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地の王ファイゲとの謁見


「いよいよだな、失礼のないようにするんだぞ」



 午後を回って小一時間ほど。通された客間で寛いでいたジュードたちは、約束の時間直前に呼びに来た兵士に連れられるまま、謁見の間に通じる扉の前に佇んでいた。

 シルヴァがそう一声掛けると、マナやカミラは緊張した面持ちで頷く。ジュードたちは性格のせいか辺りに視線を巡らせていたが。


 この王都グルゼフの城は、ガルディオンやミストラル、アクアリーとは比べ物にもならないほどの立派な造りだ。城の至るところに設置された扉には純金の美しい細工が施され、触れて指紋を付けてしまってもいいのかと戸惑ってしまうくらいの美しいものばかり。


 床はガラスのように綺麗に磨かれ、明かりが反射してその場に立つ者の姿が映っていた。壁や天井の様々な装飾にはこれでもかというほどに宝石や純金が使われ、いっそ目に痛いくらいの輝きを持つ。



「な、なんかすごく緊張する。水の国や火の国は大丈夫だったのになぁ……」

「そ、そうだね……」



 マナとカミラは随分と緊張しているようだ。己の胸に片手を当てて、気持ちを落ち着かせるようにそこを撫で付ける動作を繰り返していた。

 ルルーナは久方振りに訪れた王城でも、特に懐かしんでみせると言うようなこともない。ただ口を閉ざして目の前の扉が開かれるのを待っていた。普段に比べて口数が少ないのは、ここが故郷だからか。ノーリアン家の令嬢と言うこともあり体裁を気にしているのだろう。


 ライオットとノームは、正装に身を包んだジュードの服の中に潜り込んで黙り込んでいた。



「シヴァさんとイスキアさん、どこ行ったんだろう?」

「さあ……まあ、あの二人の心配は要らないだろうさ」



 昨夜はルルーナの実家であるノーリアン家のそれはそれは豪勢な屋敷に泊まることになったが、イスキアとシヴァの二人はジュードたちが目を覚ました時には既にいなくなっていた。ライオットとノームが特に何も言わないところを見ると、あの二人の心配は無用だろう。考えるまでもなく、ウィルはジュードの言葉にそう返答した。


 けれど、ウィルにはひとつ気になっている点があった。


 昨日、結局ルルーナの母であるネレイナは多忙のため、屋敷に帰ってくることはなかった。そのため、一晩厄介になったのに家主である彼女に挨拶さえできていない状態である。

 そのわりには朝起きてみると、屋敷にはジュードたち人数分の衣服が用意されていたのだ。お陰で今は全員、王族の前に出ても恥ずかしくないような正装姿。しかし、晩のうちにこれらの衣服を手配してくれたのかと思うことはできるが、どうにも腑に落ちない。



「(どうして俺たちが国王に謁見するって知られてるんだ、ルルーナが話したのかな……けど、昨夜ネレイナさんは戻ってこなかったはず……まいったな、いくらノーリアン家って言っても、仲間の親を疑うなんて行き過ぎか。厚意で用意してくれたものかもしれないってのに……)」



 何とかいい方に考えようとしても、リンファの件もある。その疑念はウィルの胸中でもやもやと燻り、いつまでも消えてくれなかった。



 程なく――謁見の予定時刻になると、閉ざされていた扉は静かに開かれた。


 謁見の間の最奥にある玉座には、鼻の下に生えた黒い髭を片手でいじりながら待つ国王ファイゲの姿がある。その隣には彼の妻である王妃デメトリアが座っていた。

 シルヴァは一礼してから謁見の間へ足を踏み入れ、その後にはルルーナが続く。ジュードたちは緊張した面持ちながら、二人の後ろに続く形で足を進めた。


 ファイゲは上機嫌そうな笑みを浮かべて、座したままそんな彼らを眺めていた。そして彼の目がルルーナの姿を捉えると、そこでようやく腰を上げる。



「おお、本当に戻っていたのだなルルーナ。お前がおらぬ間、ネレイナが随分と寂しそうにしていたぞ、なぁ?」

「陛下、お戯れを……そもそも娘を送り出したのはこのわたくしです。グラム殿には随分とよくして頂いたことがありましたので、せめてもの礼になればと」



 ファイゲが視線を向けた先、そこには玉座前の階段を下りた場所に佇む一人の女性の姿があった。彼女がルルーナの実の母でノーリアン家の現当主ネレイナだ。久方振りに見た母の姿にはさすがのルルーナもその表情を弛める。

 そして一歩前に足を踏み出し、国王と王妃へ向けて深く頭を下げてみせた。



「ご無沙汰致しております、陛下」

「お前の美しさはいつも変わらぬな、今日はまた一段と輝いて見えるぞ」

「恐縮でございます、わたくしなどにはもったいないお言葉。そのお言葉が相応しいのはデメトリア様以外にありません」



 謙遜した言葉を紡ぐルルーナを見てファイゲは益々その表情を和らげた、それはそれは上機嫌そうに。そして王妃もルルーナの言葉に対し『まあ』と嬉しそうな声を洩らす。

 そんなやり取りを聞きながら、ウィルとマナはふと――傍らのジュードの様子に瞬いた。どうしたのか、異様に顔色が悪い。まるでサタンを前にしたあの時のように真っ青だった。



「……ジュード?」

「ど、どうしたの、大丈夫?」



 話の邪魔にならないように小声で声をかけたものの、ジュードの視線は正面から――ネレイナから離れなかった。その顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうなほどだ。頬を冷や汗が伝い、身体も微かに震えている。


 当のジュードは、奇妙な感覚に陥っていた。

 ネレイナという名前を聞いた時も、ノーリアン家の話を聞いた時も何とも思わなかったのに、彼女の声を聞いた途端に全身が拒絶でもするかのように粟立った。



「それで、火の国から書状とな?」

「はい、お初にお目にかかります陛下。私は火の国エンプレスの騎士シルヴァと申します。女王アメリア様から陛下に宛てた書状を預かってまいりました」

「ふむ……書状など、中を見ずとも理解はしておる。どうせ協力して魔族を撃退するというものだろう」



 ファイゲはシルヴァの言葉に何度か頷いてみせるが、言葉通り中身は理解できているらしい。特別考えるような間も要さず、言い当ててみせた。そして興味もなさそうに「ふう」とわざとらしくため息を洩らすなり、横目にネレイナを見遣る。すると、ネレイナはにこりと穏やかに笑って彼らを――ジュートを見据えた。



()()()()()ね、ジュードくん。会いたかったわ……」



 ネレイナがそう呟くと、ジュードたちは真っ白い閃光に包まれたが、その正体が何であるのかは――わからなかった。



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