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蒼と紅、ふたりの勇者


 急いで最前列から戻ったシルヴァたちだったが、ついさっきまでの様子とまったく違うことが理解できなかった。先ほどまでは、いくら伝説の勇者相手と言えど確かに善戦できていたはず。


 それなのに、ジュードの加勢に加わった彼女たちは、ジュードを交えて四人がかりであるにもかかわらず――あろうことか気圧されていた。繰り出される攻撃の数々がまさに目にも留まらぬ速さだった。ジェントは武器も持たず、手と足を使うだけ。それなのに、その一撃一撃はまるで刃物や鈍器のような威力を持つ。


 叩き込む攻撃の数々をものともせず、問答無用に拳と蹴りを叩き込んでくる。あまりにも速すぎて防御なんてひとつも間に合わなかった。ジュードが叩きつける聖剣だけは、時折その身に直撃したが、確かなダメージにはなっていないようだった。当たりが浅い。



「くそッ!」



 ウィルは思わず舌を打ち鳴らし、反撃を恐れずに再びゲイボルグを振るったが、今度はその身に傷を与えることはなく――右手ひとつで刃を掴まれてしまった。よくよく見てみれば、ジェントの右手が淡い緑色の光に包まれている。まるでゲイボルグのような。


 瞠目する暇もないまま、直後に先ほどの仕返しとばかりに鳩尾に重い蹴りを叩き込まれて、ウィルはくぐもった声を洩らした。その一撃は、ゲイボルグが展開する防壁をいとも容易く突き破った。



「(先ほどとは別人のようだ、いったいどうなっている……!? これが伝説の勇者だということか……!)」



 仲間の負傷に気を配るだけの余裕さえない。一瞬でも気を抜けば急所に的確に攻撃をぶち込まれる。後方のマナやルルーナは文字通り絶句しながらその光景を眺め、カミラはあわあわとそちらとイスキアたちとを交互に見つめていた。



「ど、どうなってるんですか!? さっきはシルヴァさんたちが完全に押してたのに……」

「そりゃそうよ、何の力も使ってなかったんだから。あの子の右手を見てみて、緑色の光に包まれてるでしょ。あれは風の神柱(しんちゅう)シルフィードの力よ」

「風の神柱って……まさか、人が持ち得てはならない力っていうのは……」

「うに、四神柱(ししんちゅう)の力だに。あれらの力は強大過ぎて、本来は人が持っちゃいけない領域の力なんだに。でも、マスターの目の良さなら慣れれば捉えられるはずだによ」



 この世界を形成する四神柱の力――そんなものを使っているのだから、強いはずである。ライオットはシヴァの頭の上で腹這いに伏せながら心配そうに戦況を見守っていた。


 ウィル、リンファ、そしてシルヴァ――矢継ぎ早に繰り出される攻撃を必死に受け止め、防いでいたが、追い込まれれば集中も途切れるもの。それぞれ鳩尾に重い蹴りの直撃を喰らい、そのままダウンしてしまった。速いだけならば何度受けてもある程度は問題ないが、ジェントの攻撃の数々は速さと重さ両方を兼ね備えている。


 残るジュードは、ライオットの言うように徐々に目が動きに慣れ始めていた。完全に捉えることはできなくとも、少しずつ軌道を読めるようになっている。腹目掛けて繰り出された一撃を聖剣の刃で受け止めると、改めて刃越しに今度は両者口元に薄く笑みを滲ませた。



「ほんと……とんでもないな、ジェントさんは。あの宮殿でも敵わないくらい強かったのに、そんな力まで隠し持ってたなんて」

『とんでもないはこっちの台詞だ、昔から磨いてきた戦闘技術にこうもすぐ追いつかれるなんて思わなかった、ましてや風の刻印を解放したのに捕捉されるとは。……いつか交信(アクセス)状態のきみと戦ってみたいよ』



 どちらも、その表情は楽しげだ。次に動いたのは、ジュードの方だった。逆手に握る短剣を下から振り上げる。対するジェントは右手でそれを受け止めた。淡い緑色の光に包まれたその手は、刃に直撃しても傷が付くこともない。この状態も、恐らくは風によって守られているのだろう。


 暫しその状態で留まり、至近距離で睨み合う。

 程なく、どちらともなくそれぞれ攻撃を繰り出した。既に防御も考えない攻めの姿勢で。手刀が叩き込まれるたびにジュードの身には槍で突いたような傷が次々に刻まれていくが、ジュードだって当然黙っていない。聖剣と短剣を駆使して、刃を叩きつける。いずれも致命傷を狙ってはいるが、深く入る寸前で上手い具合に避けられてしまうため決定打に欠ける。


 誰もが歓声を上げることさえ忘れ固唾を呑んで見守る中、拮抗した状況を止めたのは両手を打ち鳴らすリーブルだった。パンパン、と乾いた音が訓練場に響いたことで、ジュードとジェントはもちろん、その場にいたほぼ全員がそちらに目を向ける。



「そこまでにしよう。私もつい手に汗を握って眺めてしまったが、もう充分だろう。きみたちのような戦士がいてくれるのだ、皆で協力すれば例え相手が魔族だろうと必ず勝てる」

「そうですわね、お父様。お二人とも、それにみなさまも実に素晴らしい腕の持ち主ですわ。魔族なんてギッタギタのメッタメタにできますわよ」



 普段は困った王女でも、こういう時は彼女の存在ほど有難いものもない。リーブルとオリヴィアの言葉に、周囲にいた兵士たちは暫し互いの顔色を窺うように目配せしていたものの、やがて「おお!」と一人が声を上げると次々に賛同し始めた。それは波紋のように広がり、結局その場に居合わせた全員が両手を振り上げて腹の底から叫んだ。


 その様子を眺めて、ジュードもジェントもその場に力なく座り込む。こうして訓練場で戦っているのは、同盟の話を円滑に進めるために水の国の兵士たちに力を見せる――そういう目的だったわけだが、途中から戦いに集中し過ぎてすっかりそのことが頭から抜け落ちていた。



「そういえば、そういう話でしたね……すっかり忘れてた……」

『……そうだな。しかし、これで偽物ではない証明になったのかどうか……』

「きっと、大丈夫ですよ……ああ、疲れた……」



 この場に精神空間(マインドスペース)を展開した時とは比べものにもならないほどの歓声が、やむことなく響き渡る。これで何もかも上手くいくとは思わないが、この分なら同盟を結ぶことも難しくないだろう。身体を張った甲斐もあるというものだ。


 いつか本気で決着をつけたい。

 ジュードもジェントも、言葉にはしなくともどちらもそう思った。


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