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ボランティア活動

本日、10話同時更新。

この話は10話目です。

 3人を誤魔化しながら待っていると時間になり、子供の世話をしていた女性が音頭をとり始めた。まず軽い清掃作業参加に対する礼を述べ、次々と子供たちに仕事を割り振っていく。


 俺も他の子達と共に掃除を始めたが、今回は魔法とスカベンジャー達の出番は無し。使った方が断然早いけれど、周りの子供が一生懸命掃除してるのに効率的だからってスカベンジャーに頼むのはどうかと思い、普通に掃除道具で掃除をした。


 そのため広い教会の掃除は昼過ぎまでかかり、昼食として配られたサンドイッチを食べるなど、周りに合わせていたらお菓子の時間になっていた。相当楽しみにしていたようで、リックの落ち着きがなくなっている。


 貰えるお菓子はそんなに美味しいのだろうか?


「はい。今日はお手伝いありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 なるほど……配られたのはリボンで口を縛られた小さな袋。中にはクッキーが4枚ずつ入っている。子供達は皆この場で食べていくようなので俺も食べてみると、焼き菓子の香ばしさと控えめな甘さ、果物の香りが強いジャムのような物が少し乗っていて確かに美味かった。


 そしてサンドイッチとクッキーを食べ終えた子供達はそれぞれグループを作って庭で遊び始めたり、教会の入口の方を見て何かを待っている。


 ……遊んでる子達は分かるが、待っている子達は何を待っているんだろう?


 トール、リック、レニも何かを待ってる組に入っている。聞いてみるか。


「3人とも、何をしてるんですか?」

「おっちゃんを待ってる!」


 最初に答えたのはリックだが、それじゃ人を待ってる事しか分からん。


「掃除が終わったらいつも来るおじさんが居てね、そのおじさんから剣術とか戦い方を教えて貰えるんだよ」

「戦い方?」


 トールによると、掃除が終わった頃に必ず元冒険者の男性が来るらしい。その人は教会に寄付をするだけでなく、教会に住む孤児達が成長し教会を出ていかなければならない年齢になった時、しっかりと自立できるように戦い方を無償で教えている……つまりボランティアだ。


 そしてそのうち無償で戦い方を学べるとあって、清掃日には冒険者に憧れる男の子が一緒に訓練に参加するようになったらしい。訓練と言っても年齢に合わせて無理のない範囲で、俺や冒険者として活動している人から見たら大分ぬるそうだが、それは仕方ないだろう。


「リックは分かるけど、トールやレニも訓練に?」


 リックは腕白だから訓練に参加したがっても違和感はない。しかし、トールはそんなイメージ無いぞ。男の子だから冒険者に憧れてはいるのか?


「女の子が戦えちゃダメって事はないでしょ? 将来変な男に絡まれる事がないとも限らないし。それに、リックの面倒も見ないといけないしね」

「僕は母さんから少し体を鍛えなって言われててね……そんなに怠けてるつもりはないんだけど」

「性格がナヨナヨしてるからよ! 訓練すれば、もっとこう、男らしくなるでしょ!」

「う、うん……」


 なるほどな……と言うかトール、お前尻に敷かれてないか?


 そんな事を考えていると、周りの子供達が騒がしくなる。


「きたー!」

「おっちゃん!」

「顔の怖いおじさん、来たよー!」


 入口の方を見ると、確かに怖い顔の男性がこちらに向かってきていた。


「おい! 今顔怖いっつった奴誰だ! 一言余計だぞ!」

「あ……」


 大声を出した男性は冒険者ギルドのギルドマスター、ウォーガンさん。周りの子供達は慣れているのか大声を聞いても怯えず、むしろ体にしがみつきに行く子供も居る。そんな子達を相手にしていた彼の目が、突然俺の方へ向いた。


「おっ、リョウマじゃねぇか! お前さん何でここに?」

「今日は店が休みなもので何となく街をふらついていたら教会の清掃日の話を聞いて、参加してみたんですよ。こういう地域の人達との交流の機会には参加しといた方が良いかと思ったんです」

