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お勉強しように!


 王都ガルディオンを発ったジュードたちは、まずは地の国グランヴェルへと向かうことにした。と言っても、決めたのはシルヴァだが。


 風の国ミストラルは、恐らく協力を拒んでくることはないだろう。あの国はアメリアが前線基地への協力を呼びかけた時も積極的に支援に動いてくれた友好国だ。


 しかし、水の国との関係は逆にその一件で気まずいものになってしまった。協力してもらえるかどうかは五分五分といったところだ。あのリーブルが書状に対してどういった反応をするかに懸かっている。


 そして地の国は――ずっと完全鎖国の状態にあるため、あの国の王族が何を考えているのかさっぱりわからないのが現状である。難所と思われるところから行こうという話になり、そう決まった。それに地の王都で許可証を揃えてしまえば、港街からヴェリア行きの船にも乗れる。そうすればカミラをヴェリア大陸にも帰してやれるのだ。



「マスター、お勉強しように!」

「…………」



 その地の国グランヴェルへ向かう道すがら。

 延々馬車での移動ということもあり休憩を挟んだ際のこと。


 一行は河辺で涼み、各々軽く食事などを楽しみながら文字通り心身共に休んでいたのだが、その最中にライオットが不意に声を上げた。自分の肩に乗ってどこか誇らしげに短い片手を上げるモチ男――ライオットを、ジュードは珍しく無感情に見遣る。


 その表情はまるでこの世の終わりのような絶望感に満ちていた。そして、すぐに何も言わずに顔ごと視線を背ける。それを見てウィルは苦笑い混じりに言葉を向けた。



「なんでいきなり勉強なんだ? お前のご主人様は勉強って言葉自体が大嫌いなんだから、あんまいじめてやるなよ」

「ただの勉強じゃないに! マスターには知っておいてほしいものだによ!」

「オレ好きでマスターなんてやってないから必要ない」

「そういうのをヘリクツって言うんだに……」



 考えるような間も置かず、いっそ即答だ。顔を伏せて嫌々と頭を横に揺らしながら呟く。余程嫌なのだろう。だが「ただの勉強じゃない」という言葉に反応したのはむしろウィルの方だった。自分が知らない内容だろうと思えば自然と興味が湧く。



「どういう勉強なんだ? 俺が聞いてわかりやすいように噛み砕いて……ジュードに教えるよ」

「なんて情けないマスターなんだに……」



 ライオットはしょんぼりと頭を垂れて呟くと小さく頷いてみせた。そしてジュードの頭の上に飛び乗り、腹――もとい胸を張る。



「まずは精霊のことについてだに。ライオットにはないけど、各精霊たちには得意属性もあれば苦手属性もあることを知っておいてほしいんだに」

「得意属性と……苦手属性?」

「そうだに、サラマンダーがいい例だにね」



 サラマンダーは、今はジュードが首から提げる小瓶の中に戻っていた。ライオットはそれを見下ろすと、そのままジュードの頭の上に座り直す。



「サラマンダーは火の力が強い火の国だと本領を発揮できるけど、その火の国を離れたら戦闘力は大きく落ちるんだに。間違っても水の国では喚び出したら駄目だによ」

「ああ、なるほど……属性相性と同じか。魔法にもあるよな」



 この世界の魔法の属性は、火、水、風、地、雷、氷、そして光。

 火は風に強く、風は地に強い。地は水に強く、水は火に強い。


 雷は水に対して絶大な効果を発揮するが、雷を通さない地の前では無力。


 氷は火に弱くもあり、強くもある。どちらの力や魔力が高いかが勝負の分かれ目となる。光と闇もこれと同じだ。


 闇属性は魔族が扱うものだが、この世界に闇を司る精霊はいない。そのため、光の精霊であるライオットには苦手な場所というものがないのだ。



「属性相性は精霊だけじゃなくてみんなにもあるんだに。例えば、火の神器に選ばれたマナは火属性を強く持ってるし、巫女のカミラは当然光の属性が強いんだによ」

「へえ……じゃあ、俺たち全員に得意属性も苦手属性もあるわけか」

「そうだに、マスターに知っておいてほしいのは……みんなの得意属性を活かして、更に戦闘能力を高める方法だに」



 ウィルは荷物からメモ帳とペンを取り出すと、さらさらと走り書きでライオットの話を書き留めていく。マナやシルヴァは横からその手元を覗き込んだ。



「みんなの得意属性を活かすって、どうやって……」

「マスターは精霊と契約することで、その精霊を自由に召喚することもできるし、契約した精霊の力を仲間に与えることもできるようになるに。得意属性を活かすのはこの後者だにね」

「なるほど、ジュード君を媒体として……自分と相性のいい精霊に我々の能力を強化してもらえるというわけか。魔族との戦いだ、その能力はぜひ活用したいものだな」



 例えば、ライオットと契約すれば光属性を強く持つカミラの能力が強化され、更にサラマンダーと契約することで火属性を持つマナの能力が別に強化されるというわけだ。神器に加え、精霊の力による強化が加われば、確かに魔族との戦いに於いて大きな力となってくれるだろう。


 そこまで考えて、ジュードは複雑そうにマナを見遣った。



「……けど、マナは本当によかったのか? 神器に選ばれたってことは、今後魔族とずっと……」

「何言ってるのよ、今更でしょ。むしろ望むところだわ、魔族なんてギッタギタにしてやるんだから!」

「はは、頼もしくて何よりだが、決して無理だけはしないように。きみたちに何かあったら陛下にもメンフィス様にも合わせる顔がない」



 やはり、マナはそういう性格だ。返る言葉を聞くなりジュードは苦笑いを滲ませた。カミラはその言葉に眦を和らげ、リンファは言葉もなくルルーナをちらと横目に見遣る。すると、ルルーナはふっと鼻で笑うと常の如くひとつ揶揄を飛ばした。



「シルヴァさんの顔を潰すんじゃないわよ、ただでさえマナはガサツなんだから」

「ガサツは関係ないでしょうが!!」

「ま、まあまあ……それで、その契約ってのはどうやるんだ?」



 マナとルルーナのやり取りはすっかり日常茶飯事だが、これでは話が進まない。ウィルは簡単に二人に宥めを向けると、ライオットにその先を促した。すると、ライオットはしょんぼりと軽く頭を垂れる。



「うに……もしかしたら、マスターは今のままだと契約できないかもしれないに」

「え、な、なんで?」

「みんなから聞いた“魔法を受けると高熱を出す”っていうマスターの体質が気になるんだに、……契約できるか試すにしても、落ち着ける場所に着いてからの方がいいに」



 ここ最近は、魔法を受けないよう極力気をつけていることもあって昔ながらの特異体質にはそれほど悩まされていないが、精霊とは魔法そのものに関わる存在だ。そんな精霊との契約――言われてみれば、確かに不安は付きまとう。


 ライオットの言うように、落ち着いて休める場所で試した方がいいだろう。



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