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皇宮女官は思ったよりも忙しいけれど、割と楽しくやってます!  作者: 大橋和代


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第三十九話「園遊会の退屈と憂鬱」

第三十九話「園遊会の退屈と憂鬱」


 クロンタイト代表に頼まれた『お買い物』を、無事に終えた翌日。


「……はい?」


 園遊会の打ち合わせとその準備に追われていると、ナイトーフェ政務官とクロンタイト代表がやってきて、国王陛下にお祝いを献上する順番の変更を伝えられた。


 当初の予定では、大トリである王妃陛下の一つ前、第二王女殿下の後ろだったけど、前にずれて第三王女殿下の直前、国内貴族筆頭である公爵閣下の後ろになるそうだ。


「誠に申し訳なく思いますが……」

「ふむ……。帝国は、特に意見を述べる立場にございません。お気になさらず」


 第一王女殿下ご当人ではなく、派遣されてきた名代を、第二、第三王女殿下の上位にするわけにはいかない、という説明がついていたけれど、当のナイトーフェ政務官は冷や汗を掻いている。

 

 私の順番を手前、つまり格下に『下げる』ことで、クレメリナ様の継承順位まで下がったように印象づけたいのかな。


「……お伝え下さいましてありがとうございます、政務官殿。当日、慌てることなく済みそうですわ」


 随分とせこい嫌がらせだなあと思ったけれど、他に言い様もないので、型どおりのお礼に留めておく。


 もちろん、名代は代理人であるけれど、私は帝国の人間で、抗議すると内政干渉に受け取られてしまいかねなかった。


 それにナイトーフェ政務官は今の場合、王宮のメッセンジャーでしかない。

 王国が公式に定めた序列は、クロンタイト代表が仰ったように、私達でどうこう出来る問題じゃなかった。




 ▽▽▽




 さて、当日。


 このヴァリホーラ国王生誕四十周年記念園遊会、ポイントになる行事はメインの園遊会と、セットになっている献上の式典、それから、最後に控える大夜会の三つだ。


 園遊会は当然、国王陛下の誕生を祝う場なので、通例は国内で最も格式の高い場所、つまり王城で開催される。


 国威を(あまね)く知らしめ、王の力を誇示する為に、別の場所に趣向を凝らした会場が特別に用意されることもあるけれど、予算の面でも警備の面でも、労力が並大抵では済まないと知られていた。


 帝国でさえ、魔物に攻められた地方の復興の後押しとか、外国との戦争の直後に現地で行うとか、相応以上の理由がついてないとそんな無駄なお金は使わない。


 今日は王都市中も祭りの賑わいを見せているだろうけど、涼風宮は貴族街の中ほどにあり、そのまま王城に向かうので、部屋付きメイドさんからの噂話でしか情報を得られなかった。


 王城で大きな祝い事があれば、街や村々にもお祭りが許される。


 王都の市街や港では、そこかしこで乾杯が繰り返され、世界各地の屋台があって食べ歩きも楽しいそうで……個人的には、そっちの方に行きたいけどね。


「間もなく到着いたします!」

「セレン、荷物の用意を」

「はい、キリーナ様」


 今日はセレンも連れてきている。


 式当日とあって、外交団も留守の数人以外は王城に向かうし、今日はその王城の控えの間にこそ、留守番が必要だった。


「どうぞこちらへ!」


 馬車で混み合う王城前に到着した私達一行は、騎士と侍従の一隊を専属の案内につけられた。


 前後を挟まれ、兵隊さんが行進するように二列で歩く。


「青の招待状でございますね、では、そのまま大廊下をお進み下さい!」

「赤の招待状をお持ちのお客様には、専属の担当者が用意されております。失礼ながら、御名をお伺いさせていただけますでしょうか?」

「献上品の申請は、こちらに願います!」


 入り口付近は、まるで通勤ラッシュの改札口にも似た混み具合だった。


 これだけ規模の大きな園遊会だと、市井の一商人や下級軍人から国外の王侯貴族まで、その客層は幅広い。


 随分と視線を送られたけど、並ばなくていいのは特権の証でもある。まあ、うん、お仕事だけどね。


 四本柱が目立つ正面入り口付近の混雑を横目に、別ルートで王城の中層階に向かう。


 案内された先は、舞踏会が開けそうな広間だった。


 先客が沢山いて、私達女官組と外交団だけではなく、帝国からの招待客のうち、上客がこちらに集められているようだ。


 もちろん、私専用の個室も別にあって、至れり尽くせりである。


「やあ、ヘムード、久しぶりだな!」

「君も来ていたのか、レンデルフ」


 クロンタイト代表は、国内にもお顔が広いようで、他のお客様との会話に忙しい。


 侯爵や伯爵、あるいは高級軍人や帝国商人ギルドの重鎮と言った顔ぶれが居並ぶ中、流石に私は知り合いが来ているはずもなく、軽く身だしなみを整えてお化粧を僅かに直した後は、リュードさん達に囲まれながら広間のあちこちを散策していた。


