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皇宮女官は思ったよりも忙しいけれど、割と楽しくやってます!  作者: 大橋和代


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第十九話「縁」

第十九話「縁」


 屋敷に戻って公用馬車を帰す頃には、夕暮れ時になっていた。


 まずはお母様に、三人のお客様を紹介する。


「お母様、こちらは近衛第三中隊の騎士マッセンと騎士リュード、同じく近衛女子隊の騎士シェイラ。本日のお客様です」

「ようこそ皆様。レナーティアの母、フィリルメーアと申します。ご公務、お疲れさまです。ゆっくりしていらしてね」

「はっ、ありがとうございます! 本日はお世話になります!」


 応接室でくつろぎつつも、騎士リュードを私が好きな人、という意味で家族に紹介するべきかどうか……という謎のプレッシャーに、若干落ち着かない私である。


 夕方にはお父様も帰ってくるはずで、一気に決めてしまいたい気分と、任務をきっちりやり遂げてからの方がいいんじゃないかとの迷いもあり、とても難しい。


「我が家は主人も息子も騎士ですから、羽根を伸ばされて結構よ」

「レナ様よりお伺いしております。レナ様のお父上は、帝都第一騎士団で教官をしておられるとか」

「え!?」


 騎士シェイラの何気ない一言に、騎士リュードが固まった。

 驚きの表情で、ぎぎぎと私の方を見ている。


 な、何事!?


「ああ、そう言えばリュードは帝都第一の出身だったな。知らなかったのか?」

「はい。あの、まさかとは思いますが……」


 騎士リュードはごくんと息を呑み、天井を見上げて大きく息を吐いてから、もう一度私を見た。


「ご子息が騎士で娘さんもいらっしゃる教官となれば……騎士ゴトラールしか、思いつかないのですが……」

「ええそうよ! もしかして、騎士リュードは主人の教え子なのかしら?」

「従者として一年弱、ご指導戴きました」

「あらまあ、すごい偶然ね! 主人が帰ってきたら喜ぶと思うわ!」


 ……え!?


 じゃ、じゃあ、舞踏会で出会ったあの時、『従士』リュードはお父様の従士で……。


 思わずじっと、見つめてしまう。


 いやほんとに、なんたる偶然!


「失礼いたします。旦那様がお戻りになられました」


 ぎいと扉が開き、そのお父様が、茶道具を持ったライナと共に入ってきた。

 今日はお早いお帰りだったようだ。


「お帰りなさいませ、お父様!」

「やあ、ただいま、レナ。騎士の一団を連れてきたと聞いたが……」


 騎士三人が振り返り、さっと立ち上がって胸に手を当てる敬礼をした。


 流石は近衛、切り替えも早ければ格好もいい。


「騎士ゴトラール、ご無沙汰しております!」

「リュード!? いや、久しぶりだ! 近衛はどうだ? 色々忙しいと聞くが……」

「はっ! 騎士ゴトラールのお陰をもちまして、つつがなく任務に精励出来ているものと自負しております!」


 お父様は一瞬驚いてから相好を崩し、三人に近づいた。


「それから……」

「自分は近衛騎士団第三中隊、騎士マッセンであります!」

「同じく近衛騎士団女子隊、騎士シェイラであります!」

「帝都第一騎士団練成隊主任教官、ゴトラールだ。レナの父親としては、ファルトート男爵を名乗るべきかもしれないが、それは気にしないでいい。私は同じ騎士として、諸君らの逗留を心より歓迎する。……ああ、そのまま掛けなさい」


 空いた椅子を自分で持ってきたお父様は、どっかりと座られた。


 ふむと、全員の顔を見回し、ため息をつかれる。


「しかし、レナ」

「はい、お父様?」

「近衛騎士を三人も連れてきて……まあ、女官から騎士に転向するのは止めないが、ハーネリ殿にだけはきちんと説明して、お詫びをするんだよ」

「お父様、流石にそれは先走りが過ぎるというものです」

「む?」


 お父様達に、女官のお仕事で竜を狩りに実家の領地へ行くこと、三人はその護衛であることなどを手短に伝える。……事件のことは、両親とはいえ何処まで話していいのか判断がつかないので、触れないでおく。


 お父様は、そういえばそんな時期だなあと、私を見て頷いた。


「女官の仕事で竜を狩るというのはよく分からんが、まあ、気を付けて行ってきなさい」

「騎士ゴトラール、あの……お嬢様が竜を狩りに行くというのに、何故それほど落ち着いていらっしゃるんです!? 剣も魔法も嗜まれているとは、存じておりますが……」


 騎士リュードは心配そうな表情で、お父様は半ば呆れた表情で、それぞれ私を見た。


 小さく頷き、大丈夫ですと口にする。


「今更隠さんでもいいか。我が家では、いつもの夏の風物詩だ」

「そうねえ。この子が初めて竜を狩ったのは、十の時だったかしら」

「……は?」


 お母様の一言に、騎士三人の視線が、こちらを向いて固まった。


 肩をすくめ、にこっと微笑んでおく。


「おいおいリュード、こりゃあ『僕が守る』どころじゃねえなあ?」

「ふふ、頑張って下さいね」


 両脇からつっこみが入り、騎士リュードが頭を抱えて俯いてしまった。


 ……多少、ごめんなさいという気持ちはある。


「どうかしたのかね、リュードは?」

「騎士ゴトラール、こいつ、お嬢様に『僕が絶対に、レナさんを守りますから!』と抜かしまして!」

「ちょ、マッセン先輩!?」

「レナ様も、とても嬉しそうに受けられていました!」

「騎士シェイラ!?」


 二人とも、同僚や護衛対象を追いつめてどうするの!?


