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聖剣×火の刻印


 地面に突き刺したままの聖剣を掴んだ矢先の奇妙な感覚に、ジュードは逆手を自分の胸の辺りに添えた。気持ち悪さは感じない、むしろ身体が軽い。視界が二重にダブったような感覚に陥ったものの、それも一瞬のこと。


 次の瞬間、すっかり聞き慣れた声が()()()に響いた。



『……ジュード、きみの交信(アクセス)対象は精霊たちだけじゃないのか』

「えっ?」



 それはジェントの声だ。しかし、いつものように隣を見てみたが、その姿は両隣にも後ろにも窺えない。どれだけ見回してもどこにも姿を確認できなかった。そんなジュードの様子を見かねてか、一拍ほど置いてからやや申し訳なさげに、それでいてバツが悪そうにジェントが続ける。



『……ここだ。きみの……中にいる。メルディーヌに腹を立てていたら突然引っ張り込まれた』

「(ま、まさかジェントさんと交信(アクセス)した……!?)」



 メルディーヌに腹を立てたのはジュードもそうだ。互いに抱いた憤りの感情に呼応して引き寄せてしまったのかもしれない。それがまさか交信(アクセス)に繋がるなんて思わなかったが。頭が真っ白になるジュードに、肩に乗るライオットは頻りに疑問符を浮かべるばかり。当然だ、ライオットには何が起きているのか伝わっていないのだから。



『と、とにかく、まずはあのゴルゴーンとかいうのをどうにかしよう。見たことのない生き物だ、気をつけて』



 見れば、シルヴァやウィルたち前衛組はゴルゴーンと呼ばれた気味の悪い生き物と既に交戦中だ。ゴルゴーンは身体が大きい分、こちらの攻撃は面白いほどによく当たるが、問題はその耐久力。死霊を操るメルディーヌが作り出したものだ、アンデット系の魔物と同じようにほとんど痛覚がないのか、どれだけ攻撃を叩き込まれても怯まない。


 ジュードは気を取り直すと、ヘルメスやちびと共にそちらに駆け出した。魔族にはその身を形成する核がある。恐らく、あのゴルゴーンにもそれに近いものがあるはずだ。



「手応えはあるが、まったく効いていないように見えるな。魔族というのはバケモノか、このようなおぞましい生き物を生み出すとは……!」

「マナ、ルルーナ! 一発ぶっ放してやれ!」

「任せといて!」



 シルヴァ、ウィル、リンファ――前衛組の攻撃を防ぐことも避けてみせることもしないゴルゴーンを前に、シルヴァはひとつ舌を打つ。こちらの攻撃は全て直撃しているものの、まったく怯まないからこそ即座にその巨体を鞭のようにしならせて叩きつけてくる。身が大きいために避けるのも至難の業だ、こんなことを繰り返していてはいつかこちらの体力が尽きる。


 後方で詠唱をしていたマナとルルーナは、前衛組が一旦離れたのを見るや否やそれぞれ神器を掲げた。既にガンバンテインによる能力低下の効果は発動済みだ。


 その刹那、ゴルゴーンの周囲にごうごうと燃え盛る炎の渦が出現し、内側からは鋭利な岩の槍がいくつも突き出してきた。それにはさしものゴルゴーンも堪らず、引き攣ったような悲痛な叫びを上げる。物理的な攻撃には強くとも、魔法に対する抵抗力はそれほど高くないらしい。


 しかし、そこはやはりメルディーヌが生み出した生き物。その程度で終わってくれるはずもない。ゴルゴーンは身を炎に焼かれながら表面にあるいくつもの口を大きく開けると、その全てからドス黒いレーザーのようなものを吐き出した。それらは宙で弧を描くように曲がり、様々な方向からシルヴァたちに襲いかかる。



「奇怪な生き物め……」



 四方八方から襲いかかるその攻撃は、内側から渦を巻きながらシルヴァたちを守るように勢いよく広がりを見せた水の壁によって綺麗に消し飛ばされた。リンファが咄嗟に渦の中央を見てみれば、そこには槍を掲げたフォルネウスがいる。彼が渦を巻く水の壁を出現させて守ってくれたのだろう。イスキアはその隣に並ぶと、ゴルゴーンを見据えたまま呟いた。



「メルディーヌのやつ、相変わらずロクでもないものを生み出す天才ね。悪趣味だわ」

「貴様とは根本的に合わないと思っていたが、それには同意する」

「ふん、そう思ってんのはアタシもよ。とにかく、がむしゃらに打ち込んでても埒が明かないわ、あいつを形成する核を壊さないと」



 何やら軽口を叩き始めた様子にウィルは苦笑いを浮かべながらも、その目はゴルゴーンを見据える。何度見ても醜悪な生き物だ。これまで叩き込んだ傷は、既に完全に癒えている。核を破壊しない限り、どれだけ傷をつけても意味をなさないらしい。グレムリンのような所謂“ザコ”に分類される個体とは違い、非常に厄介だ。


 すると、ゴルゴーンの巨大な身をも包み込む魔法陣が地面に出現したと思いきや、天から無数の光の刃が降り注いだ。ほとんど隙間なく降り注ぎゴルゴーンの身を八つ裂きにするそれは、中衛で詠唱していたヘルメスが放ったものだ。



「ふわわ……ッ、す、すご~い!」



 それを後方で見ていたマナは思わず感嘆を洩らすものの、ジュクジュクと緑色の体液を噴射しながら傷の修復を始めるゴルゴーンの身体を見れば嘔気を刺激された。無数の刃を叩きつけても中にあるだろう核に直撃しないなど普通では考えられない、さしものイスキアやフォルネウスも思わず瞠目した。



「あんなに撃っても核が壊れないなんて……どうなってるんだ!?」

『ジュード、あいつの核は地中だ』

「え?」

『身体がデカいのをいいことに地中に根を張り巡らせている、ミミズのような生き物と植物を融合させた生命体のようだな』



 頭の中に響く声に、ジュードは聖剣を構えたまま意識を向ける。地中、と言われてその視線は自然と足元に降りた。地中深くに核のある部分が埋まっているのなら、どれだけ攻撃をしても通用しないわけだ。では、どうするか――ゴルゴーンを地中から引き剥がそうにも、あまりにも巨大過ぎる。



交信(アクセス)で繋がっている今なら、四神柱(ししんちゅう)の刻印を使えるかもしれない。腹の辺りに意識を合わせて』

「(腹の、辺り……オレこういうの苦手なんだよなぁ……)」



 意識を合わせるだとか集中するだとかは、ジュードはあまり得意ではない。だが、そうワガママも言っていられないのだ。頭の中に響く声に従って腹部の辺りに意識を集中させると、不意に全身に膨大な力が迸るのがわかった。思わず聖剣を落としてしまいそうになりながら、慌てて両手で握り締める。それと同時に、聖剣の刀身を紅蓮の炎が包み込んだ。



「わっ、わッ……!?」

『なかなか呑み込みが早いな、それが火の刻印だ。主に攻撃力を爆発的に上昇させる。この国では効果は半減するが、聖剣と併せて使うのなら充分だろう。思いきり突き刺して内部から燃やしてやれ』



 うっかり気を抜いたら、暴れ回る力に振り回されてしまいそうだ。表面を燃やしても地中まで届かないのなら、内部から燃やして核を破壊する――何とも荒々しい方法だが、ジュードだって別にスマートな戦い方をしてきたわけじゃない。他に手がないのなら、これしかないのだ。


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