「レナーティア様、お飲物は何になさいますか?」

「では……そちらの、ケリアベリーのお茶をいただきましょう」


 あちらで珍しい料理に舌鼓を打ち、そちらに飾られた花を愛で、こちらの高価な絵画に感嘆の声を上げ……この散策が、実はお仕事だ。


 クレッテン書記官の他、侍従のお仕着せを身につけた数人の官僚が、私を隠れ蓑にして周囲の会話を探っていた。


 帝国人の招待客とその侍女従者の数は、合わせて百人近くに上る。


「最近、そちらはどうですかな? 新しく交易船を新調なさったとか」

「貴殿のところこそ、フィラスに新たな支店を出されたとお聞きしますぞ」


 第二王女派、あるいは第三王女派と、旗色の明白な人はまだいいんだけど、短期の利益を求めて支持を変える人や、両派にいい顔をする人だっていた。


 今日の外交団は、そんな彼らの派閥の特定や、交わされる情報を探るのがお仕事らしい。


 涼風宮に滞在していた女官組と外交官は、帝国の国益をまず尊重するという点で、一枚岩だった。


 私はたぶん、第一王女派に分類されるけど、帝国に迷惑を掛けたいわけじゃない。外交団の人達の内心までは分からないけれど、彼らは皆、帝国の命を受けてこの国に来ていた。


「あちらの窓から景色をご覧になられませんか? 城下が一望できますよ」

「では、参りましょうか」


 騎士達にかっちりと守られた私は、声こそ掛けられなかったけれど、時折、リュードさんを見て驚いた風な人も居て、上流じゃお顔が知られてるんだなあと、改めて思ったり。


 私は言われるままに移動して、当たり障りのない行動をとるだけという、無難なお仕事を割り振られていたけれど、それで十分だ。


 宮付き筆頭女官なんて肩書きがついていても、私は女学院を卒業したばかりの新任女官である。クロンタイト代表も、無茶は要求しなかった。




 このお仕事、私に割り振るには無難な上に、実働部隊は本物のエキスパートで効果も高い。


 貴顕の人々の間をするすると泳いで情報を集めて欲しいとか言われても困るし、新任女官にも出来るように考え抜かれた内容なんだろう。


 私自身は、普通に園遊会を楽しんでくれと前置きされている。中高年の男性が多い招待客の中では一際若いし、油断も誘いやすいんだろうなと思えた。


 けれどどうしても、退屈な印象が拭えなくて、思ったよりも気疲れが酷い。


 ……何事もないのが一番なんだけど、気持ちのコントロールは難しいのだ。




 ▽▽▽




 時間が来て、今度はぞろぞろと、城の裏手の広い庭園に案内される。


 本会場になっている庭園は、丘を大きく切り開いて作られているようで、間近に見下ろす王城がより高く見えていた。


 四つぐらいに区画が分けてあり、私は一番格式の高い『春風の庭園』に案内されている。


「……もう一頑張り、だよ」

「ありがとうございます」


 小声で励ましてくれたリュードさんに頷いて、人の波を見据える。


 招待客は小さなグループを作ってにこやかに談笑しているし、国王陛下の健康を言祝ぐ乾杯の声もそこかしこで聞こえた。


 国王陛下が庭園の各所をお巡りになるその一瞬以外は、先ほどの広間と大差ないらしい。


 当然、『お仕事』も継続中で、今度はフラゴガルダを中心に各国の人々に対象が切り替わっていた。


 中には戦争間近の筈のカレントの商人や貴族も招待されていたりして、若干緊張しつつも、物珍しさを装って庭園の風景を眺めたりする。


「レナーティア様、先触れの騎士がやって参りました。ご一家がお出ましになられるようです」


 先触れと言っても、特に係の人が告げて回るわけじゃない。


 会場の出入り口から現れた騎士の一団が向かい合って一定間隔で並んでいくと、人の波が自然と割れ、国王陛下のお進みになる道が現れた。


「レナーティア様、あちらが空いております」

「ありがとうございます」


 緊張はあるけど、国王陛下には一度お会いしていた。


 それに、この場で進み出てお話をするわけじゃない。


 その役割はたぶん、騎士に付き添われて王の道の脇に立つ数人の招待客だ。


 軍服を着た老人や、私より幼い少年もいる。……ずいぶん緊張してるけど、大丈夫かな?


 しばらくして、会場が一瞬しんと静まり、続いて大歓声が上がる。


「国王陛下ばんざーい!」

「フラゴガルダばんざーい!」


 いよいよ、国王ご一家の御出座だ。


 露払いの騎士と侍従が見えてきて、国王陛下とご家族が……。


「……え!?」


 ヴァリホーラ陛下は先日お会いしたばかりなので、もちろん分かる。


 その左右、第二王女アジュメリナ殿下と第三王女ソラメリナ殿下は、それぞれ母親らしい女性と手を繋いでいた。


 でも。


 本来ならば、国王陛下の隣に立つべきフェリアリア王妃陛下のお姿は、『国王ご一家』の中になかった。


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