「そりゃ良い事だ。……そうだ、まだ時間あるならちっと手伝ってくれねぇか?」

「手伝い?」

「おう、ちょっと耳かせ……」

「……なるほど」


 話を聞いて手伝いをする事に決めた。広場で訓練を受けている子達がランニングや基礎訓練に励んでいる間、俺はディメンションホームからスカベンジャーを20匹出しておく。


「よし! 今日は普段より実戦的な訓練をするぞ! リョウマ、頼む!」

「了解」


 スカベンジャー達を引き連れて子供たちの前へ。子供達は俺が連れている20匹のスライムに驚いている。スライムとはいえ実際に魔獣を使った訓練は初めてのようだ。


「今日は皆、このスライム達を相手にしてみるんだ」

「怪我は回復魔法で治しますから、遠慮しなくていいですよ」


 怪我をする事があるのは子供達の方だと思うけどね。


 スカベンジャーの方はこれまでの訓練に加え、体術や物理攻撃耐性スキルを持ってる上に相手の得物は木剣。さらにそれを振るのは子供の腕力。スライムが怪我をする事はまず無い。


 念のためスライム達は回避に重点を置いて、攻撃は体当たりのみという条件を出してあるから子供達も安全だ。精々体当りされて体勢を崩して、転んですり傷ができるくらいだと思う。


「リョウマ、いいのか!?」


 問題ないと答えると、聞いたリックが最初にやりたいと言い出した。

 ウォーガンさんに目を向けると、いいらしい。やらせてみよう。


「いくぞー!」


 自分に気合を入れるように宣言したリックが子供の訓練用の木剣を構える。他の子供がその様子を真剣に見守る中、両者は正面から相対した。


「……」


 スカベンジャーは自分から攻撃に向かわず攻撃をじっと待つ。その様子を見たリックは動かないスライムに狙いを定め、剣を上段から振り下ろした。


 しかし多少型を学んだだけの剣。まだまだ大振りで隙が多くて遅い。リックの歳だと仕方ないと言えば仕方ないが……当然、スカベンジャーには避けられる。


 それが悔しかったのかリックは次々と攻撃を繰り出し始め、段々と剣術の型も崩れてただ剣を振り回すだけになってしまった。それが数分も続けば次第に疲れ始め、剣を振り上げた直後、がら空きになった胴にスライムの体当たりが綺麗に入った。


 痛みは無かったようだが、軽く突き飛ばされる感じでリックは尻餅をつく。


「そこまで! リック、お前さんはまだまだ体が小せぇし、訓練も本格的にはできてねぇ。負けても焦る必要はねぇぜ。だが、攻撃を避けられたからって頭に血が昇っちまうのは今から気をつけておけ。さっきのお前さんは最初以外型が滅茶苦茶、隙だらけだ。1つ1つの動きを丁寧にする事を考えろ」


 リックは悔しそうに頷き、観戦していた子供達の中に入っていった。





 それから全生徒が1人1回ずつ皆の前で戦い、ウォーガンさんから指摘を受けていく。


「よし! それじゃ俺が教えたことを考えながらもう1回戦ってみろ!」


 場所とスライムを分けて一斉に練習をさせる。一部打ち込みが弱いと指摘された生徒には、頑丈なアイアンとメタルを提供してそちらで打ち込みの練習をしてもらう。


 俺はその間を見回って様子見と回復魔法を担当。ウォーガンさんは見回りながら個々に指導。そんな訓練は夕方まで続き、暗くなり始める前に終了となった。




「おっちゃんバイバーイ!」

「気をつけて帰れよー!」


 帰っていく子供達を見送り、俺とウォーガンさんはようやく一息つけた。やったことは見回りだけだが、いつ子供が思わぬ怪我をするかもしれないという状況は普段と違った緊張感がある。事故もなく終わってよかった。


「お疲れ様です」

「おう、お疲れさん。今日は助かったぜ」

「こっちも今日は暇でしたから。休みを取ろうと思ったは良いものの、いざ休むとなると暇を持て余してしまうので、ちょうど良かったですよ」

「そうか? ならまた暇があったら子供達の訓練に付き合ってやってくれ。お前さんのスライムはあいつらのいい訓練相手になる。なんなら冒険者ギルドで新人教習の仕事を受けてくれても良いぞ?」

「それは……」


 敵役であればまだいいが、教官役となると返答しかねる。仕事では部下を持って教育した事は何度もあるが、戦闘技術を人に教えた経験は無かった。経験のある仕事でも、俺自身の指導力も決して高いとは言えない。


 教えることは自分のためにもなるとは思う。しかし教える相手は新人冒険者。その技に自分の命を賭けていくことになると考えるべき。生兵法は大怪我の元だ。やるならばちゃんと指導の仕方を学び経験を積んだ師匠の下で学ばせるべきだろう。


