世界崩壊の暗示
吸血鬼アロガンと激突した古い館に、人影がふたつ。
あの戦いの後、住む者も訪れる者もおらず、館の中には戦闘の余韻が生々しく残り、物があちらこちらに散乱していた。砕けた窓ガラスもそのままで、高価そうな絨毯の上に破片となって転がっている。
戦場となったフロアの中央付近に佇み、イスキアは一度ぐるりと辺りを見回した。
「メチャクチャねぇ、本当にこれ片付けるの?」
「嫌ならさっさと先に行け」
嫌そうな表情を浮かべながらぼやくイスキアに、シヴァは無表情のままバッサリと一言だけを返す。
この館は元々、吸血鬼アロガンの魔力で造られたもの。残しておけばアロガンの闇の魔力に反応して、他の魔族が集まってくる恐れがあった。イスキアは依然としてうんざりしたような表情を浮かべているが、これはシヴァの立場としては、決して放ってはおけないもの。
戦闘となったこの場には、特に強い魔力がこびりついている。この場所を中心に館を破壊してしまえば、闇の魔力も行き場を失って消失するはずだ。
シヴァは宙に片手を伸べると、全身から凍てつくような魔力を放出させる。それらは瞬く間に館全体を内部から凍らせた。ぐっと拳を握ると、巨大な氷の塊と化した館そのものに大小様々な亀裂が走る。
――次の瞬間、アロガンの館は派手な物音を立てて崩壊し始めたが、崩れゆく先から空気に溶けるように消えていく。ほんの数分で館はその全てが崩壊し、後には何も残さず風に溶けて消えてしまった。
その光景を見守っていたイスキアは、ひとつ疲れたようなため息を洩らして懐から一枚のカードを取り出す。
「何度カードを引いてみても、出てくるのは破滅を表す塔のカード。この世界の崩壊、破滅を暗示している……」
「……」
「でも、この未来は何としても変えなければならない。行動次第でいくらでも変えられるはずよ」
「だから、俺たちがいる……か」
「そう、アタシたちは陰ながらこっそりジュードちゃんを守ればいいの♡」
――ジュードたちがこの国にやってきてから、シヴァとイスキアのふたりはずっと彼らを陰ながら見守ってきた。
アロガンと戦っていた時に油断したジュードに『まだだ』と声をかけたのも、このシヴァだ。アグレアスとヴィネアと戦った後、ジュードを拾ったのも決して偶然などではなく、ずっと見守っていたからに他ならない。
魔族が今後も世界に広がりを見せるのなら、いずれは彼らも魔族を相手にジュードたちと共に戦うことになるだろう。
そんなことにならなければいいと願いながら、シヴァは橙色に染まりゆく空を仰ぐ。燃えるような夕焼けがどこまでも美しい。
この世界の崩壊など、誰も予測できないほどに。




