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水の国の異常気象


 色々と気になることは多いし、整理したい情報もたくさんあるのだが、あまりのんびりしていて王都グルゼフからの追手が来るとマズいことになる。そう判断した一行は、話もそこそこに水の国に向かうために関所に足を向かわせた。


 前回、水の国のもう一方の関所から入国する際にも大変な想いをしたのだ。今回もあれと同等、もしくはそれ以上の苦労が待っているかもしれない。そう思っていた面々を待ち受けていたのは、予想と寸分違わぬ――がっちりと武装した水の国の兵士たちだった。



「帰れ帰れ! 火の国の人間の入国など認めるものか!」

「そうだ、帰れ!」



 こちらの馬車を見つけるなりその手に武器を取り、関所の出入り口を自分たちの身を壁にすることで封鎖してしまった。力業で強引に通ることはできるが、そのようなことをしてしまえば上手くいくかもしれない話も駄目になってしまう可能性が高い。自国の民を傷つけられて喜ぶ王などそうそういないだろう。


 どうしたものか――シルヴァは困り果てて馬車を止め、兵士たちの様子を窺った。



「……シルヴァさん」

「困ったものだな、少しでも先を急ぎたいというのに……」



 ジュードとウィルは馬車の窓から顔を出すと、心配そうに外の様子を窺う。

 初めて水の国を訪れた時と変わらず、この国は相変わらず火の国の人間に対して憎悪を抱いているようだ。


 しかし、そんな彼らの元にひとつ聞き覚えのある声が届いた。



「……あれ、ジュード?」

「え?」



 その声に思わず反応したのは、当然ながら窓から顔を出していたジュードとウィルだ。不思議そうに目を丸くさせながら視線を投げ掛けた先、そこには群がる兵士たちを軽く押し退けて前へ出てきたエイルが立っていた。


 ジュードの姿を確認するとエイルは訝っていた顔を途端に嬉々に染め上げ、先までの警戒はどこへやら――武器を下ろして馬車へと駆け寄ってくる。シルヴァはそんな彼の様子に数度瞬きを打った後、御者台の上からジュードとウィルを振り返った。



「ジュード、久しぶり! 本当に遊びに来てくれたんだ!」

「あ、いや……はは、別に遊びに来たわけじゃないんだけど……」

「わかってるよ、……そんな馬車に乗ってるんだしさ」



 エイルはジュードの言葉に小さく頷いてみせると、一度だけ複雑な面持ちで馬車を見遣りつつ――しかしとやかく言うことはせずに兵士たちに向き直った。



「……この人たちは僕の知人だ、彼らのことは僕が責任を持つ。だから通してやってくれ」

「しかし、エイル……」

「以前この国に現れた魔族を退治してくれたのはこの人たちなんだぞ、陛下にとっても客人のようなものなんだ。……だから、頼む」



 エイルのその言葉にウィルやマナは互いに顔を見合わせ、ジュードは瞬きながら彼を眺める。前回この国を訪れた際と今とでは、エイルの様子が百八十度変わっていたからだ。水の国の兵士は未だ火の国の人間に対し強い嫌悪や敵対心を持っているようだが、エイルは多少でもその葛藤を乗り越えつつあるのだろう。



「……エイル」

「ジュードは友達だもんね。それに……遊びに来たわけじゃないなら、何か大事な用があるんでしょ?」

「ああ、オレたちはどうしても王さまに会わなきゃいけないんだ」

「なら、ちょうどよかった。きっと陛下もジュードに会いたがってると思うよ」



 そこでジュードはエイルの言葉に疑問符を浮かべた。

 確かに水の国の王リーブルとは面識がある。多少なりとも彼の記憶に残っているだろうとは思うが、リーブルは一国の王。他国の人間一人に会いたがるなど、そうそうあるものではない。

 ジュードが不思議そうに首を捻ると、エイルは視線を横に逃がして神妙な面持ちで呟いた。



「……この関所を出れば、すぐに理由がわかると思うよ」



 * * *



 国王がジュードに会いたがっている理由。それは、この関所を出ればすぐにわかる。

 エイルのその言葉の意味は、確かに関所を出てすぐに判明した。ジュードたちは目の前に広がる光景に瞬きさえ忘れたように呆然と佇み、そして息を呑む。



「エイル、これは……?」

「見ての通り、大雪原さ。前にジュードたちが来た時も季節外れの雪なんか降ってたけど……あれからずっと毎日雪、雪、雪で積もりっぱなし。この関所から王都まで通常なら一日で着くはずなのに、今は雪で足止めされて三日、ひどい時は五日もかかるんだ」



 ジュードたちの目の前には果てなどないのではないかと思うほどの、どこまでも続く大雪原が広がっていたのである。人の背丈より高く積もった場所も数多く存在し、埋もれれば自力で出てくるのは困難を極めるだろう。

 エイルは脇に下ろした拳を固く握り締めて静かに視線を下げると、吐き出すように呟いた。



「こんなことは初めてなんだ、今まで雪の量が多いことは何度もあったけど国が埋まってしまうくらいの雪は降ったことがない」

「この原因をオレたちに調べてほしくて王さまが会いたがってる、ってことか?」

「さすがだねジュード、察しがいいや」

「そ、そんなこと言われてもな……」



 確かに目の前に広がる光景は異常だ。

 このまま延々と降り続けば、やがては王都シトゥルスさえ埋もれてしまうだろう。そうなってしまえば文字通り水の国は終わりだ。


 とは言え、この異常な状況の原因を解明するなどそう簡単にできることではない。どうしたものかとジュードは静かに唸った。


 今は取り敢えず、エイルに事情を聞きながら水の王都シトゥルスを目指すのが先だ。



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