 それに俺が技を教えるとしたら、まず思い浮かぶのは親父のやり方。


 基本的に技を教えたら即実践。組み手の繰り返しだけれど、攻撃は当てる。倒れれば追撃。起きなければ更なる追撃。起きるまで追撃。寸止めも中断も一切無し。とにかく止めない(・・・・)のが親父のやり方だった。


 攻撃を受けようが倒れようが、敵が待ってくれるわけがない。


 その考え方自体は正しいと思っている。しかしそれを俺が真似すると怪我人を量産しかねない……というのも、俺は人相手にあまり手加減をしたことがない。


「そうなのか?」

「相手が1人だけだったもので。師匠相手に手加減とか必要無いでしょう?」


 前世も現世も、弟子入りする人は大勢いるだろう。しかし師範に対して手加減する奴がどこにいるのか。いたらそいつは師匠をなめているも同然だと思う。そして実戦であれば手加減をする必要は無い。


「そりゃそうだが、友達とちょっとした喧嘩とかした事くらいあるだろ。それに襲撃されて相手を捕まえてたじゃねぇか」

「喧嘩程度で軽々しく技を使うべきではありません。まずは対話を試みるべきです」

「なんだそのお利口な答えは。正しいけどよ」

「襲撃とか盗賊であれば問答無用ですが手加減も無用。どうしてもという時は素手で手足を狙えばいい。頭や主要な臓器のある胴体より、全力で攻撃しても相手を殺しにくいと学びました!」

「……そういやお前、骨を折ってたな。さもなきゃ薬かスライムの液で執拗に固めるか」


 ただ力の使いどころを弁えれば手加減はほぼ必要ない。よって力は0か100のどちらかでいい、というのが代々の教えだ。手加減をした経験が一度もないとは言わないが、前世の喧嘩などはほとんど受け身だった。暴れる方がはるかに面倒事を増やしてしまう社会の中で、それを問題と感じたこともない。


 ただその弊害か……スライムに技を教え始めた当初、訓練中の事故死が多発したりもした。そしてつい先日、店の護衛としてドルチェさんを雇い入れた際にも失敗している。


「お疲れ様でした」


 言葉を選んで話していると、修道女のお2人が飲み物を運んできた。


「ウォーガンさん、本日もありがとうございました」

「リョウマ君もありがとう。これはお礼です」

「ありがとうございます」


 ありがたく頂いておこう。


 それから少し話して、俺のステータスボードを作った女性がベッタさん。少女がベルさんという名前だと知った。驚いたことに、この広い教会を2人だけで管理してるらしい。建物の管理に、親のいない子供も引き取っていたはずなのに……


「人手が足りないんじゃないですか?」

「楽ではありませんが、これも修道女としての修行です」

「ご心配ありがとうございます。同じように考えてくださる子供達や、街の大人達にも支えていただいてますから」


 と、問題ないことをアピールされた。


 なお、俺が聞くばかりではなく向こうからの質問もきた。


「スライムの飼い方は難しいのでしょうか?」

「やはりまず従魔術を習得するべきでしょうか?」


 どうもこの2人、スライムを教会で何匹か飼いたいらしい。スライムに関する質問ばかりだ。


 とりあえず丁寧に答えておいたが、最後にどうしてスライムを飼いたいんですか? と聞くと……


「今日の様子を見ていて、スライムが可愛らしいと思いまして」

「従魔術で安全を確保できていれば、子供達の情操教育にも良いかと」


 良いのか!? スライムを情操教育に……小学校で飼ってたウサギみたいなもんかね? というか、この世界に情操教育って考え方があるのか。……とりあえずまだ本格的に決めた訳じゃないらしいが、今後取り入れるかもしれないと2人は言っている。


「では決まればまたそのときに。私でよければいつでも相談に乗りますから」

「お願いできますか? ありがとうございます」


 話はひとまず区切りがついた。空もだんだん暗くなってきたし、そろそろお暇しよう。


 そう伝えて教会を後にする。




 その帰り道。今日一日を振り返ってみれば、これまでとは少し違う日だ。


 教会の清掃活動……誰からも違和感なく受け入れられていたと思う。


 地域の催しに参加して、だんだんと街の一員として馴染めている気がしてきた。


 ……明日も頑張ろう。

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― 新着の感想 ―
情操教育なら小型の獣型魔獣でいいじゃん… なんでこの作品こんなにもスライムおしなの? タイトルにスライム入れたほうがいいよ まあ今から変えるの無理だと思うけど
アイアンやメタル相手に本気の打ち込みはきついのでは…
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