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わがまま王女さま


 ジュードとウィルは困ったように雪の降る空を仰ぐ。もちろん、雪も空も二人を助ける要素にはならないし、空を覆う分厚い雪雲は二人の心を余計に曇らせていく。

 仲間内の女性陣は口を閉ざし、始終不機嫌オーラを放っている始末。


 それと言うのも、思わぬ邂逅を果たした水の国アクアリーの王女が原因だ。

 彼女はルルーナが言ったようにかなりの男好きらしく、先ほどからジュードとウィル、互いの間に入り幸せそうに表情を蕩けさせている。その一方で、女性陣の機嫌は悪くなっていくばかりだ。



「ジュード様、ウィル様。もうすぐお城に着きますわ。ぜひお父様にお会いくださいませね」

「は、はあ……でも、この時間だと迷惑になるんじゃ……」

「そんなことありませんわ、お父様はお優しい方ですもの。わたくしのお願いなら何でも聞いてくださるので大丈夫ですのよ」



 そんな中であってもオリヴィアは女性陣に構うことなく、頻りにジュードとウィルに話しかけている。黒髪のお団子頭の少女は、その後ろを無言のまま歩く。恐らく王女の護衛なのだろう。


 現在、ジュードたちは王女オリヴィアの案内で王城へと向かっている。

 どうやら、このオリヴィアは自分が気に入った男は父に会わせないと気が済まないらしい。ジュードたちとしても鉱石の採掘状況がどうなっているのか、可能であれば鉱山への立ち入り許可をと思う部分もある。そのため、国王に謁見できるのなら大助かりではあるのだが。


 しかし、現在は二十時を過ぎている時刻。相手は王族だ、こんな時間に訪ねるのは失礼にあたる。また日を改めて、とウィルはそう申し出たのだがオリヴィアに聞き入れてもらえず、この状況だ。



「なんなのよ、あの女は……」

「ああいう女なのよ、気を付けなさい。男と女とじゃ態度がまったく違うから」



 やや後ろを歩くマナは、今にも飛びかかりそうな鬼の形相である。野獣が獲物を睨むような、そんな目でオリヴィアの背を見据えていた。ルルーナはマナの隣を歩きながら、やはり不愉快そうに表情を歪ませて告げる。カミラはそんな二人の後ろを歩き、どこか不貞腐れたように黙り込んでいた。


 オリヴィアがジュードに身を寄せるたびに、モヤモヤと胸の中が言いようのない霧に覆われていく。胸が締め付けられ、表情は自然と歪んだ。



「(バカ、バカ、ジュードのバカ。なによ、デレデレしちゃって)」



 厳密に言うなら、ジュードもウィルもオリヴィアに大層気に入られて困っているのだ。相手が王女であることと、女性であるために当たり障りのない対応になっているだけで。しかし、カミラの目にはデレデレしているように映っているらしい。拗ねたような面持ちのまま、内心で文句を連ねていた。



 やがて行き着いた謁見の間の手前の空間は、とても広々としていた。

 火の国エンプレスのシンボルカラーは火をイメージさせる赤だったが、水の国アクアリーのシンボルカラーは青である。両脇に立つエンタシスにはサファイアらしき石がいくつも散りばめられ、美しい装飾が施されている。なんとも高級感溢れる雰囲気だ。


 しかし、やはり時間が時間。謁見の間大扉の前には数人の兵士が佇み、固く閉じられていた。その中の一人の兵士がオリヴィアの姿に気付くと、しっかりと敬礼をしてから困惑気味に口を開く。



「これはオリヴィア様、……あの、そちらの方々は?」

「わたくしのお客様ですわ、お父様は?」

「リーブル様は既にお部屋でお休み中です」

「そう、じゃあこのままお部屋に行っても構いませんわね」



 さも当然と言わんばかりのその言葉に驚いたのは、兵士たちよりもジュードたちの方だ。こんな時間に一国の王の私室まで押しかけるなど以ての外である。ジュードもウィルも、掴まれたままの腕をやんわりと離させて慌てたように数歩後退した。



「ひ、姫様、今日はもう時間が時間ですから、俺たちは正式に謁見の手続きをして後日出直しますよ」

「そ、そうそう、陛下もお疲れだと思いますから」

「ええぇ……気になさることありませんのにぃ……」



 ジュードとウィルの言葉に兵士たちは文字通りホッとしたような表情を浮かべたが、オリヴィアは不満そうだ。可愛らしい顔を拗ねたように歪めながら呟くものの、次の瞬間にはまた彼らの手を取って踵を返した。



「そうですわ! では、我が城の客間にお泊まりくださいませ、そうすれば明日もお会いできますものね! 我ながら名案ですわ!」



 そうして、またしても有無を言わせぬ強引さで来た道を引き返し「こちらですわ」とさっさと城の奥へと向かってしまう。マナたちはそんな様子をうんざりしたように眺めていた。



 * * *



 結局そのままオリヴィアに押し切られ、城の客間に泊まることになったジュードたちは早々に身を休めることにした。宿が空いているかどうかわからないため有り難いことではあるのだが、オリヴィアの強引さにジュードもウィルもすっかり疲れ果てていた。



「はあ、まいったなぁ……」

「まあ、な……けど、明日はダメ元で王さまに事情を話してみようぜ。鉱山で直接鉱石を採るにしても許可がいるだろうしな」

「そうだな、わかってもらえるといいんだけど……」



 関所でのやり取りを思い返すと、考えは自然と悪い方に向いてしまう。恐らくは国王も火の国に対して快い感情は抱いていないだろう。あの国に協力などできるかと一蹴されてしまう可能性もないとは言えない。

 ウィルは寝台に腰かけていつものように本を開きながら、そんなジュードに一声かけた。



「お前は余計なこと考えないでまずは療養しろ。その肩、お世辞にも軽い怪我とは言えないんだからな」

「ああ、うん……」

「それで、光属性と相性のいい石だったな。こうやって見ると……ムーンストーンとかパール辺りだろ、基本的に白いやつ。パールなら港街で買えるはずだから、帰りにどこか寄って見て行こうぜ」



 目的の鉱石に関してはまだ先行きが不透明だが、魔族に対抗できる石が身近にあるだけでも少しは安心できる。ウィルから返る言葉にジュードは安堵を洩らして、窓の方へと視線を向けた。現在、女性陣は隣の客間にいる。長い馬車での移動に疲れて、もう眠っていることだろう。


 明日、カミラにこのことを伝えたら彼女は喜んでくれるだろうか。

 そんなことを考えながら、ジュードも早々に眠ることにした。



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