 ちらりと騎士リュードを見れば、真っ赤になっていた。……私も似たようなものだけど。


「あら、あらあら! あなた!」

「ふむ……」


 お父様達は、顔を見合わせた。

 お母様は嬉しそうだけど、お父様は肯定否定よりも、困惑の方が大きいようだ。


「ま、まあ……うん、レナも満更ではないようだが……仕事中は、そちらに専念するように」

「そうね。まだ仕官して数日、初の大仕事なのだから、浮かれて失敗なんて恥ずかしいわね」

「は、はい……」


 お父様もお母様も、私と騎士リュードとのおつき合いについては、明言を避けられた。


 否定的ってわけではなさそうだけど、私は今十六歳で、嫁に出すには少々早い。……庶民なら幼妻も多いけど、貴族ならどこかの女学院に通っている歳だった。


「しかし、リュード……」

「はい、騎士ゴトラール」

「知り合ってまだ三、四日だろう? 早くないか?」

「いえ、あの、レナさんと知り合ったのは、従士の頃です」

「なんだと!?」


 よ、よし、ここは援護射撃しかない!


 恥ずかしかろうと何だろうと、騎士リュードのフォローが最優先だ!


「お父様、騎士リュードと初めてお会いしたのは、学院の授業で招待された帝室主催の舞踏会です」

「まさか、パートナーだったのか!?」

「はい!」

「まあ素敵!」


 会場では、家名の名乗りは交わさなかったけれど再会を約束していたこと、そして、出仕の初日に偶然、柏葉宮の前で再会が(かな)ったことを付け加える。


 お父様はまだ悩んでおられたけれど、大きくため息をついてから居住まいを正し、騎士リュードをしっかりと見据えた。


「リュード……いや、騎士リュードのことは、元主人として『良く』知っている。その上で敢えて聞くが、レナの事は……」

「騎士ゴトラール。我が名に……我が家名と我が剣に賭けて、誠実たることを誓います」

「そうか。……うむ、その辺りの話は、レナが無事に任務を終えてから、もう一度話し合おう。家のこともあるが、流石に心の準備も必要でな……」


 もう一度、大きなため息をつかれたお父様は、ソファにもたれ掛かった。


 おつき合いは保留になったけど、幸い、騎士リュードのことを認めない、という雰囲気じゃない。私が若すぎることと、騎士リュードのご実家と家同士で話をしてからの方がいいだろうという理由なら、それもそうかと思ってしまう。


 ……お父様はご存じのようだけど、やっぱり騎士リュードは、どこかの名家のご子息らしかった。




 夕食後、お父様秘蔵のワインが振る舞われて、皆で乾杯の後さんざんにからかわれ……私と騎士リュードは、一階の隅にある小さい方の書斎へと追いやられた。


 もちろん、二人で話したいこともあるでしょうとお母様が気を回して下さった結果なので、文句は全くない。


「……あの、レナさん」

「はい。……あ、私のことは、レナと呼び捨てて下さい」


 その書斎の中、私と騎士リュードは斜め向かいに座って、お互いに……照れていた。


「あ……。じゃあレナ、僕のことも、リュードと」

「では、リュード……さんと」


 あああ、もう。

 さっきとは別の意味で恥ずかしい。


 ほんのちょっとだけ、恋愛の過程をすっ飛ばして先走りすぎたかなと思う。実質、仮婚約の一歩手前だし。


 でも、恋愛の匙加減なんて、人生二回目の今だってよく分からない。


 たぶん、騎士リュード――リュードさんを好きな気持ちに嘘はないから、これでいいんだろう。


「レナ、昼間は皆がいたから、言えなかったけれど……」

「はい、リュードさん?」

「どうしても、告げておかなきゃいけないことがある」


 ふふ、真剣なお顔が近くて、照れくさい。


 これも慣れていかなきゃね。


「僕の、本名だ」

「えっと、はい」


 今の勿体ぶった口振りだけでなく、私の知るリュードさんの物腰や、お父様の態度などからして、ご実家はうちよりも上、伯爵家だったとしても不思議じゃない。


 うん、私も覚悟を決めよう。


 でなきゃ私は、竜を狩ることを受け止めて、それでも守ると言い切ってくれたリュードさんと、対等でいられなくなる。


「……リュード・アウスタイラス・レム・ガリアス」

「は!?」


 想定外にも程がありすぎるその名に、流石に頭が真っ白になって、リュードさんを見つめてしまった。


 家名の一つ前に入っているレムの称号は、貴族称号の一種ながら、指し示す家の格は貴族『ではない』。


 帝国でその称号が許された家は、ただ一つ。




「僕は先帝リューダイスの側室の子で、現皇帝リュークレスの異母弟になる。もちろん、元主人として、騎士ゴトラールはご存じだよ」




 私が暮らすこの巨大な帝国の支配者、ガリアス皇帝家である。




「……あ!」

「レナ?」


 そうか、そういうことか!


「リュードさん、謎が一つ解けました!」

「謎!?」

「一昨日、クレメリナ様のところにお伺いした折、皇帝陛下が、『近衛の騎士と恋仲だと聞くが、くれぐれも城内の風紀は乱さぬように』と、私に名指しで仰ったんです! これって、皇帝陛下が私とリュードさんの事をご存じってことじゃ!?」


 リュードさんは一瞬顔を引きつらせ、がっくりとテーブルに突っ伏してしまった。


「兄上、貴方という人は……」


 ……って、今言わなくても良かったんじゃないかな。


 たぶん、私もテンションが上がりすぎて、何処かおかしくなってるんだと気付く。


 もちろんすぐに、リュードさんの真似をしたくなった。


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