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第46話 イケメンチェック

 割れたランプの取替えなど、昼からの仕事を私一人でやる代わりに、夜に彼女から試合の様子などを聞く約束を取り付けた。

 今日の試合は北部 対 南部。試合の結果は壁新聞で知ることができるけれど、彼らがどんな活躍をしたのか、やっぱり生の声が聞きたいと思ったのだ。


「ランプ買ってきました」

「嬢ちゃん、そこのカウンターの上に置いてくれ」

「はい」

 昼からは大工のおじいさんと一緒に修繕をしている。最近の若者は試合だなんだと浮かれおって……とぶつぶつ言うおじいさんも、実は見に行きたがっていたことを知っているだけに、思わず苦笑してしまう。


 窓から外を見ると、真っ青な空が建物と建物の間から覗いていた。

 みんなが力を出し切れますように。あと、怪我しませんように。祈ることしか出来ないけれど、力いっぱい願っておこう。

「ちょっと、こっちのランプを支えていてくれ」

「こうですか?」

 天井のランプを交換するというので、下から渡せるよう両手で持つと、脚立に座っていたおじいさんは目を大きくする。


「……魔法が使えるのか?」

「へ?」

 魔法? 魔法って、私が?

 首をかしげると、彼は私が持っていたランプを受け取って、コンコンと工具で叩く。

「わずかばかりながら、強度が上がっておる」


 そういえば、候補生達の訓練を布巾干しながら眺めていたとき、フレンディさんが拳で地面をえぐったり、テオさんが盾の強度を上げていたのを思い出した。魔力を体や物の一部に込めるとそういうことも出来ると聞いてはいたが、見ているうちに自然と私にも身についたのかもしれない。

 世話係のことで頭いっぱいで、魔法の修行の話なんてすっかり頭から飛んでいたよ。おおう。

「はっ! 防具工房でバイトできるでしょうか? 割がいいって聞いたのですが」

「簡単なお守りくらいなら任せてもらえるレベルだぞ。丁度今は人手不足だし、紹介してやるよ」

「ありがとうございます!!!」

 ビバ、飯の種!


 魔力を使うと激しく疲れるから限界を知っておいたほうが良いと言われて、練習がてら酒場のランプに次々と魔力を込める。壊れにくいランプを使うからと、おじいさんが酒場の亭主に掛け合ってくれて、バイト代に色をつけてもらえることになった。

 本当に私の周りには良い人が多い。優しい人、親切な人、楽しい人。怒っているときもあれば、不機嫌なときもあるけれど、テオさんのような人もいると分かってから、上手く付き合えるようになってきたように思う。うん、人間的に成長したかもしれないよ! 私。




 そして現在、思っていたよりも少し重量を増したバイト代を手にしている。酒場での仕事を終えた私は、心地良い疲労感を覚えながら試合の様子を聞くべく待ち合わせ場所で立っていた。

 闘技場から出てくる人たちは興奮気味に「今年の騎士団候補生達はすごい」と語り合っているものだから、ついつい耳を澄ましてしまう。えーと、うん、南部チームは順調に勝ち点を稼いでいるらしいと、ふむふむ。


「イリーナー!! もー試合すごかったよお!!! きゃー!」

「でゅふ!」

 待ち人に思ってもみなかった方向から突撃されて、変な悲鳴が口から飛び出したよ。

 しかし、そんな私には構わず試合を観戦した彼女は興奮気味に語りだす。北部候補生達の武器が細身の剣であるのと対照的に南部候補生達の武器が拳であること、ガタイがやたらいいこと、チームワークに優れていること、機動力で先制攻撃したこと、フォーメーションによる攻撃等々話が途切れることがない。


 話を聞きながら、フレンディ副騎士団長の特訓の成果が現れていることに嬉しくなって、まるで自分が褒められているかのような錯覚に陥ってしまった。よせやい、照れるじゃないか……気分はそんな感じである。

 頭に思い浮かぶのは、彼らが練習する姿、食事する姿、そして笑顔。

 みんな頑張っているんだと思うと、心がじんと痺れ、懐かしい気持ちが広がった。


「あとね、あとね、北部は良い人いないなぁって感じだったんだけど、南部は誠実そうな人が多くって良い感じだよ。仲も良さそうだし」

 さもあらん。人柄の良さは私が太鼓判を押すよ! ガンガン押すよ! 中身は皆イケメンだからね。

 誰が良かった? と聞けば、彼女は赤いグローブのテオさんと、メンバーの中でも目立つ体格のベルナルドさんを挙げた。

「赤いグローブの人が南部の中では人気だね。短い黒い髪、少し太めの眉、パッチリした目、もう少し年を取ったら私のストライクかもしれない。あと、あの人が策を練って指示するとピタリとはまるというか、その辺も爽快!」


 テオさん人気なのか。それにしても、話に聞くと、テオさんちょっと散髪したみたいだな。あの人は結構俺様ですけどね。

「……あれ?」

「ん?」

 イケメンチェックといえば真っ先に出てきそうな人の名前が出ないことに首をかしげる。

「ヴィルは?」


 赤い髪ですらっとした長身のヴィルマーですよ! あれほど分かりやすいイケメンを覚えていないはず無いと主張してみるが、反応はクエスチョンマークのみ。髪を染めていると言っていたが、黒髪に戻したとしても、赤いグローブはテオさんだから辻褄が合わない。

 ヴィルは一体どこへ行ってしまったのだろう……?


 一抹の不安が胸をよぎる。フォーメーションの練習はいくつかしていたが、一番安定していたのは3つの部隊に分け、テオさんを中央に、ベルナルドさんを右翼に、ヴィルを左翼に配置したバージョンだったように思う。片翼がもがれた状態では厳しくはないだろうか?

「それで、今日の試合結果をもって南部チームがリーグ1位に確定したんだけど、赤いグローブの人、グローブが壊れちゃって……イリーナ、聞いてる? ちょっと、聞いてる?」


 思い出したのは、フレンディ副騎士団長に呼び出されたときに緊張した面持ちだったヴィルの姿。

 何かあったのだろうか?

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