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新たなる神器


 ルルーナは、風の国に発つ前の母との会話を思い返していた。

 風の国に住むジュードという男の子を連れてきて――母曰く、その子を連れてくれば出て行った父が帰ってくるという。


 しかし、こういうことだったのかと思うと全身が自分の身体ではないみたいにとても重くなったような気がした。何も考えたくないほどの大きすぎる失望感に苛まれながら、それでも奥歯を噛み締めて様々に入り混じる感情をやり過ごす。



「私にジュードを連れてこいと言ったのは、そういうことだったのね……全てはこの国がヴェリアに取って代わるために……」



 世界の国々に対して「伝説の勇者の子孫が自分たちに味方をする」という形を作り上げたいがために、ジュードを連れてこいと言ったのだと理解した。この地の国グランヴェルがヴェリアに代わる国となれば、出て行った父が思い直して戻ってくるとでも思ったのか――あまりにも浅はかすぎる。母を睨み据えるルルーナに対して、ネレイナはまたひとつ「ふん」と鼻で笑った。



「お前は見た目はわたくしに似たのに、中身はあの人に似たのね。くだらない情に惑わされるような娘だと思っていたのよ。やることはやってもらったし、そんな反抗的な目をするような娘は要らないわ」

「ひ、ひどいナマァ……」

「ひどい? むしろ今まで育ててやったんだもの、感謝してほしいわね。お前なんて、あの人を繋ぎ留めておくために産んだだけなんだから。それなのに……はあ、まったく役立たずだこと」



 そのあんまりなネレイナの言葉に、ライオットもノームも返す言葉が見つからなかった。自分たちを抱き上げるルルーナを心配そうに見上げるが、その失望したような表情からはほとんど何も読み取れない。ぶるぶると震える手と腕が何より痛ましかった。


 ルルーナは視線のみをゆっくりとジュードたちの方に向けると、そこでふっと笑う。



「……今なら、お父様が出て行った気持ちがよくわかるわ。きっとお父様はお母様のその野望に愛想を尽かしたのよ。世界中の国々も、こうやって抑え込んで無理矢理に従わせるつもりなの?」

「……なんですって?」

「こんなことで魔族となんて戦えるわけがないわ、過去に魔族と通じたような人がいる国なんて誰が信じるものですか!」

「おだまり!!」



 ルルーナがそう声を上げると、ネレイナは忌々しそうに舌を打つ。最高位の貴族の当主という、生まれついての貴族であるネレイナにとって自分への反論は極めて不快なものである。それが、形だけの娘からのものであれば余計に。


 ガーネットがあしらわれた杖を掲げると、ネレイナはルルーナ目掛けて魔法を放った。紅蓮の業火が巨大な火炎弾となり飛翔するそれは『テラジャーマ』という火属性上級魔法だ。凝縮された火の魔力が対象に直撃することで大爆発を起こし、甚大なダメージを与える恐ろしい攻撃魔法である。そんなものを自分の娘に放つということは、ネレイナにとってルルーナの存在は――本当にただの道具のようなものでしかなかったのだろう。



「ルルーナ!!」



 ウィルとマナは咄嗟に叫んだが、自由にならない身では助けに入ることさえできやしない。最初こそ犬猿の仲だったが、今となってはルルーナは彼らの仲間以外の何でもなかった。


 しかし、その魔法はルルーナやライオットたちに直撃する前に、何かに弾かれたようにバチッと高い音を立てて飛散してしまった。見ればルルーナの腕に抱かれたままのノームのぷっくりと突き出た腹が光を湛えている。程なくしてそれは勢いよくノームの身を離れると、ルルーナの目の前で美しい首飾りの姿になった。


 ウィルとマナはその光景を見て、互いに顔を見合わせる。レーヴァテインとゲイボルグ――二人が使い手として選ばれた時にそっくりだ。


 ライオットとノームは揃ってその顔に嬉々を滲ませるなり、どちらも大慌てでルルーナの手や腕をぺちぺちと叩いた。



「神器が力を貸してくれるナマァ! ルルーナさん、神器を使うナマァ!」

「地の神器ガンバンテインは敵の能力を一時的に大きく低下させられるんだに! これを使えばお母さんの魔力を抑え込んで、マスターたちをあのツタ地獄から助けられるによ!」

「……神器って、あんまり人を見る目はないのね。私を選んじゃうなんて……でも、いいわ。力を貸してくれるって言うなら、有り難く使わせてもらうわよ!」



 ノームとライオットのその言葉にルルーナは二匹を片腕に抱き直すと、目の前で煌々と輝く首飾りを逆手に取った。それは彼女の手の中でぐんぐんと伸び、やがて煌びやかな装飾の杖へと姿を変える。中央に鎮座する三日月の宝珠が金色の粒子をまき散らす様は異様に美しく、神々しい。


 ルルーナの手に握られた新たな神器ガンバンテインは力強い黄色の輝きを放つと、ネレイナやファイゲたちをドーム状の光膜で覆ってしまった。その光は二人の全体的な能力を大きく低下させ、ネレイナが操っていたツタは瞬く間に力を失ってジュードたちの身から離れていく。


 カミラはその場に座り込んでしまいながら、その目で聖剣の行方を探った。見れば、光り輝くその剣は未だファイゲの手にある。



「陛下! 聖剣は所有者の願いを叶えるもの、聖剣に陛下を所有者として認めさせるために願いを懸けるのです!」

「な、なに? そ、そうか、しかし何を願えばよいか……ふうむ……」

「あなた! 早く!」



 そのやり取りを聞いてカミラは声を上げた。とにかく、聖剣をファイゲの手から取り戻さないことには、魔族との戦いに於いて光明など見えてこない。王妃デメトリアに急かされながら、ファイゲはいくつもあるだろう願いを決められずにいるようだ。奪う機会は今しかない。



「――お願い! 誰か、誰か聖剣を取り戻して!」



 ツタ地獄から解放されたウィルやシルヴァたちは、それぞれ仲間の安否を窺っていたがその声に玉座の方へと目を向ける。ネレイナの言葉を聞く限り、聖剣は誰かが願いを懸ければその者を所有者として認めてしまうのだろう。もう一刻の猶予もない。


 自由になった身を確認するなり、ジュードとリンファが勢いよく玉座目掛けて飛び出した。脇に控えていた護衛の兵士たちが武器を手に阻もうとするが、ジュードは首から提げる小瓶を掴むと、駆けながら親指でその蓋を開ける。すると、中から煙が噴き出したかと思いきや――それは人の姿になった。



「オラオラオラァ! 邪魔すんじゃねぇ、どけえぇ!!」



 それはもちろん、フラムベルクに渡された小瓶。中身は彼女の部下のサラマンダーだ。立ちはだかる兵士たちを紅蓮の炎を纏う刀で次々に薙ぎ払っていく様は、あまりにも清々しい。


 ジュードとリンファはそれぞれ同時に武器を引き抜くと、ネレイナとファイゲに飛びかかる。狙いは当然、ファイゲの手にある聖剣だ。



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