅しなかっただけでも幸運だろう。現在、メンフィスは騎士団と共に城下街に生き残りを探しに行っている最中だ。ウィルたちは案内された客間で、ジュードに付き添いながら身を休めている。



「……あたしたち、生きてるのよね」

「そうね、……一応は生きてるみたいよ」



 疲れたように部屋の隅に座り込んでいたマナが呟くと、窓辺の長椅子に腰掛けていたルルーナが返答する。正直、生きているという実感が湧かなかった。


 王都の上空を覆い尽くすほどの灰色、次々に急降下して襲ってくるグレムリンの群れ。辺りを赤く染める誰のものかもわからない鮮血、むせ返るほどの血のにおい。それらが頭に、目に焼き付いて一向に離れてくれなかった。


 吸血鬼やアグレアスたちのような魔族と遭遇はしたが、彼らはいずれも単体だった。強さは彼らの方がずっと上だったが、今回は空が見えなくなるほどの大群。個々の力はそれほどではなくとも、魔物以上の力を持った敵が複数で襲ってくるという光景は、これまで比較的穏やかに暮らしてきた彼らに精神的な衝撃を与えた。


 魔族がこの世界に現れたということは、もうどこにいても安心はできない。いつまた先ほどのような群れで襲ってくることか。その現実に今更ながら恐怖した。


 ウィルはそんな二人を複雑な表情で見遣り、リンファとちびはジュードが眠る寝台の傍に寄り添う。ちびはともかく、彼らとて平気とは言えない。前線基地の方がどうにかなりそうだと希望を見出したばかりなのに、今度は魔族だ。きっと今頃、女王アメリアも頭を悩ませていることだろう。



「(……けど、俺の考えが間違ってなければ……)」



 一方でウィルは引っかかりを感じていた。客間の扉を一瞥しても、それが開く気配はない。ジュードと一応は知り合いらしいあの謎の旅人二人、彼らのその名にウィルは確かな覚えがある。それに、グレムリンをまったく相手にしていなかったあの動き、あの強さ。



 ――この世界には、魔法という力が存在しているが、習いさえすれば誰もが魔法を扱えるその原理の根底には“精霊”の存在がある。精霊たちの力が世界そのものに拡散しているため、必要な言葉を詠唱することで彼らの力を一時的に借り受けて形にすることができる。それが魔法というもの。


 精霊たちの数は多く、ウィルとてその全てを記憶しているわけではないが、各属性を司る者たちだけはよく覚えている。その精霊の中に、確かにあの二人の名前があった。



「(“風の大精霊イスキア”と“氷の大精霊シヴァ”……偶然とは思えない、あの二人はもしかしたら……)」



 シヴァが加勢に来てくれた時、彼はいっそ恐ろしいほどの氷の力を操っていたはず。彼が氷属性を司る大精霊であるのなら何もおかしくはないのだ、むしろそれ以外の可能性が思いつかない。


 かつて、精霊たちは勇者に助力したとも共に戦ったとも言われている。もしも精霊たちが再び人間に味方をしてくれるのであれば、まったく勝機がないとも言えない。


 そこで、ウィルは窓辺に寄ると城下の様子を見下ろす。街はあちらこちらが無惨に破壊され、遠目から見ただけでも悲惨な状態であることがよくわかる。先ほどのあの襲撃で、いったい何人が負傷し、命を落としたのか。カミラがすぐにでもヴェリア大陸に戻りたい気持ちがわかるような気がした。



「……あれ? なあ、リンファ。そういえば、カミラを見たか?」

「いいえ、先ほど避難民の方々が集まっている場所も見ましたが……お見かけしませんでした」



 カミラは前線基地には同行せず、女王から魔族のことで話があるかもしれないからとこのガルディオンに残ったはずだ。まさか、と嫌な予感を覚えて、ウィルは慌てたように客間の出入口へと駆け出した。マナやリンファはそんな彼の背中に慌てて声をかける。



「ウィル、どこ行くの!?」

「ちょっと聞き込みしてくる、ジュードが起きるかもしれないからマナたちはここにいてくれ」



 それだけを伝えると、ウィルは彼女たちの返事も待たずに部屋を飛び出した。

 カミラは魔族に効果的な光魔法を扱える、そうそう簡単にやられたりはしないはずだ。しかし、あれだけの集団で襲われればいくら彼女でも危ないのではないか。もしや、先ほどの襲撃で犠牲になった者の中に彼女もいるのではないか。


 最悪の想像ばかりが次々に頭に浮かんでは消えていく。ウィルはそれらの考えを追い出すように頭を振ると、廊下を駆け出した。魔族のこと、イスキアとシヴァのこと、考えることは多いが、今はとにかく仲間の安否確認が先だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